2016年5月のミステリ 戻る

カクテルパーティー
エリザベス・フェラーズ 友田葉子訳 論創社 270頁 1955年
あらすじ
ロンドン郊外の小さな村のいごこちの良い交遊関係。都会から移住したライナム家、お隣のグレゴリー家、
口さがない問題児のトムを主人に持つモーデュ家、村のお医者さんマクリーン家の人々。
そこに異分子がやってくるという話が降りかかる。
それは、ファニー・ライナムの年の離れた弟キットの婚約者ローラ・グリーンスレイド。子持ちの未亡人。
しかも職業婦人である。この輪の中にしっくり納まるのか? ファニーは気をもむ。
ローラを歓迎するカクテルパーティに出されたロブスターパイは苦い味だった。おいしいと食したのは招待客の
サー・ピーター・ポールターただひとり。会の後、ポールターの体に異変が起こる。
感想
ネタバレあります。
 
 
こんな風に終わるなんて・・・(なかなか終わらない話なんやけど)
悲しい。  結局ファムファタール物やったんやね。
犯人がある人を殺す事で救われた人々もいるという所が同じクリスティの「白昼の悪魔」とは読後感がまったく違う。
 
疑心暗鬼に陥る人々。それでも自分たちの内の世界(家庭)と外の世界(友達関係)を守ろうと思惑が飛び交う。
それらの人々の思わせぶりや意味深な言葉の数々が物語のフェイクやミスリードになっている作り。
バジル・ライナムとコリン・グレゴリーがどちらも穏やかで人当たりが良く、ウチの中では似ていてちょっと困った。
 
  「ジーンが本当は何を考えているのかが、わからなくてね。だって、彼女自身がわかっていなかったんだから。
      彼女が与えられない答えを、僕はいつも見つけようとしていた。」
 
お薦め度★★★★ 戻る

奪還(女麻薬捜査官ケイト・ハミルトン)
M・A・ロースン 山祥子訳(とてもよかった) 扶桑社ミステリー 
あらすじ
麻薬捜査官のケイト・ハミルトンは31歳、悪もんを捕えるのも拳銃をぶっ放すのも大好物で血が騒ぐ。
マイアミでの潜入捜査(要はボスの愛人)で手柄を立て(つまりボスを撃ち殺し)、サンディエゴに栄転してきた。
ケイトにとってリーダシップというのは ”部下を怒鳴りつけること” のイケイケどんどんさん。。
この麻薬捜査官は米国で盛んに麻薬売り活動を行っていたティト・オリヴェラをとっ捕まえる。
ティトにはメキシコ本国に麻薬カルテルの王シーザというそれはそれはおそろしいお兄ちゃんがいた。
兄は弟を取り戻そうと組織をあげる。金にあかした参謀にはラファエル・モーラという知恵ものがいる。
感想
痛快やった。 うじうじ悩まないさばっとした主人公ケイト。誰に何を思われても平気の平左
かっこいい。  (行動力だけではなく実は頭もいい)
ケイトに「セックスフレンド」はいるが「友達」はいない。「味方」も片手で足りる。
かわいくない女で一匹狼であり趣味は家の修繕、それも実利を兼ねている。
そんなこんなでもアメリカ人らしく上昇志向は強く、権力者を味方に付けようと一応は考える姿がおかしい。
    ケイトの考えでは女はどちらかに決めなければならない。「ママになるか職業を持つか」
ところが突然過去が目の前に現れる。忘れはててた過去だ。恐いものはなにもないはずやったのに。
   (凄惨なリンチなどの残虐シーンは暗示されるだけで、あまりありません)
ケイトの事ばっかり書いているけど、証人のお騒がせ女マリアの警護をしていたおじちゃんを始め
脇の人物も魅力的に描かれている。(訳の力も大きい)
 
日本では麻薬は酒や煙草の延長上の嗜好品の依存症みたいに思われることもあるけど、軽くはびこり、とても根が深く、
罪の重いろくでもないもんやねんね。悪人に味方することになる。
ゆめゆめ手を出してはならぬ。
お薦め度★★★★1/2 戻る

午後二時の証言者たち
2016年 天野節子 幻冬舎 362頁
あらすじ
下校途中の8才の女の子が横断歩道で車に追突され亡くなってしまう。女の子の名は「桜子(さくらこ)」、ひとり親のひとり娘だった。
感想
ねたばれあります。
 
読み始めは「黒衣の花嫁」か「喪服のランデヴー」かと思っていたのに、違った。
    メッセージ色の強い小説やった。なのに作者の言いたいことがよくわからない。つかめない。
  
帯の言葉
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   誰が少女を殺したのか?
     数行の三面記事に隠された証言者たちの身勝手な事情。
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     被疑者の高慢、
     医師の正義、
     看護師の自負、
     目撃者の憤怒、
     弁護士の狡猾、
     遺族の懺悔、
     刑事の執念。
   最も罪深いのは誰だ。
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帯の文章はあおりとはいえ、最も罪深いのは被疑者なんじゃ? 故意じゃないから並列なの? 
「刑事の執念」も罪深いの? 「事故」は殺人ではないのに、命という同等の対価を求めた「復讐」は殺人なのかと言っているの?
「目撃者の憤怒」って何?
望まずに目撃者になってしまった事を指しているの? それとも巻き込まれ罪を犯してしまった自分への怒り?
キリスト教の原罪の話なんかな。
七つの大罪(医師→高慢、目撃者→物欲、看護師→ねたみ、遺族→憤怒、弁護士→貪欲、被疑者→肉欲、刑事→怠惰)?
幸せを得るには長い時間と苦労があるのに、失うのは一瞬。
娘の命を奪われしかも名誉まで傷つけられた母親の怒りは深く大きい。看護師自身の復讐から医師まで殺めてしまう。
 
嘘が重なり、間違った青信号が続くように母親は大罪を犯す道に導かれる。
なんとなく、たとえ結果は変わらないとしても、人としての「正しい行いをせよ」って語ってはるように感じる。
お薦め度★★★1/2 戻る