2023年6月のミステリ 戻る

人類の知らない言葉 DRUNK ON ALL YOUR STRANGE NEW WORDS
創元SF文庫 2022年 エディ・ロブソン著 茂木健訳
あらすじ
近未来の地球、温暖化が進んだらしく米国NYのマンハッタン島には大防潮堤が築かれている。
N.Y.にはロジア星の大使館もある。地球とロジア星は星交が結ばれていて地球からはせっせと紙の本が輸出されていた。
そんなそれなりに平和な日々に衝撃が走る。ロジア大使館の文化担当官フィッツが殺害される。星際問題発生!
感想
最初は「あーこういうミステリ読んだことあるなあ」「幽霊刑事のSF版かあ」と思っていた。
主人公の地球人リディアの仕事はロジ語の通訳。ロジ人とは音声ではなくテレパシーで会話する。地球語訳は英語らしい。
困った副作用はテレパシーで会話していると酩酊していくこと。たんと仕事した翌日は二日酔いに悩まされる。
いくら酒好きの英国人でもキツイ。結果なーんも覚えていないってのが大事な設定。
原題の「DRUNK ON ALL YOUR STRANGE NEW WORDS」は「あなたの言葉に酔って」みたいに日本語だと結構ロマンティックに
聞こえるからこんな題名になったのかな。原題のままでも面白いのに。
それとロジ人は地球の鉱物+電気系のテクノロジーになじめない、信用していない
どうやらロジ人の技術は生物系らしい。というのがふたつめの設定。
これらはお話を進めていくためのロジ人の特徴でSF色は薄め、ロジアの世界を見せてもらえるってのはないねん。
通訳ってのでまず思い出すのはスターウォーズのC3PO。エピソードが進むにつれ「このひとの仕事なんやったっけ?」になっていったけど。
中曽根首相が米国で日本列島を「不沈空母」と言ったとか言わないとか訳がおかしいねんと大騒ぎになったけど
通訳って黒子でも重要な仕事やね。
 
フランスがなんと言おうとスペイン語を話すひとが多数であろうとも地球の共通語は英語らしい。
先日インド映画「ヒンディー・ミディアム」というお受験の映画を見ていたら、多言語国家ということもあるやろうけど、
現代インドではエリートと非エリートを分けるのはカーストではなく英語力らしい。
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愚か者の祈り A RAG AND A BONE
創元推理文庫 1954年 ヒラリー・ウォー著 沢万里子訳
あらすじ
1953年の5月、米国のコネティカット州(NYの少し北)ピッツフィールドで顔が砕かれた若い女性の死体が見つかる
感想
面白かった。
捜査を率いるピッツフィールド署刑事課のマイク・ダナハー警部と二十八歳の刑事ダン・マロイの相棒もの・・と思う
「警察と結婚した」と言うダナハー警部が面白いねん。訳もうまいと思う。五十八歳、痩せこけた小男でシワ深く部下には陰で”サル”と呼ばれている
偏屈で口を開けば小言と毒舌の言いたい放題。いまどきこんなパワハラ上司はなかなかいない。
年金をもらえる年なので市長や署長、プレスも恐くないという取り柄もある。
 
   「われわれに何を見つけて欲しいんです? 殺人犯それとも身代わり?」
 
いまどきと比べれば、時は1953年、スマホもグーグルもデータベースもない。もちろんパーソナルコンピュータもない。DNAを始めとした科学捜査もない
ないないづくしであるのは固定電話と自動車、そして自らの足と頭を使った捜査のみ。
ダナハー警部は部下のマロイ刑事に「お前は聞きこみして事実を集めろ。推理は俺がする」というが・・・あざやかなラストやった。
 
驚いたのは2か所。5人の連れ子がいる未亡人と結婚する男の人がいるんや。
もうひとつは新しい遺体から頭蓋骨が取り出せるものなんやろか。それも70年前に。沖縄の「洗骨」も3年くらいたってからやったと思うけど。
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