#329 スマートフォン普及の影で

2012/01/05

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 私がアドエスを使い始めた時に、そもそもスマートフォンとは何だろうということに悩んでいた頃、スマートフォンを使っていた人はたまに見かける程度であった。また昨年の今頃こんなものを書いていた頃は、まだまだスマートフォンを使っている人を見つける方が困難であった。それが2011年になるや、駅で電車を待っている人たちをざっと眺めても携帯電話を持っている人のうちの半分くらいはスマートフォンを手にしている。一昨年のアンケート時は圧倒的にiPhoneが優勢であったが、今はiPhoneだけでなく、XperiaなどのAndroid系の端末を使っている人も多く、様々な端末を見かけるようになった。

 iPhoneの方もつい先日4Sが発売され、国内キャリアとしてauも参戦したせいか、あるいは発売直前のSteve Jobsの急逝のせいか、かなりの売れ行きであるとも聞いている。

 確かに、家電屋の携帯電話販売コーナーを見ても、目につくところに並んでいるのは、iPhoneに代表されるような板状のスマートフォンのラインナップで占められ、従来型の携帯電話は隅に追いやられているような状況である。

 スマートフォンでできることは確かに多い。多くのアプリケーションがリリースされており、インストールさえすれば、情報収集やデータ処理、数多くのエンターテインメントを楽しむことができる。ただ一方で、いろいろ問題も起きているとも聞く。

 国民生活センターの「急増するスマートフォンのトラブル」という報道発表資料によると、「スマートフォンの特性についての情報が消費者に十分行き渡っていないなかで、従来の携帯電話の延長線上で利用され、トラブルが生じている」と報じられている。特に「使ってみたら、操作しにくかった」「思っていた内容と違った」「購入して間もないのに、不具合がでた」「不具合が続く」などの理由で、解約したいという相談が全体の35%に上るという。相談のうち1/3が解約したいというのも相当なものである。

 また、クレーム処理というのも目立っており、中でも「早期故障」「故障頻発」「機能故障」「作動不良」など、機器の不具合に関するクレームが、その他の携帯電話に比べて際立って高いとも報告されている。もちろん、個々の事例について見れば、実際には故障ではなく機器の仕様である場合も多いだろう。だがそもそも、事業者の側で「仕様である」と思っていることが、消費者の方にそのように伝わっていないところが、そういったクレーム多発につながっているとも考えられる。

 一般にこうした高機能な製品は、高機能な分だけいろいろな使われ方をされ、不具合を引き起こす要因も多岐に渡る。また、特に販売当初は、実際に利用してみると製作者側が想定していなかった不便さや不具合が現れることもある。販売当初にこうした新製品を積極的に使う層(アーリーアダプター)がこうした不具合情報をフィードバックし、また技術が進歩していくことで、だんだんと製品がこなれたものになり、やがて広く一般のユーザーに普及していく。こういった過程は、電脳製品についてはこれまでも行われてきたことである。

 そういった意味では、昨年から急速に売れ始めたスマートフォンに関しても、今はまだそうした過渡期にあると言えるのかも知れない。ただ、報告にも示されているように、スマートフォンの場合は携帯電話と同様、毎日持ち歩いて使うので不具合が生じると不満も大きいこと、また通信契約に複数年契約という「縛り」があって契約の解除をやりにくくしていることが、問題を深刻なものにしているところがあるようだ。

 報告では、消費者へのアドバイスとして、第一に「テレビコマーシャルなどの広告のイメージだけで判断せず、機能の特徴を十分ふまえて自分の利用目的にあった商品選択をしてほしい」と述べている。

 これまでの日本の携帯電話は、一部制限のある形態でありながらインターネットの利用も可能にし、また赤外線通信やワンセグ、決済機能など、日本独自の進化をしてきた。それを「ガラケー(=ガラパゴスケータイ)」などと揶揄する向きもあるものの、ある意味、製造者が日本の消費者のニーズに応えて進化をさせてきた結果であると言えるし、製品の完成度も高い。

 通常の用途であればそれで十分なのであって、それを捨ててスマートフォンに乗り換えるのであれば、自分のニーズがどういったもので、それはスマートフォンに乗り換えてまでも利用したいものなのか、これまで自分が利用してきたサービスの内容が変わることについて問題はないか、ということをきちんと考える必要があるということだろう。

 それと同時に販売者側も、安易にスマートフォンを勧める前に、スマートフォンの特性や、場合によっては悪いところも正直に伝えたうえで、消費者にあった製品を勧めるようにすることが望まれるところである。買ったはいいが、こんなはずではなかったという不満の矛先は容易に販売者に向かい、消費者の信用を損ねることになりかねないのだから。


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