△ 「よそびと診療所」シーン12


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明転すると全体灯り。診療室。ノノと患者のモス爺が座っている。傍らにロッサ、モント、アトラ、メル、里桜。

モス爺 「おっほほお、今日は観客が多いねえ!」写真
メル 「観客じゃなくて医者だぞじじい。」
里桜 「じじいって…」
モス爺 「ああ、そういえば一人研修医が来るって言ってたね。」
ロッサ 「二人です。」
アトラ 「アトラです。」
モント 「モントです。」
モス爺 「あれ?三人いるじゃない。」
ロッサ 「彼女は瀬名さん。地球人の外科医です。」
モス爺 「え?!いやびっくり!いつから地球人の医者がOKに?」
ノノ 「いやいや、彼女はうちの患者さんでしてね。見学のご希望があったもので。」
モス爺 「へえ、そりゃ珍しい。ま、「診察は賑やかな方がいい」って江戸の昔から言うしねぇ。」
メル 「言わねえよクソじじい。」
里桜 「クソって…」
ノノ 「で、モス爺。今日はどの辺が?」
モス爺 「もう、どこもかしこもなんですよ先生。最近物忘れもひどくって。」
メル 「なにが最近だ。千年前に初めて会った時には既にボケてたろ。」
アトラ 「千年前からの付き合いで?」
ロッサ 「モス爺は我々よりずっと前から地球にいるのよ。」
モント 「なぜ地球にいらしたんですか?」
メル 「このじじい、元々宇宙タクシーの運転手で、酔っ払い運転で事故って地球に落ちたんだと。」
モス爺 「そうだっけ?」
メル 「ほらボケてる。」
モス 「いやぁ、やっぱり歳には勝てんですなぁ。」
ノノ 「いやいや、まだお若いですよ。10万を超えてるとは思えません。」
里桜 「10万?何の数値です?」
ロッサ 「数値じゃなくて年齢です。」
モス爺 「10万81歳。」
里桜 「デーモン?」
モス爺 「お前も蝋人形に…」
ノノ 「は〜い、じゃ、診せて頂きますね。」
モス爺 「は〜い!」
ノノ 「お手。」
モス爺 「(ノノにお手)ワン!」

ノノ、右手をかざすと「オ○ラ座の怪人(overture)」がかかる。里桜キョロキョロ。

里桜 「ん?オ○ラ座?(診療の様子を見ながら小声で)あの…何してるんですこれ?」
ロッサ 「先生は臓器や薬とお話してるんです。」
里桜 「臓器や薬と話?!?それってどういう…」

ノノの手かざしと音楽が急に止まる。ノノ、ため息。

ノノ 「モス爺…食べましたね。」
モス爺 「は…はて?何のことかな?」

メルがモス爺の頭に手かざしするとハウリングの様な音。

メル 「じじい、食ってますぜ。」
モス爺 「あわわ。」
ノノ 「あれを食べたら危険だと言ったでしょ。」
モス爺 「ほんの一粒か二粒だよ。」
ノノ 「胃袋さんはもっと食べたって言ってますよ。」
モス爺 「あわわ。」
ノノ 「地球の飲食物で、ガガ星人が食べると危険な物は?ヒント、トウダイグサ科の植物…」
アトラ 「トウダイグサ…?」
モント 「キャッサバ?…あ!タピオカ!!」
ロッサ・メル 「ピンポ〜ン!」
里桜 「タピオカがダメなんですか?」
モス爺 「でも今タピオカ、超流行りじゃないですかぁ。」
里桜 「そうでもないです。」
モス爺 「ここのロビーでも売ってるじゃない。」
メル 「ガガ星人には販売禁止してるだろうが!」
ノノ 「(モントとアトラに)この場合の最善の治療法は?ヒント。薬物治療ではありません。」
アトラ 「って事は、外的刺激治療?」
ノノ 「といえば?」
アトラ・モント 「ハリ!」
ノノ 「正解。」
里桜 「え?針治療までやるんですか?」
モス爺 「痛いのやだな〜。」
里桜 「いや、針治療の針は痛くないですよ。」
モス爺 「なんだ、良かった。」
ノノ 「いや、痛いですよ。」
モス爺・里桜 「痛いの?!」
ノノ 「大丈夫、ソルト先生が作った最新式ですから。」
ロッサ 「ほら、さっきノノ先生を呼びに来た。」
里桜 「ああ、あの人。医者なのに医療器具の開発まで…」
ロッサ 「みんなも手伝って。」
メル・モント・アトラ 「はい。」

