2003年2月のミステリ戻る

壜の中の手記 The Oxoxoco Bottle and Other Stories

ジェラード・カーシュ著 晶文社
あらすじ
1938年「死こそわが同志」から1968年「ねじくれた骨」までの12作品のアンソロジー。
感想
ジェラード・カーシュは1968年に57才で亡くなられた英国の作家だそうです。腕っ節に自信のある武道派であり酒を好み従軍記者が性にあっていた無頼作家だったみたい。でもお話は繊細。皮肉に満ちている。おとぎ話ありSFありミステリありと様々ですが、離島とか奥地とか孤独な場所が好みだったんだな。反骨精神の持ち主と一言ではくくれない。複雑だ。
 
「豚の島の女王」(19年)  
孤島で発見された四体の人骨。手足のない一体から手記が見つかる。明らかになったのは哀しい物語。何が書きたかったのかよくわからない。が、過酷な運命の中での気高い姿が美しい。  
 
「ブライトンの怪物」(1948年)  
英国の漁港ブライトン沖で捕まった怪物は全身色々な色と形に被われている。うろこの様にも見えるが蛇でも魚でもなさそうだ。日に日に弱っていく怪物の正体は、、、想像を超えますよ。このアンソロジーの中でも異色作だと思う。文化とか文明の違いとか体の形が違っているとかで酷い目に会わせていいのかって憤っているんだろうか。わからない。警告ではある。  
 
「死こそわが同志」(1938年)  
60年以上前の作品でありながら今日でも色あせていない。恐ろしい。最後はとち狂ったSF小説。  
 
「破滅の種子」(1947年)  
語りのうまさは随一。骨董商のいわゆる「不幸を呼ぶ指輪」が伝説とともに巡り巡ってその結末はブラック。  
 
「壜の中の手記」(1957年)  
アンブローズ・ピアスの失踪の謎を解明・・・。「色々な国でハゲタカを見た。どの国のハゲタカも政見を持っている。」くだりがなんともはや楽しい。  
 
「時計収集家の王」(1947年)  
以前見た「チェスプレイヤー」っていうサイレント映画にからくり人形が出てきてね。からくり人形って無表情にぎこちなく動く奇妙な物体だ。

おすすめ度★★★★
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暗い鏡の中に  Through a Glass, Darkly

1949年 ヘレン・マクロイ著 高橋豊訳 早川書房
あらすじ
フォスティナ・クレイルはニューヨーク郊外の全寮制女子校プレリートン学園の美術教師。ここんところ生徒や同僚の教師、女中までも態度がよそよそしい。赴任したばかりだというのに突然校長から解雇されてしまう。理由は言えないとの事。青白くはかなげなフォスティナのショックを見かねて外国人教師のギゼラは恋人のベイジル・ウィリングに助けを求める。 ベイジルがライトフット校長に面会を求めると「フォスティナと今階段ですれ違ったと思ったら食堂にいた。」 「庭で写生しているのに、部屋の薄暗がりにも座っている。」という目撃者が現れ薄気味悪い出来事に学園が動揺しているというのだ。
感想
聞きしに勝るホラーの名作。ロマンチックで幻想的、冷たく哀しい物語が品よく押さえたタッチで綴られる。超常現象と本格推理のせめぎ合いは深い余韻の中に終わる。霧の中に誘いだされ今もさまよっているような気持ちだ。

1845年パリの二重分身(ドッペルゲンガー)事件エミリイ・サジェ事件に影響を受けて書かれたそうです。
おすすめ度★★★★
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