△ 「ダンボールキッチン」第1回


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舞台上、とある町中の公園の一隅。
ベンチがあり、その横にダンボールハウスが建っている。
舞台上の時間は真夜中。季節は11月下旬。
開演前から、ダンボールハウスの中には男性(飛田繁雄)が入って眠っている。

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開演時間近く、大きなコンビニの袋を抱えた少女(森瀬成子以下ナルコ)が現れる。
ナルコ、ベンチに座り、おもむろに袋から菓子パンを出し、食べ始める。
次から次へと菓子パンやスナック菓子を出しては無表情に食べ続け、ゴミを周囲に捨てていく。
最後、ペットボトルを出し、一気に飲み干し、これも捨てる。
大きな吐息を一つつき、やはり無表情で正面を見据える。
と、そんなナルコの様子を少し前から見ていた繁雄、声をかける。

繁雄 (ゴミをつまみ上げ)あかんで、ねえちゃん
ナルコ
繁雄 自分の部屋とちゃう
ナルコ
繁雄 さ、拾った拾った
ナルコ

繁雄、ナルコに構わず散らかったごみを片付け始める。

繁雄 しかしまたぎょうさん食べたなあ。ええと…(拾った袋を読む)『インドと水戸のステキな出会い・納豆カレーチップス』。『低脂肪で超ヘルシー!あらびきダチョウウインナーパン』。あんたとってもチャレンジャー
ナルコ
繁雄 (ペットボトルを拾い上げ)でも飲み物は「お〜いお茶」
ナルコ
繁雄 ほい。これで全部や

繁雄、ナルコにゴミを渡す。
ベンチに戻り、鏡に向かうナルコ。繁雄、その横に座る。
初冬の風が、吹きすぎていく。
繁雄、タバコとマッチを取り出しながら。

繁雄 ほんまによう食べたのお…それも菓子パンやらスナックやら…舞台写真
ナルコ
繁雄 高校生?大学生やないよなあ
ナルコ
繁雄 あかんで。育ち盛りの子が。こんなもんで腹膨らましたら、お母さん悲しむで
ナルコ

ナルコ、繁雄の点けたマッチの火を吹き消し、向き直る。

ナルコ ほんまによう作ったのお…それもダンボールやらビニールやら…
繁雄
ナルコ ホームレス?サラリーマンやないよなあ
繁雄
ナルコ あかんで。働き盛りの男が。こんなところで寝泊りしたら、お母ちゃん悲しむで
繁雄

ナルコ、鋭いまなざしで繁雄を見つめる。
間。

繁雄 (小さく笑って)…ほんまや…
ナルコ

繁雄、ハウスに戻ろうとする。ナルコ、その背中に。

ナルコ …母さんも父さんもいないの、あたし。
繁雄
ナルコ あたしが10歳のとき、強盗に殺されたの…キッチンで。それ以来、ずうっと親戚の家をたらいまわし。今の家は2年前から。おじさんはごく普通のサラリーマンだから、家計は決して楽じゃない。それでおばさんはよく夕飯のときため息をつくの。毎日、毎日…この2年間、ううん、母さんと父さんが死んでからずっと、同じことば、同じ目つき、同じ気持ち…『なんでこの子がうちにいるんだろう?』
繁雄
ナルコ …『なんでこの子がうちにいるんだろう?』…
繁雄

ナルコ、繁雄の目をじっと見つめる。いくばくかの間。
繁雄、何も言わずハウスに消える。
ナルコ、再び化粧に戻る。
と、繁雄、ビニール袋を下げて出て来る。大きなくしゃみ。
その音に振り向くナルコ。

繁雄 (袋を差し出しながら)良かったらこれ、持ってき
ナルコ (袋を受け取りいぶかしげに覗きこむ)…
繁雄 スナック菓子よかなんぼかましや
ナルコ …(無表情に鏡に向かう)
繁雄 (独り言のように)10歳でひとりぼっちか…ほんま神様ゆうんは…
ナルコ
繁雄 (気を取り直したように)しんどいこと、ぎょうさんあると思うけど、体だけは大事にな。あんたに何かあったら、悲しむのん天国のご両親やで…

繁雄、ナルコの肩に手を置く。
同時にナルコ、さっと顔を上げる

ナルコ舞台写真
繁雄 は、はあ?
ナルコ さっき話したこと。ぜーんぶ、嘘!

ナルコ、繁雄のマッチをすって投げる。瞬時に燃え上がるダンボールハウス。繁雄の悲鳴。

繁雄 何するんや!

着ていたジャンパーを脱ぎ、なんとか火を消そうとする繁雄。
その様子を見ながら、大笑いしているナルコ。

(作:中澤日菜子/写真:広安正敬)

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