2004年5月のミステリ 戻る

イン・ザ・プール

奥田英朗著 2003年 文芸春秋 269頁
あらすじ
伊良部総合病院の跡取息子一郎は神経科の医師だ。総合病院の地下一階に巣くって診療室を構えている。ルックスは・・・でぶちん。太っている。年は35歳(自称)だが誰が見ても45歳に見える。まあ人は見かけやない。中身だ中身。それがかなり怪しいのよ。この男にとって医は仁術ではけっしてない。まあ自分を楽しませるなにか、、なわけで。
 
  「ほら このへんから」伊良部が手を伸ばし宙をつかんだ。「誰かの声がするとか」・・・
 
  「岩村さん すごいね」 伊良部が感心した。「わかっていて狂うっていうのは珍しいんだよ。」
 
などと平気の平左で患者に言う。強迫神経症で「タバコの火の不始末」が恐くて外出できない岩村に 「ガスもあるよね。」 「電気はどうよ。」と不安を増幅させていく。 注射フェチでマザコンというおまけまでついている。
 
感想
悪をもって悪を征すというか、反面教師というか、まあそんな話かな。死病ではないが一歩間違えたら自傷行為に走りかねない深刻なやまいを軽く笑い飛ばす。変人医師伊良部はまいど患者と同化した上で、それをはるかに越え突き抜け走りぬけていくのである。その「自分をかえりみる」とか「思い悩む」とかが皆無の後ろ姿に、引きずりまわされるえじきとなった患者は深く感銘を受ける。「ああなれば楽に生きていけるんだ。」と。 まあ羞恥心のある自分にそこまではいけないけれど究極の選択肢はわかったわけで。呪縛が少しとけるのである。
おすすめ度★★★★1/2
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