飛   翔   


          夜半、月が美しい。
          光を杯に受けあおれば酔いが心地良く、
          魂を誘いに人の世に足をのばす。
          この世にも変わらず月が美しい。
          更に何やら怪しげに色帯び、
          ささやかに闇を覗く心くすぐる。

          知っているか?
          たとえばこんな光浴びて、
          男はかぶりおおせた皮を脱ぐが、
          女は狂気を身籠もるのだと。
          月の裏と誓った女の噺を、
          聞いたことがないか?

          どれもこれも、まやかしの言葉。
          闇に怯える者の、借りて治める輩の、
          都合のいい口実をお前が信じることはない。
          隠された言葉を、暗がりに見える指を、
          代わりに真実を。
          お前には見せてやろうか?

          悪魔に見えるこの姿で。
                                                                       ◇飛翔◇完

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