2023年7月のミステリ 戻る

都市と都市 THE CITY & THE CITY
英国SF協会賞 ヒューゴー賞・・・
創元SF文庫 2009年 チャイナ・ミエヴィル著 日暮雅通訳 514頁
あらすじ
<ベジェル>はベジェル語、<ウル・コーマ>はイリット語と言語が異なる上絡み合った国境線を持つふたつの隣り合った都市国家は、世界でもまれな付き合い方をしている。その<ベジェル>側で若い女性の他殺死体が見つかる。やっかいなことに隣国<ウル・コーマ>が関わっているらしい。
感想
グーグルさんに聞いたところアテネ、スパルタ、ローマのような都市国家は現代地球ではモナコとシンガポールらしい。国と首都と都市が一緒とか。大阪市や京都市、神戸市がそれぞれ国家として独立したみたいな感じかな。
 
捜査を担当する<ベジェル>のティアドール・ボルル警部補によると<ベジェル>には二つの都市国家を統一しようとする一党や反対の愛国主義者の連中もいる。そしてベジェル正教徒もいれば少数派のムスリムもユダヤもいてそれなりに共存している。この架空の都市国家は20世紀の初めには「ヨーロッパの火薬庫」と言われたバルカン半島あたりにあるらしい。
 
まあどこの国も隣国との付き合いはそれなりに難しい。島国日本もロシア、北朝鮮、中国、韓国とたいへん。「ビロード離婚」と言われたチェコとスロバキアとかバルト三国、北欧は割と仲良しみたいやけど。
(話がちょっとそれるけど、地政学の入門書を読んで驚いたのは「アメリカ」は「大陸」というより「島」やねんて。米国は隣国カナダとメキシコとは関係が良好で国境守備にそれほど労力をかけんでもいいかららしい)
 
川や人里離れた山やベルリンの壁みたいなので国境線が決められているわけではない<ベジェル>と<ウル・コーマ>の国境は入り組んでいる。同じ通り、道路、階段、公園はそれぞれの名前がつけられふたつにわけて使っている。ビルや鉄道、道路は交差するところもあり、そういう場所は<クロスハッチ>地区と言われている。ふたつの国の人々は隣国人と接しないように、見ないように、認識しないように育てられる。服装や車の種類を察知した途端、あってもないものとみなす。
何ゆえそういう風にするかというと、たとえ事故であったとしても接触すると<ブリーチ>行為と見なされ突如現われた謎の<ブリーチ>にどこへともなく連れていかれ二度と戻ってこないから。ここは、映画「ゴースト/ニューヨークの幻」で悪い事したら餓鬼みたいなのに引きずっていかれるイメージ。
ただし断交しているわけではなく正式なルート、正式な場所では行き来も許されている。ボルル警部補も「<ウル・コーマ>警察のワトソンになれ」と<ウル・コーマ>に出張させられる。
 
見えたら見下したり、羨んだり、領土を大きくしたくなったりとややこしくなるもんね。「モガディシュ 脱出までの14日間」はソマリアの紛争に巻き込まれた北朝鮮と韓国の大使館員が力を合わせて脱出する映画やったけど、空港についたとたん北朝鮮の人々は自国に疑われないため韓国側を見ないように子供には手で視線を遮ってた。
パレスチナ地区を無理やり侵食していくイスラエルにも<ブリーチ>があればいいのにね。
読むのはたいへんやったけど、警察ミステリというかファンタジーというかSFというか境は明らかにならなずジャンル分けさせないお話は混沌としながらも一本筋が通り面白かった。
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