2004年1月のミステリ 戻る

月の扉
 
2003年 石持浅海 光文社カッパ・ノベルス
あらすじ
国際会議目前、厳戒態勢にある沖縄・那覇空港でハイジャック発生!
飛行機の離陸を止め犯人の男二人女一人は幼児を人質にとる。逮捕されている自分たちの”師匠”を2時間後に那覇空港まで連れてくるようにという要求を県警につきつけた。同時にマスコミに犯行声明をFAXする。犯人達の思惑どおりに進んでいるはずだったが、あろう事か密室殺人が起こる。人質の幼児の母親がトイレの中で殺害された。密室の中の密室という二重構造のトリックだ。
感想
さぼてんが思うに作者は「本格ミステリは好きだけど退屈」と感じてはるんやな。(いやさぼてんが思っている訳なんですけれど)。その退屈な話の興味をつなぐために「ハイジャック」「テロ」といった派手な演出でコーティングしてあるんだ。だから重心は「巻き込まれ型探偵・座間味(仮名)」と「ハイジャック犯」との推理合戦な訳だ。この座間味(仮名)探偵はあなどれない。急ごしらえの探偵ながらハイジャック犯を分裂させようとちまちま罠をしかけてくるのである。
 
そういう本格ミステリであるからして、「”師匠”石嶺がカリスマに思えない。とか「ハイジャックの最中じゃ? 他の乗客はでくのぼうか?」とか「傷ついた子供を救うっていう今までの活動はなんやったん? 金持ちのお道楽か? だいたいあんたはかぐや姫かい?キリストかい?」 「自分らだけ輪廻から救われりゃええというカルト集団なわけだ。」とか思って読んではいかんのである。
 
一番よくできていると感心したのは、ハイジャック犯が警察のねじを巻くために人質を殺す演出、、、やるなあ。やるなあ。なるほどなあ。考えつかなかったよなあ。 もののみごとに背負い投げくらった気分。 まじよく出来ている。その感心したのが本格ミステリ部分じゃないんだよな、これが。
 
月の光というのは人を惑わすのだ。不思議な光をはなつ月を題材にした演出がいい。「アイルランドの薔薇」よりも数段上。ただやはりどちらも好きにはなれない。なんかどいつもこいつも身勝手過ぎるんだよう〜。
おすすめ度★★★★
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安楽椅子探偵アーチー
 
2003年 松尾由美 創元クライム・クラブ 279頁
あらすじ
小学5年生の及川衛(おいかわまもる)はニ万八千円という大金を持ってゲーム機とソフトを買いに行く途中。忙しい両親の代わりに自分の誕生日プレゼントを自分で買いに行くのだ。いささかわびしい。ところが横断歩道でそっと聞こえてきた「ため息」。骨董店の安楽椅子から聞こえてきたような気がした。椅子に透明人間が座っているのかもと荒唐無稽な事を思いついた衛は衝動的にニ万八千円でその安楽椅子を買ってしまう。
感想
由緒正しい文字通りの安楽椅子探偵。なるほど。誰もが考えつかなかった盲点ですな。目の前にあったのに。たいしたもんだ。それが一番感心した点というのがいささか残念であるが。戦前の上海租界で造られた安楽椅子は意思を持ち口がきける。日本語を。のみならずシャーロック・ホームズやネロ・ウルフのように皮肉混じりに謎を解くといった名探偵。
安楽椅子探偵アーチー(アームチェアーだから)は両親が忙しい核家族で一人っ子の衛の年の離れた友達というかおじいちゃんのような存在になる。ネロ・ウルフの助手アーチー・グッドウィンと同じ名前だ。しかし結構手厳しい。
 
小学生の頃に読んだ本を思い出した。時代は太平洋戦争末期、主人公は小学生の男の子で学童疎開している。親と離れてさみしいのみならずそのぼくはみんなから「うめぼし」と呼ばれ仲間はずれにされていた。お父さんがスパイの疑いで捕まっているからだ。スパイ→スッパイ→うめぼしという連想のあだ名。孤独なその少年は壁に描かれた怪獣みたいなヘンテコな絵を見つけ友達になる。なんとその絵はしゃべるのである。その絵は長い間、昔描いてくれた少年の「戻ってくるよ」という言葉を信じて待っていた。だんだん薄くなっていたが頑張っていた。最後は戦争が終わりうめぼしのお父さんが迎えにくる。絵を描いた少年はうめぼしのお父さんだったのである。けなげに待っていた絵は出会った後気が済んだと古くなった壁とともに崩れ落ちるのである(涙)。
 
という風に別れが待っている哀しい話だったらどうしようとどきどきした。
「首なし宇宙人の謎」がいいな。衛(まもる)はSF好きなゆえにこの世の出来事には諦観したような真面目な少年であり、ミステリ好きのオタク予備軍の野山芙紗(のやまふさ)や頭のいい「宇宙人」の中西とかのキャラがたってる。この年頃の自分がもうちょっと身の行く末を考えていたら個性的で面白みのある人間になっていたのではなかろかという寂寥感を持つ。
 
訂正とお詫び
小学生時代に読んだ本と言うのは長崎源之助さんという方のかかれた「ゲンのいた谷」だった事が判明。そしてまた大きな勘違いとねたばらしを。怪獣ゲンはうめぼしが描いたものだったのです! 感想を書きながら「うめぼしのお父さんはいつ、どうして怪獣を描いたんだっけ?」とは思っていたんですよ。でもそこから深く追求しないのがさぼてん。 戦後になって息子が怪獣ゲンと出会い昔の話を聞くんですね。そう回想だったのですよ。びっくりですね(ってあほやがな)。
おすすめ度★★★
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