2004年2月のミステリ 戻る

被告
 
2003年 折原一 早川書房 389頁
あらすじ
連続殺人犯ジョーカーが確保される。犯人が死体のそばに西洋の悪魔の絵の描かれたトランプを置いておく事から、ジョーカー事件と名づけられた連続殺人だ。確保されたのは3件目の事件現場の近くで同じ絵柄の「スペードのエース」を持っていた男。しかし容疑者は頑強に犯行を否定する。
一方では誘拐事件が起こっていた。教育評論家浅野初子のひとり息子が誘拐され身代金一千万円を要求される。初子は警察には通報しない。たったひとりでかわいい息子を奪還する決意だ。
・・・・えーい、うまく書けん。要するに2つの事件が同時進行するわけだ。法廷物と誘拐物という水と油、静と動が。意欲的だよ。変質的で軽い。ところが同時進行するといっても同じ時間軸とは限らないのだな。この作者の場合。
感想
もどかしさを感じる。読む側ではなく作者の。
真実は読者に突きつけられていた内容とはまったく違うというまどわすテクニックが90へぇでありながら、話はとつとつと進む。シューっとは進まない。でも好きなんだな。作者の一匹狼的なところがいいな。離れられない。
 
 
「被告A」という題名が特にいい。作中に「自分の殺人を隠すために、他の無関係三人をまきぞえにしてカモフラージュ」と書かれている有名な作品からこの小説はオリエント急行殺人事件のオマージュでもあるんだ。
おすすめ度★★★★
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夜更けのエントロピー
 
2003年 ダン・シモンズ 奇想コレクション 河出書房新社 339頁
あらすじ
黄泉の川が逆流する、ベトナムランド優待券、ドラキュラの子供たち、夜更けのエントロピー、ケリー・ダールを探して、最後のクラス写真、バンコクに死す 
の7作から成る日本独自に編集された怪奇と幻想の短編集。
感想
「子供は宝」の話かなあと思っていた。さぼてんは子供好きって方ではない。まあ白状すれば自分に子供がいるようになってから「子供が嫌いじゃなくなった」クチだ。黒柳徹子さんが「(私に子供はいないけれど)世界中の子供は私の子のようなもの」とか太田大阪府知事が「大阪の子はみんな私の子供」っていいはるのを聞くとえらいなあと思う。男の人でああいう風に言う人少ないね。恥ずかしくて口に出来ないからか父性を売りにできないのかそんな気持ちになれないからか。どの子も宝であり未来であって欲しい。
 
「ベトナムランド優待券」でおじいちゃんは孫ふたりをつれてどこに行くんだろ。手負いのガイドの跡をつけて殺戮後の村に行くのかな。
「最後のクラス写真」では昔新聞に載っていたコラムを思い出した。聖路加国際病院の小児科の先生の細谷亮太って方が連載されていたコラムだった。その中に「子供との別れ」という話の時があって。手をつくしても救えない病気の子供に親は最期までどう接するかという厳しい話だった。朝ちゃんと起きて顔を洗って身づくろいをして勉強をさせるという内容だった。この子には勉強しても未来はないんだからという事ではなく毎日ちゃんと勉強して日々達成感を持たせる(満足かな)のだという凝縮した話だった。
 
人々の生き血を吸いとっている金や権力の亡者への深い怒りも感じる。もしかしたら人が全うすべきミッションの話かも。好きなのは「黄泉の川が逆流する」かな。でもヤラレタッ思ったのは「夜更けのエントロピー」。我が子は大事だ。どんな災厄が降りかかるかもしれないこの世に送り出すのは怖い。といっていつまでも自分の周りをまいまいさせているだけではだめ。籠の鳥にはできない。親は見守りサポートをするしかないのだという勇気のいる哀しい話だった。(ところがちびさぼは親や祖父母をサポーターとは思ってないんだよな。ギャラリーなんだよな。自分もそう思っていたから仕方ないか。はあ)
おすすめ度★★★★1/2
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