△ 「ブリジニツィー」シーン29


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二日後
8係

明転。8係。福田巡査が白い花の入った花瓶を揮に置き、帽子を脱ぐ。そこへ包帯を巻いた今井が入って来て敬礼。福田巡査去る。今井、花を見てため息を付く。しばらくして木村も入って来る。やはり怪我をしている。

今井 「あ、おはようございます、先輩。」舞台写真
木村 「おはよう今井。」
今井 「どうでした、奴ら?」
木村 「レッドもピンクもしばらくは入院ね。命には別状ないって。」
今井 「あと少し遅れてたら危ない所でしたね。」
木村 「うちらもね。」
今井 「そう言えば…ヴァイオレット…いや…」
木村 「彬は大丈夫。比較的傷も浅いし、1週間で退院だって。」
今井 「でもその後が大変ですよね、彼女…」
木村 「えぇ。でも彼女、ちゃんと罪を償うって言ってたわ。」
今井 「彼女のお姉さんのクローン、記憶の移植はされてなかったんですよね?」
木村 「ええ。」
今井 「じゃあどうして昔のくちぐせを?」
木村 「さあね。でも、もしクローンにも記憶が残るのなら、『ブリジニツィー』なんてもの、初めから創る必要なっかったかもね。」

島袋、入って来る。やはり怪我をしている。

島袋 「おはよう。」
今・木 「おはようございます。」
島袋 「いや、大変だよね、外のマスコミが。」
今井 「えぇ、今世紀最大の事件だって騒いでますよ。」
木村 「始まったばっかじゃない、今世紀。」
今井 「でも警部、あれって本当に本当の事なんですか?」
島袋 「え?あぁ、もちろん。あん時な、鈴木君が現れて抜け穴までの道を教えてくれたんだよ。」
木村 「あたし達には見えなかったですよ?」
島袋 「僕にも見えなかったさ、でも確かに感じたんだ。そして我々が出口まで辿り着いた時、奴の声を聞いたんだ。「これで本当に成仏できます。じゃ、またっ。」ってね。」
今井 「本当かなぁ?」
島袋 「ま、いいじゃない。生きて帰って来れたんだから。」
今井 「そうっすね。」

3人笑う。が、フッと花瓶の花が目に入り、3人静かになる。

島袋 「しかし驚いたよね。上原君の事。」
今井 「えぇ。まさか2人の上原が…」
木村 「どちらもクローンだったなんて…」
島袋 「しかも本人の上原君は、生態実験中に事故で死んでいたとはね。」
今井 「何だかとんでもない時代になりそうですよね、21世紀。」
島袋 「あぁ。でもな、例えクローンだったとしても、あいつらは決してニセモノなんかじゃない。2人ともホンモノの上原君なんだ。クローンなんて今にもっと身近な存在になる。だが、我々はそれをニセモノとは呼んではいけないんだ。そいつが心を持ち、生きている以上はね。」
今井 「…ところで警部?」
島袋 「ん?」
木村 「遅いですね…」
島袋 「(腕時計を見て)ああ。罰として…目でピーナッツでも噛んでもらおうかな?」

3人笑う。が、怪我が痛み苦笑する。ゆっくり暗転。

(作:松本仁也/写真:広安正敬)

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