ロッサを先頭に3人ハケる。・

モス爺 「やっぱり怖いな〜…。」
ノノ 「すぐに終わりますよ。」

ハケた3人が手にハリセンの様なものを持って帰って来る。ロッサがノノに1本渡す。

ロッサ 「へいお待ち。」
里桜 「ちょ、ちょっと待って!それハリじゃなくてハリセンじゃないですか!」
ノノ 「医学用語ではハリです。」
里桜 「医療器具じゃないでしょ?」
モント 「立派な医療器具です。」
アトラ 「逆に、地球では何に使うんですか?」
里桜 「え?えっと、コントとか…最近はコンプライアンスで難しくなったけど。」
モント 「これをコントに??」
アトラ 「地球人は謎が多い…」
里桜 「あ?え?ああ、そうか使い方が違うってことか。」
ノノ 「では、治療スタート!」

照明が変わり、「ウィ・ウィル・ロック・ユー」の様な曲、。みんなハリセンで拍子を取り始める。モス爺もリズムにノリ始めるが、ロッサに部屋の上手端まで連れて来られ、押されて下手へ飛ばされる途中にみんなのハリセンを食らう。照明が戻り、音楽が止まり、ノノがモス爺の様子を診る。

モス爺 「痛い!痛い痛い!」写真
里桜 「コントじゃないか!!」
医者達 「治療です。」
アトラ 「どうです?」
ノノ 「う〜ん…もう一息。」
モス爺 「え?」

また照明が変わり、再び曲がかかり、拍子。なぜかまたノリ出すモス爺。
同じようにハリセンを食らう。照明が戻り、音楽が止まり、ノノがモス爺の様子を診る。

モス爺 「痛い!痛いよ先生!」
里桜 「これもう集団リンチですって!!」
医者達 「治療です。」
ノノ 「これで大丈夫。もう絶対食べないで下さいね。タピオカ。」
モス爺 「もうこりごりです…」
ノノ 「後は今日一日お家で安静にしていて下さい。では。」

ノノが腕のベルトでモス爺のおでこを触ると、電子マネーの支払いチャイムの様な音。

ノノ 「はい、支払い終了。」
里桜 「今のが治療費の支払い?」
ノノ 「いえ、治療費は別払いです。今のは寿命を頂いたんです。」
里桜 「じゅ…寿命?!」
ノノ 「私の報酬だけは、お金じゃなく、治療で伸びた寿命のほんの一部をもらってるんです。」
里桜 「寿命をもらうって…それ医者じゃなくて悪魔じゃないですか!」
ノノ 「よく言われます。ま、それができるのも銀河中で私くらいになってしまいましたが。」
里桜 「でも治療費が寿命って…え?じゃ私の治療費も?!」
メル 「地球人の治療費はただぜよ。」
里桜 「良かった…」
モス爺 「先生あの…今日、お風呂は入っても?」
ノノ 「ああ、いいですよ。でも90℃以下にして下さいね。」
モス爺 「あ、はい。…で…お薬とかは…」
ロッサ 「特にありません。」
モス爺 「あ、はい。…で…次の診察とかは…」
メル 「とっとと帰れくそじじい!」
モス爺 「あ〜はいはい。」

モス爺が去ろうとした時、ソルトが入って来る。

ソルト 「ノノ先生!」
里桜 「あ、ハリセン作った人…」写真
ソルト 「カンナさんの容態が急変しました。意識も落ちています。」
ノノ 「わかりました、緊急オペの準備を。」
ソルト 「はい。」

ソルト、足早にハケる。

モス爺 「なになに?誰の手術だって?」

また曲がかかりメルが拍子。(ワンフレーズだけで止まる)

モス爺 「帰りま〜す!」

モス爺、足早にハケる。

メル 「長生きしろよクソじじい!」
里桜 「毒蝮…」
ノノ 「行きましょう。」
ロッサ 「みなさんもご一緒に。」
アトラ・モント 「はい!」

ノノ、メル、アトラ、モント足早にハケる。

里桜 「私もですか?」
ロッサ 「あら不安?」
里桜 「いえ、興味はあるんですが、脳みそが持つかどうか…」
ロッサ 「そうよね、でもこのオペは少し地球人のオペと似てるわよ。」
里桜 「そうなんですか…じゃ…行こうかな…」

ロッサ、里桜ハケる。暗転。

(作:松本じんや/写真:はらでぃ)

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