#467 何でもアプリはご勘弁

2023/05/11

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 久々に家族で近場の観光地に行くことになったと思っていただきたい。少し前のガイドブックによれば、その観光地に行くための往復の乗車券と、観光地で使える割引券がセットになった切符が売っているそうである。もちろん、それぞれを都度購入するよりもだいぶ割安になっているので、その切符を家族分買うことに決める。

 その切符を駅で購入しようと、乗る予定の電車が出る10分前くらいに駅に着く。券売機でその切符を買おうとしたが、メニューのどこを探しても見つからない。仕方がないので駅員を呼び出して尋ねると、その切符はスマホアプリのみで扱うことになったとのことである。

 駅員がやってきて、そのスマホアプリのインストールから切符の購入までを指南した説明書を持ってきてくれる。一人ひとりスマホにアプリを入れろと言われなかっただけましだが、まずアプリをストアからインストールして、ユーザー登録をして、決済のためのクレジットカード番号を登録して、ようやく目当ての切符を3人分購入手続きをして…、とやっている間に乗る予定だった電車は先に行ってしまう

 ようやく無事に家族分の切符を購入する。切符そのものはQRコードを読ませる形になっており、駅の改札や観光スポットの指定された場所でカメラつきのタブレットなどにかざしてそれを読ませるというシステムになっているらしい。しかし場所によってはその動作を人数分繰り返す必要があったり、読み込みがうまくいかないこともあった。

 このシステム、果たして利用者のためになっているのだろうか?

 サービスを提供する会社側にとってメリットが大きいのは確かだろう(そうでなければシステム導入の意味がない)。多種多様な切符をアプリの設定一つで提供を開始したり終了したりできるし、価格改定なども容易にできる。切符の販売も、アプリがあれば駅に行く必要なくどこでも購入できる。

 一方で、従来ならば紙の切符であったものをスマホに代替させるのは、利用者の立場としてはあまり便利な感じはしない。切符を買った証明がスマホでしかできないので、スマホの電源が切れたら最後、切符を無くしてしまったも同然である。旅行中は地図を見たり調べ物をしたりあるいは写真を撮ったり、何かとスマホを使う機会が多いので、スマホの電池が減るのも早い。結局その旅行中は、家族分の切符が使えなくならないよう、スマホの電池残量をずっと気にしながら行動せざるをえない。

 一方で、切符の内容確認をQRコードにするのも、むしろ紙の切符よりも偽造を容易にしてしまう。(件の切符の場合は、偽造防止のため、QRコードのほかに現在時刻を1/1000秒単位で表示をさせていた。)複数人の切符を一人が代表して持っているようなケースでは、結局人間による確認が必要になってしまう。

 これに限った話ではなく、最近はどんなサービスでもスマホアプリに代替させる流れになってきている気がする。サービスを提供する側からすれば、そっちの方が導入コストがかからないというメリットがあるのかも知れないが、利用する側が便利に感じるというケースはあまりなく、むしろ利用者側に手間とリソースを押し付けているだけという気がする。何しろスマホの記憶容量だって限られており、調子に乗っていろんなアプリを入れているとあっという間に容量不足になってしまいがちである。さらに一度入れたアプリはアップデートを繰り返したりユーザーデータやキャッシュデータをため込んだりして、入れたあとも自己肥大化していく。

 スマホは今やあらゆる世代に普及し、およそ成人であればほとんどの人が持っているという状況になってきているのは確かだろう。キャリアの方でも、それまで普及していた日本製の携帯電話(いわゆるガラケー)のサービスを縮小し、ほとんど強制的にスマホに乗り換えさせてきたような感じである。

 一方で、スマホだったら誰でも持っていて誰でも使いこなせているかと言われればそんなことはなく、特に高齢者にとってはスマホは未だに敷居の高いものであるのも事実である。私や配偶者の両親も、手取り足取り教えたにもかかわらず、誰もスマホでの文字入力をマスターすることなく他界してしまった。スマホアプリの導入に際しては、多様な利用者の利便性を本当に向上させているのかどうか、慎重に考えてから導入していただきたいと思うものである。


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