2022年5月のミステリ 戻る

ベルリンに堕ちる闇 
早川書房 サイモン・スカロウ著 2021年 572頁
あらすじ
1939年12月、ベルリンの犯罪捜査部門(クリミナルポリツァイ 通称クリポ)のホルスト・シュンケ警部補に白羽の矢があたる。
線路脇で見つかった女性死体の捜査をせよとの命令が、秘密国家警察(ゲハイメ・スターツポリツァイ 通称ゲシュタポ)の局長ハインリッヒ・ミュラーからじきじきにくだったのだ。
元女優であり古参ナチ党員の妻である被害者を、派閥抗争に巻き込まれない非党員のシュンケが捜査するのがよかろう
というのが理由だった。
感想
1939年9月にドイツがポーランドに侵攻し、英国とフランスはドイツに宣戦布告する。
同じ9月にソ連はポーランドに侵攻しポーランドは独とソ連に二分され始まった第二次世界大戦。
12月は戦時下であり灯火管制がしかれ早くも配給制。そして燃料にも乏しい厳寒のベルリン。
1939年の12月ですよ。1945年5月のベルリン陥落まで5年5カ月ある。のちのち加害国と烙印を押されるが戦中の人々のこれからの道行きを思うと
読み始めから暗澹たる気持ちになる。
僅差で選挙に勝利したナチ党が法律を次々と変え強権政治を敷く。親ガチャならぬ国ガチャ。暴走する権力は恐ろしい。
ユダヤ人は更に過酷で、既に資産は没収され配給制からもはじかれそして国外脱出もできない。
 
作者は英国の方で歴史小説を書いてはったとか。本作が初めてのミステリ。
シュンケ警部補には数々の圧力がかかり首筋や背筋を寒くしながら彼なりの世渡りで困難をなんとかしのぎ、
部下と共に刑事として捜査にまい進する。
彼らは制服組(オルドングスポリツァイ 通称オルポ)とも秘密警察ゲシュタポとも違い捜査のプロなのだ。
それは調べること。足だけでなく頭を使うこと。
現場を検証し多くの人々の話を聞き、その話を調書にまとめ、なんども読み返し、類似点や矛盾点を見つける。
部下のひとりが過去の鉄道脇で起こった事件との類似点にきづく。五里霧中に突破口が開けるところが刑事物チームプレーの醍醐味と思う。
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