2024年8月のミステリ 戻る

天使と嘘 GOOD GIRL,BAD GIRL
英国推理作家協会賞
ハヤカワミステリ文庫 2019年 マイケル・ロボサム著 越前敏弥訳 上349頁 下350頁
あらすじ
施設にいるイーヴィ・コーマックは親兄弟もわからず年齢も不詳。14歳にも18歳にも見え誰にも心を開かない。
臨床心理士のサイラスは彼女を救いたいと思う。彼も過去に訳ありだった。
感想
最初からシリーズ物にするべく書かれたらしく、イーヴィの謎は解かれることはなく特殊能力(嘘が見抜ける)もそれほど活躍せずに次作に期待せよと終わる。
ずーっとイーヴィとサイラスの関係がいったりきたりとゆるゆる進む。それを補うかのように刺身のつまかおまけかと思っていた「将来を嘱望されていたスケーターの殺人事件」の顛末は怒涛のようやった。
なんというか犯人の問題解決策がしょっぱなも二回目も三回目もとんでもなくて日本の有名ミステリも同じような動機があったけど、アレはそれなりに同情できた。がコレは色んなひとを巻き込んであまりにあんまりやんなあ。と思う。このシリーズはあまりにあんまりな狂ったひとが登場するお話みたい。
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宇宙探偵ノーグレイ 
河出文庫 2017年 田中啓文著 315頁
あらすじ
怪獣惑星キンゴジ
 密室殺人事件
天国惑星パライゾ
 十戒に縛られた惑星で殺人事件
輪廻惑星テンショウ
 いったん惑星に降り立つと二度と生きてでられない。魂の数は10万個と決まっている。その中で輪廻転生を繰り返す惑星
芝居惑星エンゲッキ
 劇場型惑星。恐怖の独裁政権で1日は劇の稽古、次の日は本番を人々は繰り返している
猿の惑星チキュウ
 「自由の女神」に寿命が来て、解体されていた。
感想
ジュラシックパーク、ジュラシックワールドを超えたジュラシックプラネットでの殺人?事件「怪獣惑星キンゴジ」が好み。
(またしても恐竜と怪獣がごっちゃになってます) それぞれの怪獣のキャラがいい。
次に好きなのは「輪廻惑星テンショウ」。獅子身中の虫というかトロイの木馬というか。よく出来ていた。
2作目の「天国惑星パライゾ」を読んで「あれれ?」となったんやけど、たぶんアレちゃうかな。
で、そのアレパラレルワールドは正解やったのかはずれやったのかは、うーん。わからない。
 
読んでいると「天国惑星パライゾ」にフナキンスという名前の信者が出てきた。スナフキンのアナグラムかな。
名前はアナグラムやったり、あれとあれを組み合わせたりしてあるみたい。面白いねんけど
わかったのは「輪廻惑星テンショウ」のルールブ・ジュビンツカ(ルーブル美術館)くらいでもやもやする。
だいたい探偵の名前のキーコ・ノーグレイがわからない、高機能グレイ? 灰色じゃない? コーキ? イグ? 知識不足で??? 作者に色々聞いてみたい。
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知能犯の時空トリック 
行舟文化 2023年 紫金陳著 阿井幸作訳 326頁
感想
「官僚謀殺シリーズ」2作目。2作目から読んでしまった。
中国の某県で起こった官僚殺人。
共産主義国家でありながらなぜか貧富の差が固定し、貧者が一発逆転するには清華大学、北京大学、浙江大学など有名大学を卒業しなければならない。
(ちなみに作者は浙江大学卒らしい)
そして、この社会で物を言うのはお金よりも官僚の地位、権力。
下も大変やけど、上の階層も権謀術数、足の引っ張り合いのたいへんな社会で世渡りしなければ生き残れない。という疲れる世界。
 
黒川博行さんの「悪逆」と並行読みしていた。どちらも犯人の視点と追う側の視点が交互に語られる。
真面目というか固い文章、でも中国のひとも二時間ドラマ風の浪花節が好きなのね。
(反対に「悪逆」は洒脱というかカラッとしている)
黒川博行さんよりも東野圭吾さんの「容疑者xの献身」が近い。作者は「容疑者xの献身」のラストは好みやないんかも
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真贋 
☆星海社FICTIONS 2024年 深水黎一郎著 309頁
あらすじ
名家・鷲ノ宮家が保有する名画コレクションが全て贋作であった!ほんまですか?
その真相を究明するため警視庁に「美術犯罪課」が新設される。
感想
芸術探偵・神泉寺瞬一郎(しんせんじシュンイチロウ)シリーズ。芸術探偵を読むのは2冊目かな。1冊目で覚えているのはブリューゲルは5人いる(少なくとも)ってのだけ。
本作ではたぶん忘れないであろう話はふたつあって、一つ目は世界中で贋作が一番多い画家はゴッホとか。日本のゴッホも怪しいのがあるらしい。
二つ目はピカソがモディリアーニから寄贈された作品の上に絵を描いたと告白しているらしい。どのピカソ作品かは不明で、もし将来判明すれば持ち主はどちらの作品を残すだろうか。。。という話(最近はピカソの値段が下降傾向にあり、寡作だったモディリアーニと同額に近くなっているとか)
とまあ贋作の歴史の薀蓄話がたっぷり詰まっている。
真贋判定には専門家の目のみならず、エックス線で一番奥のキャンバスや下絵を探り、赤外線で鉛筆や木炭の線を探り、紫外線で表面の新しく加筆したところを探る。
そこまでせなわからんほどの作品なら、もう本物でえーやんと思うのは素人考えでそうは問屋が卸さない。唯一無二の芸術とはそういうものではないらしい。
 
ドニとかサミュエル・パーマーとかそれどなたさん?といった画家の名前が出てきて昔やったらどんな絵なの???となるところ、ありがたいことにスマホ様が親切に絵を見せてくれる時代になった。
私立美術館の閉館への怒りも書かれていて、青森の棟方志功記念館が閉館したってのを聞いたのでちょっとわかるかな。作品は青森県立美術館ってとこにに移るみたいなのでよかったけど。
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