2018年2月のミステリ 戻る

すかたん 
2012年 朝井まかて作 講談社 289頁
あらすじ
江戸期の大坂。浪速の町は庶民の町。
夫に伴って江戸から大坂にやってきた知里はにわか病で夫を亡くした後、自活するための手習い所のおっ師匠はんを3度しくじる。おまけに長屋に泥棒が入り虎の子と夫の形見の簪を盗まれてしまった。弱り目にたたり目。そこに大家が家賃の催促に来た。八方ふさがり。シ・エンド。という所に現れたのが救世主かはたまた天邪鬼か悪魔のささやきかの浪速の若旦那清太郎。通称すかたん。若旦那は実家の青物問屋にやとたると言う。「この若旦那、私をへこましてやれってぇ魂胆なんだ。」こちとら江戸っ子だ。大坂の間抜けに侮られて黙ってすっ込んだとあつちゃあ、富士のお山に申し訳が立ちやしない。受けて立とうやないの。
感想
面白かった。ほんでもっておいしかった。まったりした船場言葉とぽんぽんした江戸っ子弁が飛び交う。
猪突猛進でどこか抜けていて詰めが甘い「すかたん」な若旦那と竹を割ったようにまっすぐやねんけど気が短くておっちょこちょいの知里。
ふたりの幻の”かぶ”を巡る騒動もよおできてた。「御松茸騒動」よりこっちゃの方が好み。
固い痩せた土地でおおきなろうとあがきひねくれていびつになった大根と、肥えた土ですくすくおおらかに育った大根の戦いの話でもある。
 
清太郎が 「そこのあんたっ、江戸のお人っ」
          「大坂はな、青物が旨いんやっ」
食いいじのはった くいしんぼうの知里に食べ物で釣って告るシーンに笑った。
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幽霊の2/3 a Ghost
1956年 ヘレン・マクロイ作 駒月雅子訳 創元推理文庫 304頁
あらすじ
アルコール依存症の過去を持つ流行作家にとっての爆弾がハリウッドから舞い戻ってきた。離婚しようとしない女優の妻だ。
彼女に振り回されると作品が書けない、アルコール依存に戻るかもとエージェントと出版社の社長は気を揉む。
とりあえず、女優を迎える内輪のパーティを開くがひとりが死ぬ。
感想
面白い。60年たっても色あせない、あっちにチクリこっちにもチクリと皮肉に満ちた作品やった。。
作家は知識人でなんでも知っているより、エイモス・コットルの様に変人で自然人である方が売りやすい。上から目線はあかんのよ。と作者は皮肉っている。
そのとげとげは「文学というもの」、ごうつくばり ビジネスマンの出版人、エージェント、言いたい放題の批評家のみならず、見る眼がなく書評や作家のイメージと流行に乗っかる読者にも及ぶ。
 
解説の人が
 誤解を恐れずにあえて言ってしまえば、ヘレン・マクロイは生涯を通じて評論家的な気質から脱却できなかった作家だ。
 
なるほど。頭の良さが隠しきれないんやね。それがちょっと鼻につくってわけね。
 
小説を読んで感じたのは、
女の人にとって、頭が良すぎるというのは大問題 なのである (と思う。本人にとって)
 
とかく世間から反感を買いやすいんですわと作者自身が語っている小説だ。(と思う。)
エージェントの妻メグの小説に対する確かな目と出版社の社長夫人のフィリパの社交性、客あしらいの能力にびっくりしたけど、彼女たちは夫を盛り立てるのが仕事やねんね。
 
原題が「a Ghost」やのに邦題の「幽霊の2/3」の意味がわからない。「幽霊」よりもインパクトある題名やとは思うけど。
3人のゴーストライターの内ひとりが犯人やったら「幽霊の1/3」やないの? それとも作家は2度死んだという意味なん。
もしかしたら犯人が2度人をあやめた事を指しているん??? 
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