2021年11月のミステリ 戻る

パラダイス・ガーデンの喪失 
光文社 2021年8月 若竹七海著 372頁
感想
素人探偵が謎を解くわけやないんやけど、二村貴美子(ふたむらきみこ)警部補は、刑事やなく刑事課の総務担当やし、お茶もケーキも出て来るし、さまざまなご近所さんの人生がそれこそパッチワークの様につながっているし、コージーミステリなんやと思う。
これまたコロナ禍での緊急出版やったんやか、粗削りなんやけどね。登場する女の人たちが面白い。
特に二村警部補。フェイスシールドは本部の連中に取られたため、サンバイザーで顔を覆っている。
  「八○年代のB級SF映画に登場する、あからさまに着ぐるみとわかるロボットのように見える。」
ロボコップか? と思いましたが着ぐるみやないし、作者の頭の中にあるSF映画はなんなん。
 
特筆すべきは、この作品の舞台は2020年秋、100年に一度の世界を覆うウィルス禍でなければ成り立たなかったこと。
といっても、犯罪者の動機とか、トリックとかやないの。
鍵を握る人物が急病で病院に収容されてしまう。別に脳溢血で意識不明でもえーんやけど、それやといつの世でもええ訳で。
会話ができるんやけど入院患者の面会が禁止されていて下界で何が起こっているか知らないという状況を利用している。
なるほどなー。苦しんでいる人が多い中こんなんゆーたらあかんかもしれへんけど、ただでは起きないというか、ピンチと書いてチャンスと読むというか
 
まあ、「パラダイス・ガーデンの喪失」という題名は、平常が失われた と表現される現状を示しているともいえる。
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赤い砂 
文集文庫 2020年 井岡俊著 451頁
あらすじ
2000年7月ひとりの男が電車に飛び込む。その後、現場に臨場した鑑識のひとりと電車の運転手が相次いで錯乱し自殺する。
感想
著者がデビュー前の2003年に書かれていた小説でお蔵(古いハードディスク)入りしていたが、2020年の6月に「昔ウィルスの話を書いた」と文芸春秋の人に漏らしたところ一気に話が進み日の目を見たそうです。
 
製薬会社=悪者というステロタイプやなくて、真摯に人々の苦痛を取り除くため戦っている人々が、意図せず泥沼にはまってしまい(大義の前には多少の犠牲はしかたがないとか目的が手段を正当化するとか)、、って話の方がいいんちゃうかと思うけれど、それやとこの小説は成り立たないようなので残念です。だいたいワクチンとか薬って「多少の犠牲は仕方がない」ってものとちゃうやろか。犯人にもっと工夫が欲しかった。まあ創薬には巨額のお金がいるし。大きなお金が動くと様々な魑魅魍魎が内にも外にもわいてくる。
人類と進化し続けるウィルスとの戦いに終わりはあるのか(私は身を潜めているだけやけど。)
人間の戦いが終わり、そしてウィルスとの新たな戦いが始まりそうな終わり方はいいと思う。
 
小説の中頃にウィルスの話がコンパクトに語られている。昨年からずっと新聞に書いてあることやけどなかなか頭に定着しない。難しい。
まず、ウィルスを殺す薬は現在ない。「抗ウィルス薬」は増殖を抑えるもの。
ワクチンは例外を除いて感染前に打たなくてはならない。
ワクチンを打つ事によって「獲得免疫」を持つ。その免疫作用の内、ウィルスにまとわりついて身動きできなくするものがある。
それを「中和抗体」という。
現状「ヒト免疫不全ウィルス(HIV)」にワクチンはない。
そして薬は毒にもなりうる。そして、その反対もある。
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