『君と酒と偽りと 1』
京一が目を覚ますと、龍麻はまだ隣りで眠っていた。
ほっとしたような困ったような・・・複雑な心境で龍麻の寝顔を見つめる。
しばらくすると、うーんとうめいて龍麻がパチリと目を開けた。
「あっ、おはよ。京一。」
いつもと全く変わらない声。
「あっ、ああ。おはよう。」
少々面食らいながらも、京一はなんとか声を絞り出した。
しかし頭の中では、あらゆる疑問が溢れ返っている。
・・・ひーちゃんは夕べのこと覚えていないのだろうか?とか、覚えていて知らんふり
してるのだろうか?とか、はたまた俺がうろたえる様を面白がって見ているつもりなん
だろうか?とか・・・。
か、考えてても仕方ねぇ。とにかく確かめないと!
心の中でよしっと握りこぶしを作り、勢いこんで口を開く。
「ひーちゃん。あ、あの・・・あの・・・ゆ、夕べのことなんだけど・・・。」
勢いのわりに声が裏返ってしまっているあたりが情けない。
それでも京一は頑張って続けた。
「俺達がその・・・Hしたこと・・・お、覚えてるよな?」
口を閉じ、おそるおそる見上げた視線の先で、龍麻は目を丸くしていた。
ええっ!?ま、まさか忘れちまってるのか?
心臓が恐怖の予感に震える。
しかし次の瞬間、予想に反して、龍麻の口許に薄っすらと笑みが浮かんだ。
「ひーちゃん?」
龍麻は京一をいつもと変わらない穏やかな表情で見つめながら・・・こう言い放った。
「覚えてる。でも忘れるから、京一も忘れて?」
その意味を理解するのに、数秒を要した。
な、なんだって!?
京一は怒りに震え、龍麻を燃えるような瞳でにらみつけた。
「なんだよ?そりゃっ。」
龍麻はそんな京一の怒りを軽く受け流して、冷静に言葉を続けた。
「だからそのままの意味。酔った勢いとかよくあることじゃない?あ、あと若気の至り
・・・とかいうのかな?」
「勢いって・・・そんなっ」
反論しようとした京一の声に龍麻の声が重なる。
「と・に・か・く。京一も酔ってたし、俺も酔ってた。だから夕べのことはお互い忘れ
よう。なっ?」
強い語調で言われて、京一は言いかけた言葉を飲み込み、唇を噛んだ。
その後。
“2人とも学校を休んだらサボリだと思われるから”という龍麻の強固な主張によって、
京一は無理矢理外へと放り出された。
それでも、「俺が帰って来るまで絶対ここにいろよな!」と釘を刺すことだけは忘れ
なかった。
龍麻が殊勝に「わかった。」と頷いたので、渋々ながらも学校に行った京一だったの
だが・・・。
―――帰って見ると、龍麻の姿はどこにもなかった。
【2へ続く】
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