△ 「ダンボールキッチン」第3回


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くすぶり続けるダンボールハウス。その前で、呆けたように座り込む繁雄。
口の中だけで呟き続ける。

繁雄 …かんにんな…麻由、かんにんなあ…舞台写真

横にぽつんと立つナルコ。
繁雄の尋常ではない様子に戸惑いを隠せない。ややあって。

ナルコ …大事なもの、入ってた?
繁雄
ナルコ 弁償するよ…
繁雄 …その反対や…
ナルコ
繁雄 見んようにしてたもん、あぶり出されてしもた…
ナルコ

ナルコ、繁雄に近づく。繁雄の目の高さまでしゃがみこむ。

ナルコ あのさ…あたしさ…

言いかけたナルコ、急激な吐き気に襲われる。
こらえきれず、その場で嘔吐するナルコ。大量の食物が彼女の胃から、そして涙が眼からあふれ出る。
繁雄、ナルコの背中をさすってやる。

繁雄 …無理やり詰め込むからや…
ナルコ
繁雄 かわいい顔が台無しやで

ナルコ、繁雄の手をはねのけ立ち上がる。はずみで転ぶ繁雄。
ナルコ、きらきら輝く目で繁雄をにらみつける。

ナルコ …お前になにがわかる
繁雄 …あたたあ…
ナルコ あたしのことなんか、何一つ知らないくせに…
繁雄 すりむいてしもた
ナルコ えらそうな口ききやがって…
繁雄 血い出てきた

ナルコ、ナイフで切りつけるように。

ナルコ バーカ。…死ね

ナルコ、駆け去る。
一人、座り込む繁雄。
いつのまにか、麻由が。しかし繁雄には感知できない。

繁雄 …死ねるもんなら、死んどるがな
麻由
繁雄 麻由と一緒に死んどるがな…
麻由 …うん
繁雄 でも俺は死ねんかった。麻由を置いて逃げてしもた…
麻由 …仕方ないやん…
繁雄 …逃げて逃げて…今も、逃げとる
麻由
繁雄 なあ麻由。父ちゃんあの時ほど、アトムになりたいと思たことはないで
麻由 …うん
繁雄 アトムなら、あんな車ひょいとどけて、病院までひとっとびや
麻由 そやね…
繁雄 でもなれんかった。父ちゃんはアトムにはなれんかった…
麻由 …そらをこえて
繁雄 麻由を助けられへんかった…舞台写真
麻由 ほしのかなた
繁雄
麻由 ゆくぞアトム
繁雄
麻由 ジェットのかぎり
繁雄 なあ麻由
麻由 こころやさしい
繁雄 もう少しだけ、父ちゃんに時間をくれるか
麻由 らららかがくのこ
繁雄 またダメかもしれんけどな
麻由 じゅうまんばりきだ
繁雄 今度こそ助けたいんや
麻由 てつわんアトム…
繁雄 …馬力もジェットもないけどな
麻由 (小さく微笑んで)…その代わり、アトムにはないもんがあるやんか…

麻由、静かに去る。
繁雄、立ち上がる。吹きゆく冷たい風。大きなくしゃみを一つ。

繁雄 さぶう…今晩、どこで寝よ…

転。

(作:中澤日菜子/写真:広安正敬)

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