2021年10月のミステリ 戻る

統計外事態 
早川書房 2021年 芝村裕吏(しばむらゆうり)著  379頁
あらすじと感想
統計(状態)とは『「集団」の「傾向・性質」を「数量的」に明らかにする』こと。
もちろん、集めたデータがダメだったり、「傾向・性質」の分析にバイアスがかかっていると導き出された「統計」は駄目となる。
たとえばスープはよくかき混ぜないとひと匙で味はわからないし、文化や日頃の食生活から舌のセンサーが違って(狂って)いると、あるべき味の良しあしは判別できない。
 
時は2041年の日本。少子化で国力は衰退し半分の市町村が消滅した
僕、数宝数成(すうほうかずなり)の本業は政府系統計分析官。在宅勤務。
データアナリストの仕事は「統計のデータ」と「実データ」の大きな差異を見つけ出して、なぜ、そうなのかを評価分析すること。 。
40歳の僕は猫を愛で、蟻の生態を人生の師とし、国の安全保障の一端も担っているがフリー。外注の身の上。年収720万円。
自分を束縛しているのは猫だけ のはずが、トラブルに次々遭遇する工作員”マイティマウス”はだいぶやっかい。遠隔でこいつの面倒を見るのも仕事の内。宮仕えなんです。
 
ある日、マィティマウスの面倒を見るのに飽き本業にやる気が出て誰に頼まれた訳でもないのに「水を使いすぎている」地区を見つけてしまう。静岡県の山奥の元集落だ。
このあたりは映画「コンドル」と似ている。訳のわからない陰謀に巻き込まれていくのも同じ。
 
あらすじを書くと面白そうやねんけど、会話文が多い割に乗れない。読み進むのに手こずる。
軽い文体なのにノミを使って岩に穴を掘って進んでいるみたい。
最初の方に現状の説明ががーっと詰め込まれているからなんやな。そして理屈っぽかったりちゃらかったりで落ち着かない。
それとも理解できるおつむやないのに、わかろうとあがくからなのか。
それでもある出来事が起こる3分の2を過ぎたあたりから頑張ったかいがあり作者もうちもエンジンがかかり、一気呵成に進む。
出現する子供たち(洞:うろ)は、作中では「狼に育てられた子供」のようと表現されている。
私はルーマニア革命(1989年)により発覚した「チャウシェスクの子供たち」と感じた。
孤児院で育てられパンとミルクしか口にしたことがない子供たちだ。作者は最初の方に「清潔だから施設虐待ではない」と書かれているけれど。
読み終わると2021年の延長上にあるデストピアな世界ながら、面白い設定が色々あったなあと思えるから不思議。
 
洞には名前がない。統計分析官は不便だからとひとりにノード番号一○八七八から「除夜那覇」と名づける。
※「那覇」は、「一、往古の時より、呉氏宅に一怪石有り。形、野菰(俗に奈波と曰ふ)の如し。遂に此の地を称して奈波と曰ふ。其の声韻、那覇と相似たり。後亦字を那覇に改む。」という説があるそうです。
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グルメ探偵 THE GOURMET DETECTIVE
バベル・プレス 2000年 ピーター・キング著  399頁
あらすじ
グルメ探偵と言ってもネロ・ウルフの様な「グルメな探偵」ではなく、
人探しも殺人事件の謎を解くこともなし。食に関する依頼に応じる探偵。たとえば貴重な食材の代替品を探したりしている。アドバイザー、コンサルに近い。
でも密かに探偵小説のファン。私立探偵へのあこがれもある。
そしてとうとう、本物の殺人事件に巻き込まれた! 
スコットランドヤードのヘミングウェイ警部からは「われわれに手を貸してくれるね」と優しい声で圧力をかけられる。
警察って私立探偵が手を出すのを嫌うんやないの?
感想
「グルメ探偵」っていうドラマの予告を見て、「原作があるんかな」と探ったところ、ありました。
ドラマはアメリカ物みたいやってんけど、原作の舞台は英国のロンドン。英国でグルメ
「美味しい料理の数々が出てきて、お腹が空いて太ったらどうしよう」という危惧は杞憂に終わる。
次元が違うねん。
スパイスも具材も出来上がったソースの香りも料理の見た目も味わいも遥か天空にあって、想像すらできない。
(家庭でも作れる料理は高名レストランで出す必要はないらしい)
出現する料理もワインの描写もサラサラ進み、ありがたいことに薀蓄だらけのくどさはなく、食傷にはならない。
料理は仏蘭西、伊太利亜料理の数々。アメリカ料理と日本料理がひとつだけ出てきた。英国料理は、やはり、ない
(名探偵ポワロ曰く「英国に料理はありません。あるのは食べ物だけ」)
 
多いのは料理やワインや探偵小説の主人公の話だけやなく登場人物も多く、最後の方に明らかにされた犯人に「この方、誰?」。
最初から読み返して探す。
グルメ探偵は料理を食べたり作ったりの合間に、あっちゃこっちゃで関係者の話を聞くねん。探偵らしく。
唯一、グルメ探偵が推理しているシーンは被害者が書き残したメモ。探偵はメモの「DrF B4CC」の謎を解こうとする。
ここで「K-9」(愛犬)がcanine(ケイナイン・犬)の略語ってのを知った。
そやねんけど、「DrF」のFは結局なんやったの? このメモが解決のなんの役にもたっていない。
だいたい、グルメ探偵は真相にたどり着かない。
が、驚いたことにあらすじを書くために読み返したら、グルメ探偵には名前が無かった。「名無しのオプ」へのオマージュやったの。
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