トップページ > ページシアター > ダンボールキッチン > 第33回 【公演データ】
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舞台上、<6>の4ヵ月後。春の日差し柔らかく差し込む森瀬家のキッチン。
ナルコが一人、忙しそうに立ち働いている。
テーブルの上に真新しいバスケット。
ナルコの手元に1冊のノート。
鉄腕アトムの表紙のノート。
そこへカヨが心配そうに顔を出す。
カヨ いいですかもう入っても
ナルコ うん
カヨ 上手くできたかね
ナルコ ちょっと失敗した
カヨ どれ
ナルコ (指差して)たまご焼き。焦げちゃった
カヨ 火加減までは書いてなかったかね
ナルコ どうだったかな…
二人、アトムの残したレシピノートを覗き込む。
2階より麻美と覚。ともに寝巻き姿で。
麻美 くっさー。また飲んだの
覚 祝い酒だ(げっぷを盛大に。いやあな顔をする麻美)
ナルコ …おはよ
カヨ おはようございます
覚 ああ
麻美 おはよー。なにマジで作ったの
ナルコ頷く。
麻美 買ったほうが早いのに
ナルコ …いいの。作りたかったんだから
ナルコ、麻美、カヨの3人で会話を続ける。
覚 (窓を開け伸びをしながら)んー、なんて爽やかな朝…
遼太郎がキッチンへ。
遼太郎 おはようござ…(大きなくしゃみを立て続けに3つ)
カヨ 汚いね
麻美 風邪?
遼太郎 いや花粉症…(再びくしゃみ)あ、先生。おは、おは…(特大のくしゃみがもろに覚の顔面に)
覚 …
遼太郎 ふう。気持ちのいい朝ですね
覚 …ああ…
西条、下手より。覚と遼太郎は二人で会話を続ける。
西条 失礼します
カヨ いらっしゃいまし
西条 良かったですね晴れて…
麻美 天気はともかくお弁当がね…
ナルコ お姉ちゃん!
西条 (笑いながら)夢子さんは…
カヨ 起こして来ますね
西条 いいです、私が…
西条、2階へ。同時にジョギング帰りの俊が。
俊 ただいま
麻美 おかえり
俊 おっ完成したな(と弁当に手を)
ナルコ だめだよ(持って逃げる)
俊 いいじゃんか焼きちくわの1つくらい…
カヨ 焼きちくわ?
ナルコ 入ってないよそんなもの
俊 え?じゃあこの黒い物体は…
ナルコ …
西条にせかされて夢子、登場。
夢子 おはよ…
カヨ おはようございます
覚 遅いぞ全く…
夢子 ごめーん。…ナルコ、それお弁当?(夢子、真っ黒な卵焼きをつまんで口へ)
麻美 あっ!
カヨ よりによって…
ナルコ …
固唾を飲んで夢子を見守る一同。
飲み込んだ夢子、じっと見つめるナルコに笑いかけ…
夢子 …まずい
ナルコの顔に笑みが広がる。みなお弁当の周りに集まり口々にしゃべりだす。
その輪を包むように明かりが絞られていき、
ここに、
幕は、
降りる。
(作:中澤日菜子/写真:広安正敬)