FIRE AFTER FIRE   


 焼け落ちた街が、ガス雲の薄明るさの中に濃い闇を作る。その更に向こうに点った光に目を凝らす傍らで、今夜の相棒が口を開いた。
 「オレは… ここを出る。」
 驚いて顔を向けたが、暗がりと影しか見えない。
 「食料は半年保つが、神経の方が先に参るだろう。」
 小さな光が弱々しく瞬く、それに目を戻して答える。
 「その時には、あんたならリーダーになれるだろうと思ってたのに。」
 「こんなところで生き残ってどうする。殺し合うんなら外の方がまだいい。」

 ある日、突然に走った炎に総てが呑まれた。逃れた先のシェルターに孤立して、既に双月近い。事の真相を知りようもなく、噂と呪詛の言だけが『敵』の姿を形作っていく。夜を徹する見張りでも、地に残る熱が廃墟を揺らがす他には何も見ないというのに。
 遠い明かりが近づく気配はないようだ。しばらく考えてから尋ねる。
 「あんたに付いて行ってもいいか?」
「なぜ?」
 即座に問い返され、詰まりながら言葉を選ぶ。
 「生き延びて、確かめなきゃならないことがある。」
「なにを? それを確かめてどうする?」
 見えているのは星かもしれない。瞬くのは雲がよぎるせいかと、そう思うのも願望かと、黙ったまま眺める。


「これが何なのか。…最後に、火を放ったのが誰なのか。…あの時、仲間達の言ったように、ここで罵られるように、本当に『彼等』なのか…。」
 互いの顔も見えない中で、相手の目が強く光った。低い声が問う。
 「それで、本当ならどうするんだ?」
「人なら諦める。『彼等』なら、必ず捜し出して、言ってやる。こうして、最後に見切るのなら、あの『訓え』は何だったんだ、と。」
 幾度も、放りだしてから、その度に己の愚かしさを笑ってきた。これもそうであればいいと願いながら、そしてまた今度も、妄信の果ての否定をたたきつけるのだとしても。
 「…それまでは、お前は無敵に強そうだな。…いい相棒になりそうだ。」
 返る声が、ただ笑いを含む。

 もう一つ、更に弱い光が見えた。人工にしては位置が高い。
 「…雲が切れたらしい。…星だ。」
 相手も半身を起こしていたらしい、指先だろう白さが指し示す先を見た。そして、彼は素早く立ち上がる。
 「往くぞっ」
 問う隙もつかめずに、背後を振り返り身につけた以上を持ち出せないことを合点する。
 相棒を追って、闇の先に走り出した。
◇FIRE AFTER FIRE◇完


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