2022年10月のミステリ 戻る

犬神家の戸籍 
青土社 遠藤正敬著 205頁
感想
アイザック・アシモフの『黒後家蜘蛛の会』の中に、ホームズの仇敵モリアーティ教授が書いた論文『小惑星の力学』の内容はなんだったのか?
という謎に挑む話があり、その考察にいたく感心した。
あとがきに自分は<ベイカー・ストリート・イレギュラーズ>のメンバーでありシャーロッキアン論文として書いたとか
鑑みると、さしずめ本作は「キンダイチリアン」による『犬神家の一族』の論文。
 
「犬神家の遺産相続や関係者の死亡をはじめ、妾、婚外子、婿養子、孤児、氏姓といった「家族」をめぐる諸問題、さらには犬神家関係者の徴兵や復員や戦死といった「戦争」をめぐる問題と、いずれも戸籍と不可分の関係にある。」
「この作品を読み解くカギは、ずばり戸籍にある。」
ということから1898年(明治31年)施行された明治民法と戸籍法に則って書かれている。
これが面白い。
 
明治政府が形作ろうとし現代も呪縛が残っている日本という国への考証でもある。
 
孤児、捨て子だった犬神佐兵衛は、どうやって戸籍を創設したのか 何故「犬神」という氏を選んだのか とか
婚外子の松竹梅は戸籍にどう記載されていたのか
青沼静馬は津田家の養子になっていたので津田静馬ではないか (あの場面で「津田静馬だ!」とぶちまけたら「誰?」になるね)
珠世は犬神佐兵衛の孫であるけど、戸籍は「野々宮珠世」であり、結構簡単に養子をとれた戸籍法の真髄は「家」を守るためにあり、必ずしも血族を意味していないとか
 
いままで気づかず「あーそうなんや」と思ったのは、
『獄門島』『八つ墓村』の家格と違って「犬神家」は成り上がり一家であり旧家ではないという異色作だったこと。犬神佐兵衛には旧家の縛りがなかったの。
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