人 外 魔 境   


               「気持ちが安らぐって言ったら変だけど。」

               顔を和らげながら、友人が言う。
               「ここに来ると、自分が何にも縛られてないんだと、
                                  いつも思えてくるんだ。」
               実感そのままの言葉だろうと、
                      魔界と人界の狭間に居を構える男は思う。
               そしてまた意地悪く彼を責め立てる。
               「両方に干されるのだとは、なぜ考えないんだ?」
               「ああ、そうだね。」
               毎度ながら相手は感心し、勧められる杯を一息に干す。
               「そこに魔物が棲んでいるからか?」
               己の問いに自嘲で答えて、彼は何杯も酒をあびる。

               「いや違う、人でない者が迎えてくれると、
                                  わかっているからだよ。」
               どこが俗にまみれた人間なのか、
                                 友人は目だけ笑わずに、
                             彼に向けて乾杯の仕草をした。
◇人外魔境◇完

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