( 無 題 … 踊 る 娘 ) |
王は、踊る娘の夢を見た。 柔らかな、月と星の光を浴びて、すり切れたスカートをいっぱいに広げ、娘は何度も回転を繰り返す。髪が風をはらんで流れ、時にはさかまきすらする。逆光で顔が見えないことを、王は恨めしく思った。 翌晩も、同じ夢。更に次の夜も彼女は、変わらずに踊り続けていた。スカートの色は変えられている。今度のエプロンは少しだけ新しい。夢は同じものではない。 ようやく、王は娘に声をかけることを決意した。 驚かすことなく、楽しげな旋回を妨げる愚を犯さず、その顔を上げさせたいと思うと、それはとても難しく、何度もためらい、何度も声を出し損ねた。 王は苛立った。修めてきた何も、彼の小さな行動の足しにはなっていない。常に細心の意を払い耳をそば立てて待つ重臣しか、動かせないのか。 幾晩めかの、もうないかと不安をつのらせた明け方に、王はようやく娘の耳に声を届けるのに成功し、彼女は顔を上げた。 思い描いたとおりの、美しくかげりのない顔だった。 が、彼女は少し顔を傾げ、王の遙か先に目を向けたままで、しばらく動きを止めて待った。 穏やかに、風が吹く。 娘は、「きれいな星」と言って、また踊り始めた。 |
◇(無題…踊る娘)◇完 |
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