常盤台の最寄り駅は東武東上線。結局、間に合わなくなってしまったので東武東上線の駅まで歩くことにする。大山の駅まで、とことこ歩いてきた我々だったが、11時の次は13時30分。かなり時間が空いている。しょうがないので、池袋に出て秋葉原で安くなったメモリーでも買おうと大山駅に入り、池袋行きのホームに向かう。だが、途中で東武東上線内の観光案内板を見つけてしまった時点で、その計画は没となった。
東京大仏。その掲示板に、やけに魅力的なその名前があったからだ。
「東京に大仏ってあったっけ?」
そのとき、家元さんの目が光った。
池袋行きのホームに向かっていた足が、そのまま逆のホームへと向かっていた。
東京大仏に向かうため、東武東上線下赤塚駅に降り立った、オレ、馬鹿家元さん、なかむくんの3人だったが、頼りになるのは十うん年前に行ったことがあるという家元さんのかすかな記憶のみ。はなはだ不安である。駅を降り立つと「あ〜、こんな道だったっけ〜」と首をひねりながら歩く家元さんの後ろを、不安にかられながらも歩くしかないオレとなかむくんであった。まあ、思いつきで面白い方向に動くのは、3人の在学中加入していたサークルの風潮だったので、今回も途中でやめようとする者は皆無であったが。
ようやく思い出したのか、足取りが軽くなってきた家元さん。後をついてきたオレとなかむくんのまえに、どこかのお寺らしい入り口が見えてきた。ひさしぶりの運動(?)徒歩20分の行程にくたびれ始めたオレは、「とうとう着いたのか、ここが目的の東京大仏のある寺か!」と色めき立ってしまった。しかし、家元さんの「違うよ、でもここもわりとここらじゃ有名なお寺だよ」との答えが無情にも返ってきた。すでに「板橋徒歩で行く小さな旅・わたしたちの町再発見」という気持ちだったオレは、まあまだ時間もあるし入って拝んでいくのもいいかと、山門にふらふらと近づいていったのであった。
お寺の名前は、松月院。曹洞宗のお寺だ。山門の入り口は、ちょっとどうか?というコンクリのような材質の真新しい柱が2本、でーんと立っているだけだが、そのなかにさらに道が続いていて、なかに見える門と本堂はなかなか由緒ありげな感じだ。期待に胸膨らませ、中門をくぐったオレたちの前方左手に奇妙な建造物を発見(右図参照)あまりのインパクトに、しばし声を失うオレとなかむくん。家元さんは見慣れているのか、にやにやしている。そのうち、こらえきれなくなってオレとなかむくんは、まだ日曜の朝で誰もいない境内中にひびく馬鹿笑いをあげてしまった。まさに男のアレであった。さらに家元さんの「ほら、どっから見ても(下の球が)2個見えるようになってる」の追い打ちに、耐えられず笑い続けるふたりであった。
そばにあった立て札によって、さっきの謎の建造物は、幕末にこの松月院を本部にして、洋式砲術を取り入れ訓練をしていた高島秋帆の事績を記念して立てられたものと判明する。なるほど、あれは砲台と砲丸だったのか……しかし、もうすこしデザインをなんとか……ま、面白いからいいか。そばまで行った方は、ぜひとも御覧になってください。しかし、さっきから中門にいくまでの参道にあった、社務所(?)はかなりばかでかく真新しいコンクリート造りだった。「なんか変に洋風と和風が混ざってすごいですねぇ」となかむくんがしきりと感心している。たしかに。お金はすごくかかってそうだ。えーっともちろん、お参りはしてきました。お寺のなかにあった豊川稲荷の分社で。
さて、松月院をあとに、ここから近くの東京大仏をめざす一行だったが、お寺から出て、すぐになかむくんが「ぴ、ぴかっ……」と叫んだきり、腹を抱え込んでしまった。いったい何が起きたかわからない、オレと家元さんだったが、なかむくんの指さすほうを見て、ふたりとも大爆笑してしまった。そこには、お寺のそばによくある墓石などの加工会社があったのだが、よくある見本をさしおいて、玄関横に鎮座ましましていたのは……石でできた「ピ○チュウ」だったのだッ!文で書いていると、いまいちそのばかばかしいすばらしさが伝わらないので、ぜひとも近くに寄った際には実物を御覧になってほしい。そのできのよさと間抜けさとかなりの大きさに、呆然としたあと、笑いが止まらなくなるから。かなりシュールな工芸品であった。帰りに思わず、ほんとに石でできているのか、たたいて確かめるオレであった。
