『君と酒と偽りと 2』 京一は1人、学校の屋上で寝そべっていた。 目を閉じれば・・・思い出すのはあの夜のこと。 ・・・酔っていた?酔っていただって!? 冗談じゃないっ!と京一は思う。 あの時自分は、これっぽっちも酔っちゃいなかったのだ。 確かに・・・自分は酒に強い方ではない。でもあの時だけは、誓って酔って はいなかった。いや、酔えなかったのだ。 あの時のひーちゃんは、そりゃもう苦しそうで・・・正直見ているのがつら かった。 ひーちゃんは、比良坂が自分をかばって死んだことにひどくショックを受け、 自分を責め続けていたのである。 もちろん美里たちの前では、そんな悩んでいるという素振りは全く見せてい なかったし、誰も気づかなかっただろうけれど、京一だけは気づいたのだ。毎 日、龍麻だけを見つめ続けている京一だけは・・・。 京一は、悲しかった。 ひーちゃんが自分を頼ってくれないことが。 そして・・・自分が苦しんでいるひーちゃんに何もしてやれないことが。 そんな中、京一は1人暮らしの自分の家に、龍麻を呼んだ。 最初はいつもどおり他愛ない話ばかりしていた。 しかし、近所の自販機から調達してきた缶ビールやらなんやらのアルコール を飲み出してから、何かが微妙に狂い始めたのかもしれない・・・。 「ひーちゃん。」 赤い顔をした京一が龍麻の名を呼ぶ。 「何?」 龍麻がやはり少し潤んだ瞳を向けると、京一の表情が急に真剣なものへと変 わった。 「ひーちゃん、正直に言えよな。」 「うん?」 きょとんと見返す龍麻。 「比良坂のこと・・・今も自分を責めてんだろ?」 「えっ?なっ・・・急に何言ってんだよっ。」 「正直に言えよっ!」 京一が声を荒げる。 龍麻は一瞬声を失って・・・それからゆっくりと口を開いた。 「そうだよ。当たり前じゃないかっ!俺がいなかったら、彼女は死なずにすん だんだからなっ。」 「・・・・・」 “正直に言えよ”と言ったわりに、本当に正直に返されると、情けなくも今 度は京一の方が言葉を失った。 “でも・・・”と龍麻が続ける。 「俺が比良坂のことで自分を責めてるからって・・・それがどーだっていうん だよ!?」 吐き出すような口調だった。 「見ちゃらんねえんだよっ。俺・・・俺は、ひーちゃんのこと救えないのか? いや、せめて俺になんかできることはないのかよ・・・。」 絞り出すような京一の声。 「京一・・・。」 龍麻は京一の意外な言葉に、思わず目を見開く。 「俺・・・俺は・・・ひーちゃんに笑ってて欲しいんだよっ!いつでもあのキ レイな笑顔でいて欲しいんだっ。」 京一のその言葉は・・・龍麻の心に響いた。 「京一・・・。」 龍麻の瞳から、自然と涙がこぼれ落ちる。 京一はその涙に惹かれるように、龍麻の腕を取り、引き寄せ、そして優しく 抱きしめるのだった・・・。 「龍麻ー。好きだよ。」 先にキスしたのは、どちらだったのか。 気がついたら、舌を絡め合ってた。 そのまま性急に龍麻を床に押し倒し、さらに唇を深く貪る。 酔っているためか、龍麻はロクに抵抗らしき抵抗も見せず、されるがままに なっていた。 京一の中で今までくすぶっていた何かが弾けた。 「んっ・・・。」 龍麻の口から艶やかな声が洩れる。 京一の熱がさらに煽られ、上がってゆく。 「龍麻・・・。」 あっという間に龍麻の服は全て剥ぎ取られ、最後の1枚―下着―に手をかけ ていた京一は、それすらも一気に足元まで引き下げ、取り払った。 「あっ・・・。」 一糸纏わぬ姿になって、羞恥のためか微かに龍麻の顔が赤くなる。 京一は、自分も全ての衣服を脱ぎ捨てると、そのまま龍麻に覆い被さった。 2人の鼓動が近づく。 それからはもうただ熱くて・・・。 そうすることが当たり前のように、2人は何度も抱き合った。 ―――そうして夜は更けてゆく。 「ちくしょーっ。」 回想に耽っていた京一は、甘い時間を過ごした翌朝の龍麻の言葉と態度を思 い出し・・・思わず拳を握りしめた。 酔っていたわけがない。だって・・・だって・・・ 「俺は龍麻のこと愛してるんだからな・・・。」 呟きは、誰にも聞かれることなく風に消えてゆく。 酔えるわけねーじゃねーかっ。たかが酒ごときで。 目の前に龍麻がいたというのに・・・。 「俺が酔うのは、龍麻にだけだ。」 2度目の呟きも、やはり風に吸い込まれて消えていった・・・。 【3へ続く】 |