2012年2月のミステリ 戻る

無理
2011年 奥田英朗著 文藝春秋 543頁
あらすじ
町村合併で生まれた人口12万人の「ゆめの市」が舞台。
妻と離婚し、子供も渡してしまった32才公務員相原友則(あいはらとものり)。夫と離婚し一人暮らしの48才契約保安員堀部妙子(ほりべたえこ)。妻と離婚し、元暴走族の23才いんちき営業マン加藤裕也(かとうゆうや)。家庭円満、仕事も順調なはずの二世市会議員山本順一45才。拉致監禁された十七歳東京にあこがれる高校二年生。
災厄に出会って悪くなったり、少しは良くなったりを繰り返しながら、だんだん悪い方へ底へと転がっていく市井の人々を描く群像劇。
感想
おぞましく恐ろしいながらも、ユーモアがあって結構笑える。特に、市会議員のユーモアは「第三者的」でなんともいえん味がある。観光資源がない地方の町は、映画「サウダーヂ」(未見)でも描かれているらしいけど、商店街はシャッター通りとなりはて、えらい事になっているねんね。小説の主人公はやさぐれた「ゆめの市」
 
夢のない廃れた町で、自分ではどうしようもなくなって、カリスマ指導者やら宗教やらHやらに「ついてゆきます」とすがるというか、取りつかれていく人々がここにはいてね。「一人暮らしの48才契約元保安員」には、金もなく職もないのに、老いた母がいて。なんか、こう、ちょっと身につまされ、日々働かなきゃいけないけど、自分の人生まだマシかもと思わせてくれる。
 
加藤裕也の先輩が、高校時代のやんちゃを振り返り
 「楽しかったな、あの頃は」  
          「結局、おれらの華はあの頃までってことなのかな」
と語るのが、うら寂しい。
お薦め度★★★★戻る

犯罪
2011年 フェルディナント・フォン・シーラッハ著 酒寄 進一訳 東京創元社 218頁
あらすじ
ドイツの刑事弁護士が、実話を元に描いた11編の短篇集
 「フェーナー氏」 妻を一生愛すると誓った医師
 「タナタ氏の茶碗」 茶碗を盗んだ悪党のたどる道
 「チェロ」 大金持ちの愛情薄い娘と息子
 「ハリネズミ」 犯罪者一家の隠れた秀才の法廷駆け引き
 「幸運」 娼婦とその彼
 「サマータイム」 大富豪と女子大生
 「正当防衛」 街のチンピラが逆襲される
 「緑」 動物虐待かの伯爵家の御曹司
 「棘」 棘に取り憑かれた博物館の警備員
 「愛情」 愛情ゆえの行為はあまりに利己的
 「エチオピアの男」 数奇な運命をたどる男
感想
そっけない文体で淡々と語られる犯罪とその顛末。愛情薄い「フェーナー氏」と「チェロ」には、背筋が寒くなる。
最後に「エチオピアの男」を持ってきてあり、読後に救いが感じられる。
前編りんごが登場して(ひとつだけはトマトらしい)、暗喩となっているそうだ。
人間の業であり犯罪では無いということか、それとも他人ごとではないということかな。
ゴルゴ13を思わせる「正当防衛」が印象的。
お薦め度★★★1/2戻る