ジ ン バ ブ エ   

 「まったく、何だってこんなもん造ったんだろう?」
「おもしろいじゃないか。壁のための壁なんて、いかにも哲学的だ。」
 一人が不満を言えば他が反論に回る、それだけのことで、どちらにも確たる理はない。
 「けどさー、やっぱし、造ったんだよコレ。凄ぇ…」
「そうだねぇ。」
 こちらでは逆光に手をかざして望む隣に、もう一人が立ったままで同じ方角を眺める。
 四人は古代の建造物の上にいる。壁はそこでは幅も狭くなっていて、動くには多少のバランスを図る必要があった。むろん、余程の物好きか変わり者でなくとも、人間の居られる場所ではない。
 目の前にも、同様の壁がそびえる。
 見下ろせば既に降りた一人が、二つの壁の間に狭まった道を向こうに歩いて行く。その先を辿っても、壁はゆるく楕円を描いて続き、歩く者の背に繋がる。
 「これって、あいつの言う、楽園みたいなもんかな?」
 相棒に放られて、両腕をひろげて無謀にもスキップで渡ってきた彼は、もうその冒険に成功を収めて、機嫌がいい。
 「んないいもんかねー… ここ、石しかねーじゃない。」
 確かに石の壁が囲ってはいる。が、あるのも石の塔。その中にもぎっしりと石が詰まっているのだと、下を歩いていく博識の連れに聞かされていた。
 上に立つ哲学徒は、それに可能性を加える。
 「あれかなあ、どこかの遺跡の塔に、素焼きの人形なんかがいっぱい入っていたって…」
「まじない?」
 見上げて尋ねる顔に、頷いて答える、うん、そうだろうね。
 「まじない、ねぇ。こんだけドデカイ代物を…」
 「宗教とか信仰って、そんなもんだろうけども、さ。」
 そう言い置いて向こうの壁に飛び移った、宙空の散歩者がバランスを崩しかけてあわただしく腕を動かすのを、また残された二人は始めと変わらない姿勢のまま、半ばあきれ顔で眺める。
 よいしょ、と声をかけて立ち上がると、風は案外と冷たい。ここは、かなりの標高になる。
 「そんなもん、ですかねぇ…」
 そう言った主を真似てスキップを始めた彼に、後ろに立ったままの連れが低く笑った。
 おおい、そろそろ行くぞ。よく通る声が下から届く。それは両脇にそそり立つ壁の間で小さく澄んだエコーを重ねた。たとえば、ここで誰かが祈りを捧げたのかもしれない、高々と。
 もう宵闇が降りる頃、四人は壁の集落を離れた。
 上空からはあちこちに、規模こそ違え同様の楕円の枠がいくつも白く浮かんで見えた。

 もう一人と落ち合うまでの時間潰しは、それで終わった。
◇ジンバブエ◇完

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