#031 バックアップしてますか?

1998/11/10

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 バックアップという言葉を聞いたことのない人は恐らくいないと思うのだが、もしパソコンを使っている人で、自分のデータのバックアップをしたことがないどころか、そんな言葉を知らないという人がいたら、それは恐らく今までとても幸せな人生を送ってきた人なのだろう。

 そもそもHDの中のデータの中で最も大事なのは、OSでもなければアプリケーションでもなく、自分で作ったデータである。OSやアプリケーションなどのプログラムは、事故が起こってハードディスクから内容が消えたって、CD-ROMなどからまたインストールすればいいだけのことである。多少の手間と時間はかかるが大抵復元は可能である。しかし、これらのソフトを使って作った自分の作ったデータは、世界に二つと同じものはなく、それを失ったが最後、誰も持っていないから取り戻す術はない。文書ファイル、データベースファイル、グラフィックのファイルなど、これらのファイルは作成するのに何がしかの労力と時間をかけているものだろう。そのデータを失えば、それを作ってきた労力や時間とともに、すべてがあとかたもなく消え去ってしまう。

 コンピュータの扱うデータは、デジタルな記録でしかないので、失う時は非常にあっけない。紙の記録であれば破れたり消されたりしたところで、一部は生きていたり痕跡が残っていて判読可能だったりするものだが、デジタルな記録だとそうはいかない。そのデータを保存している媒体の一部が物理的に破損しただけで読めなくなったり、誤って消去しようものなら、デジタルであるからして、その痕跡すら残さず消えてしまう。

 もっとも実際のところMS-DOSの場合、ファイルを消したと言っても、実際にはFAT(File Allocation Table)というファイルの管理情報の一部が書き換わっただけなので、削除直後なら適当なツールを使ってファイルを復活できる可能性が高い。有名どころではNorton Utilityやらエコロジーやらというのがそうであるし、MS-DOS自体もVer.5になってUndeleteというコマンドを標準で入れるようになった。それだけ同じ失敗をする輩が後をたたなかったのだろう。もっとも、その方法でいつも成功するとは限らない(ファイルが不連続な領域に保存されていた場合は、削除痕跡をたどることができなくなる)ので、気をつけなくてはならないことに変わりはない。

 マルチユーザのOS(UNIX)などの場合、一度ファイルを消した領域は次の瞬間別のユーザによって使用される場合もあるため、基本的にはファイルの復活はできない(してはならない)。いくら管理者に頼んだって、だめなものはだめである。そのため、例えばSolaris上のOpenWindowなどUNIX上のウィンドウシステムでは、MacOSのような「ゴミ箱」という「本当に捨てるまでの間、一時的に不要ファイルを保存しておく」メタファとしてのフォルダを用意していたりする。MS-DOSの後継OSであるところのWindows95以降もそのアイデアを取入れている。これもやはり同様の失敗をやらかした輩が多いためにできたものなのだろう。

 かように、昔はファイルを失うのは、ユーザーの誤動作であることが圧倒的に多かったものだが、最近ではハードウェアの不慮の故障や、悪意のウィルス/クラッキングソフトなどによりシステム全体を一瞬にして失うという事故も増えている。いずれにせよ、コンピュータやネットワークが複雑多様化している昨今、データを失う危険性はかつてよりも高くなっていると言える。

 であるからして、データのバックアップは大変に大事なものである、と口で説明するのは簡単なのだが、実際の所じゃあ皆が皆定期的にバックアップをちゃんと取っているかというと、全然そうではない気がする。人間なかなか理屈でわかっていても、やっぱり自分で一度ひどい目に合わないと学習しないものらしい。まあそのひどい目というのが、自分の手でファイルを一つ消してしまった程度ならば安い授業料だと思えばいいのだが、これが仕事で絶対必要不可欠なデータ、あまつさえシステム全体だったりすると、授業料にしてはえらく高いものについてしまう。企業などの場合は、その損失は金額などに換算できるものではないかもしれない。

 かく言う私も昔そのような失敗をして授業料を払った身であるので(どんな失敗だったか今となっては憶えていないので、たいした授業料ではなかったのだろう)、私はバックアップについてはかなり徹底しているつもりである。今回もまた前置きが長くなってしまったので、私のデータバックアップがどんな具合であるかは、後編に譲る。


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