終 着 の 浜 辺   


    目覚めるたび彼は穴をでて浜辺を歩く。
    そのたびに波は死体をうち寄せている。

            水にふくれてどこかを魚に食われている。
            日にさらされかわけば鳥が来てついばみ、
            波と砂にもまれやがて身体を崩していく。

  骨が白くくだけ風がその最後をはこぶまでを、
  彼はみちひく波ぎわに立ちつくすまま眺める。

                       ずっと、彼はそうしてきた。
                       そしてふたたび穴にもどり、
                       闇のそこに顔をむけて眠る。


                                    終着の、浜辺。


      ある日運ばれた死体はまだ生きていて、
      それは顔をあげて彼を見そして死んだ。
      彼の全身を映す目が焦点をひらく様を、

  つねと変わらずに見おろしながら、
  彼はそれにとらえられたまま居た。
  魚と日と鳥と波と砂と風と彼とが、
  つねと変わらずに死体を消しさる、
  彼はそれにとらえられたまま立つ。


                                    終着の、浜辺。
                                    死体は同じ顔。
                                    どれも彼の姿。                                 
◇終着の浜辺◇完


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