2021年1月のミステリ 戻る
騙るかたる 
黒川博行著 文芸春秋 282頁 2020年 1650円
あらすじ
『マケット』  彫刻の雛型
上代裂じょうだいぎれ』  奈良時代の錦の布切れ
『ヒタチヤ・ロイヤル』  ヴィンテージアロハ
乾隆御墨けんりゅうぎょぼく』 清の乾隆帝の墨
栖芳写しせいほううつし』  江戸時代の屏風
鶯文六花形盒子うぐいすもんろっかがたごうす』  殷周の青銅器
感想
欲ぼけの登場人物たちがおいしい話に大阪、奈良、京都、芦屋ついでに東京と走り回る。おもしろいわあ。
表紙絵の様に清廉潔白な居住いで「どうどす?」と魅惑するねん。
お話は徐々にテンポが上がりノリよく進む。
 
興味のない人にはなんの価値もない彫刻作品のひな形やら、古代の布のきれっぱしやらに大きな値段がつく不思議な世界。
デッドストックのアロハシャツの『ヒタチヤ・ロイヤル』にいたっては、手間暇かけ目利きや熟練の職人さんの技によってホンモンよりいい
パチモンが出来上がる。
なんかおかしいやん。
物自体が芸術品なのか、それとも希少価値ゆえに自分の宝物にしたい(自慢したい)お大尽やら
博物館やらの需要と供給により価格が決まるのか。難しい事はわからへんけど
芸術って何? それは心動かしたん? 「芸術は進化しない。変化していく」もんらしいね。でもおそらく普遍的なものもある。
 
昨年の4月から書道を習い始めたのもあって、『乾隆御墨けんりゅうぎょぼく』の
「書いたんは臨書(手本を見てその通り書く)」ととぼける食えないおじゅっさんのキャラがいいな。
 
   「あんたな、書というもんは臨書が基本や。
   野球選手のキャッチボール、ボクサーのランニング、基礎練習を欠いたらプロやない」
 
なんのプロやねん。まあ霞食べて生きられへんわなあ。
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任侠シネマ 
今野敏(こんのびん)著  中央公論新社 357頁 2020年
あらすじ
どこにも属さず一本独鈷いっぽんどっこ阿岐本あきもと組の構成員は親分以下六名。閉鎖の危機にある映画館存続のためひと肌脱ぐ。ことにする。
(親分が、独善で、人の迷惑顧みず、決める)
感想
「ヤクザが人と会社を立て直す」任侠シリーズ第五弾だそうです。
切ったはったはなくゆるゆると話は進む。
 
「お前がその話をすると、どうなるんだ?」
「ケチが付く」
「なるほど、俺たちにしかできない芸当だな に笑った。
 
コンサルみたいやねん。
 
考えて見れば大昔の任侠組はもめごとの落としどころを作り理屈と屁理屈 説得力と腕力で抑え込むという問題解決能力に秀でた人達やったのかもしれん。
昨今は「反社会的組織」という事で「暴力団排除条例」により、出前を取ることもままならない。なんだかとっても肩身が狭い。
暴走族あがりの半グレは、定期的に名前を変え指定暴力団の網をかいくぐりしたい放題というのに。
組の構成員はとても礼儀正しい。そして勤勉だ。オヤジ、オジキ、兄貴分のいう事は絶対。しかも行動が素早い。
という大企業の中間管理職から見たら垂涎ものの部下たち。
 
親分が「企業のあるべき姿」や「映画館というもの」について語るシーンは
暗い映画館の片隅でひっそり映画を見ている身には、「落語の人情話」を聞いているようで気恥ずかしい。
もっと私的なものやと思う。言葉にしにくい内面世界というか。
ウチはミニシアターの常連さんやないけど、ミニシアターにはひとりで見に来る人が多いせいか、亡霊の様にしずしずと入ってきてこそっとも音をたてず映画が終わると脇目もふらず粛々と帰っていく人が多い。変人っぽい人もいる。
コロナ禍のせいなのかスタッフの人たちとおしゃべりしている人も見当たらない。(だから滅びていくのかもしれん)
 
とここまで書いてきて、この話に出てくる映画館はミニシアターというより二番館(リバイバル映画館またの名を名画座)やねんね。
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いけない 
道尾秀介著 文芸春秋 251頁 2019年
あらすじ
第一章「弓投げの崖を見てはいけない」死んだのは誰?
第二章「その話を聞かせてはいけない」なぜ死んだの?
第三章「絵の謎に気づいてはいけない」罪は誰のもの?
終 章「街の平和を信じてはいけない」・・・・・・わかった?
の四章からなる連作短編集
感想
第一章を読み始めていきなりデジャブ感いっぱい。「蝦蟇倉市がまくらし事件1」に載っていたんやね。
 
帯の言葉
ラスト1ページが暴き出す
もうひとつの”真相”を
あなたは見抜けるか?
 
終章の「わかった?」(何が?)、帯の「もうひとつの”真相”」が、なんなんかさっぱりわからない。
 
謎が解明できない。どころか、何が謎なんかわからない。
霧の中やらプールやら歩いているみたい。各章の謎とそれが後の章で明らかにされている事と残る謎の整理がまったくできない。
第一章の謎は第三章で明らかにされているみたいなんやけど。
3回読んだ。
<ねたばれあるかも> 
山内の手の穴は煙草を押し付けられたんやなかろか。終章でケロイドってなっている。
父親(文房具屋のおばさんの甥)に虐待されていたんかな。
第二章の写真の少年の服に「HAPPY」の「H」が見えてるし。
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キリングクラブ Killing Club
石川智健(ともたけ)著  幻冬舎 389頁 2019年
あらすじ
「サイコパス(精神病質者)は悪ではない。彼らは怖いもの知らずで、自信家で、カリスマ性と非情性を持ち合わせて、一点に集中することができる存在だ。彼らは、必ずしも暴力的ではない。」
「全サイコパスのうち、成功しているサイコパスが1%で、”危険地帯”の奴らも1%だ。残りの98%は、手の届く範囲の人間をコントロールしたり傷つけたりするだけで満足する凡才だ」
その「1%の成功しているサイコパス」が集うクラブ「キリングクラブ」の会員が殺される。殺す方やなく殺される方になる。
誰が何のために殺したのか。
クラブの給仕と黒服は犯人探しを命じられる。クラブから示された容疑者は3人だ。