松月院から、東京大仏のある乗蓮寺まではそんなに距離がない。ただいったん坂を下らなくてはならない。坂を下った向こうに、ちらりと乗蓮寺の大伽藍と大仏が見えてくる。なにか中途半端なでかさだ。完成した十うん年前には、さぞや立派であったろうコンクリートの土台も寄る年波には勝てず、どこか裏さびた感じがただよってくる。むむむ、めげずにお参りだ!本社に上がる階段の手前に、なぜか閻魔様がまつってあったので、お賽銭を入れてお参りする。ほら、地獄の沙汰も金次第って言うし。家元さんが、「我々3人はどこをどうしても地獄に行きそうだしね」と追い打ち。反論できないのが痛いっすね、おやびん。えー、大仏はその名の通り大仏でした、以上。としか言えない。あんまりでかくなかったし、昔は入れたらしい体内の地獄巡りも、もう永いこと閉鎖されてたようだし。お参りはしたけど。ただ、大仏のそばでお線香が売っていて、それを立てる大きなお鉢があったので、さっそく買ってみる。たしか浅草寺かなんかにも、同様の設備があって、その効能はお線香の煙を悪いとこにつけるとそこが良くなるというものだった。さっそく1番悪くなっている(ハズの)頭にこすりつけてみる。あまり良くなった気がしないが、まあ気分の問題ですな。このまま帰るのもなんだし、さらに境内をぶらついてみると売店を発見。おみくじがあるので引いてみる。今年も残りわずかだが、残り物には福があると言うし。で、みごと、大吉をげっと。やったー、産まれて初めて引いた気がする。家元さんが小吉、なかむくんは大吉。もしかして、悪いの入ってない?ま、いいか。
帰りがけに家元さんが、東京大仏にあった説明の立て札について一説ぶちあげだす。 「なんかあそこの看板に、この大仏は奈良、鎌倉に続いて造られたとかあったけど、どこの観光地にもある新大仏って、必ずここと同じ文句があるんだよね。困ったもんだ」 む、たしかに。うちの実家のそばの大仏も、もしかして日本で3番目を主張してるかもしれない。
ようやく東京大仏を見学して、教育科学館に行こうとするが、まだ時間がある。なぜか板橋観光地巡りとなってしまった今回の企画のなかで、ちょっとしたカメラがほしいなという機会がかなりあった。せっかくだから、現像のいらないデジカメのほうが便利だという話になる。なかむくんによると、確認用の液晶画面を廃した廉価版のデジカメなら、5、6千円で帰るという。それは安い、となぜか今度は下赤塚駅前にあるコジマに入ることになる。さすがに5千円代ではなかったが、いまや1万円代でデジカメが買えることが判明する。まぁ、性能は使い捨てカメラに毛が生えた程度だが、性能を割りきればかなり使えそうだ。またも物欲がむくむくと刺激されるが、とりあえず品揃えが2機種しかなかったし、さっき知ったばかりなのにもう買うのはどうか?ということで購入はあきらめる。それに『OOPARTS 黄金シャトルでいく ミステリー世界』の2回目の上映時間もせまってたし。
そんなこんなで、ようやく本来の目的の教育科学館に行くことになったが、ここにいたっても本来のてきとーさが発揮され、改札を出かかる前に駅の間違いに気づいたりで、あわてて1駅戻ったりするはめになる。もうこうなってくるとそんなミスはどうでもよくなってきていて、それよりもこんなに手間暇かけて見に行くのだから、『OOPARTS 黄金シャトルでいく ミステリー世界』がどんなダメさであろうかわくわくしてくる。かなり重症である。ようやくたどり着いた板橋区立教育科学館では、白衣をきたどっかの研究生らしいにいちゃん・ねぇちゃんが、日曜日なのでかなりいらっしゃるおぼっちゃま・おじょうちゃまたちのお相手をしていた。そのすじには、一家言ある家元さんが「いやぁ、あの白衣がキョウイク・レッドで、あっちのねぇちゃんがキョウイク・ピンク。で、緊急事態になるとあのプラネタリウムの塔が、ぐい〜んとせり上がってロボが発進するんだよ」と言い出す。すっかりできあがっているなかむくんとオレは、なるほどにゃ〜と大納得(すな)
さてようやく問題の『OOPARTS 黄金シャトルでいく ミステリー世界』である。どうやらプラネタリウムのなかで、ふつうのプラネタリウムと同時に上映されるらしい。いったいどんなものやら。館内ロビーに飾ってある展示の、にせ宮崎アニメちっくなキャラクターに胸膨らむ思いだ。入場料は大人で500円。じっと待つこと数分、ようやく扉が開き、第2回目の投影だ。どうやらふつうのプラネタリウムと問題のアレと、『EVEREST』の3本立てらしい。すべて合計で1時間10分ほど、プラネタリウムから出られなくなる。座席に腰掛ける。座席もリクライニングして、見た目よりずっと居心地がいい。外から見てもわかるが、この教育科学館自体、けっこう新しい。なかの設備もけっこうきれいだ。さあ、最初のプラネタリウムの投影が始まる。
なんだかんだ言っても、オレはプラネタリウムはわりと好きだ。白いドームに暗くなって星がともり始めると、けっこうわくわくする。機械も映写ドームもまだ新しいせいか、かなりきれいに映る。冬の星座の説明が始まる。なかむくんがぼそっと「こんなに星があっちゃ、なじみの星座も埋もれて見えねぇよ」と言う。同感である。東京ではまわりが明るすぎて、こんなに星はいっぱい見えないだろう。「冬の大三角」「すばる」など、ひととおりメジャーどころを紹介したあと、プラネタリウムはあっさり終わり、いよいよ『OOPARTS 黄金シャトルでいく ミステリー世界』が始まる。
『OOPARTS 黄金シャトルでいく ミステリー世界』キャラクター紹介画像とりあえず上映形式がかなり特殊なので、表現方法が独特だ。これは現物を観ていただくしかないので、ここでは書かないことにする。主役の女の子の声優は堀江由衣。
ストーリー……西暦20XX年(このへんで、もう恥ずかしい)フロリダ・ケープカナベラルにあるケネディ宇宙センターから、初の日本人女性火星探査クルーを乗せたスペースシャトルが今、打ち上げられようとしていた。打ち上げは、おりしも接近した嵐によって、カウントダウンが中止されていた。シャトルに乗り込んで待機している彼女は手に握った黄金のふしぎな工芸品を握ってつぶやく。
「ここまで、やっときたのに……パレルとの約束もようやく果たせそうなのに」
ここで物語は、日本人女性火星探査クルー・ルリの過去に飛ぶ。父と博物館にきた少女ルリは、父と過去の遺産のことについて、展示品の前で話をしている。そのとき、そこに展示されていた遮光器土偶から出た、あやしい光線によって、ルリは突然不思議な世界に迷い込んでしまった。なにもわからないうちに、謎の勢力の飛行機におそわれピンチのルリを救ったのは、黄金シャトルをあやつる飛行士の少年パレルだった。ふたりは謎の勢力から逃れつつ、世界中を旅することになる。はたして、ルリは元の世界に戻れるのか?そして少年パレルの目的とは?
とまあ、こんな感じなんですが、いかすストーリーと絵にさっそくダメアニメ好きのこころが震え、おもわず叫びそうでした。ストーリーはオーパーツ(OOPARTS)をめぐって展開されるんだけど、もうちょっと……ねぇ。「オーパーツとは、out of place artifacts「場違いな工芸品」という意味の造語で、古代に作られた物なのにその時代の科学技術をはるかに越えているように見える工芸品のことです。」(パンフレットより)わりとこのごろでは、話題にものぼらなくなっちゃったオーパーツだけど、それにしても「教育科学館」たるものが、最近では眉唾もの(もともと?)だったオーパーツを大大的に取り上げるのはどうか?1番痛いのは、このプログラム本体の企画を立てて、製作したのがそもそもこの「板橋区立教育科学館」だったこと。痛て〜っ。ああ、区民の税金がこんなとこで無駄にされてる……たぶんどっかでかなり着服されてるよ、コレ。
『EVEREST』パンフレットに全天周映画って書いてあったから、やられた。「世界最高峰の「エベレスト」に、命をかけて挑戦する冒険家たちと、迫力満点の大自然をご覧いただきます。」……って、やられたぁ。じつは『OOPARTS』よりも肉体的ダメージがすごかったのは、この映画。おそらくふつうの35ミリ映画をむりやりドームに映して、全天周映画と言ってるハズ。こちらにせまってくるエベレストの雪崩はすごいけど、ロングのときにカメラをぐるぐる回すのはやめてくれー、こっちも気分が悪くなってくる。
ストーリーは、アメリカ人の男性登山家が奥さんをベースキャンプに残し、エベレストにアタックする。同行者はスペイン初の女性でのエベレスト登頂をめざす人と、エベレスト初登頂を成功させたシェルパの息子。彼もシェルパである。この3人がまぁいろいろ大変な目に遭いながら、エベレスト登頂に挑むのだが、その間に知り合いのいるニュージーランド隊の遭難とか、その友人の死や、遭難した隊の唯一の生存者の救出劇などを織り込んである。
つくづく観ていて思うのは、やはり山に挑む人の心境はどうしてもわからないということだ。どうしてあんなにつらい目や危険に遭っても、山に登ろうとするのかが、こちらにはわからなかった。まぁ、そういう高尚なテーマはおいといても、とにかく上映自体が体に効いた。終わったあと、しばらく頭ががんがんして、軽い酸欠状態におちいっていたようになってしまった。プラネタリウムが始まるころ、けっこうわいわい騒いでいたお子さまたちも、3本目の『EVEREST』が終わるころにはぐったりしたのか、静かになってしまっていた。これはけっこう永かった上映時間だけでなく、3本目の『EVEREST』が効いていると思えてきた。それぐらいきびしいです。