2001年5月のミステリ

殺人者の顔
2001年 ヘニング・マンケル著 創元推理文庫 423頁 柳沢由実子訳
あらすじ
スウェーデンのスコーネ地方(スカンジナビア半島の南端)の早朝、隣の家の様子がおかしいと見に行った老農夫から警察に連絡が入る。寝室の血だまりの中に夫婦が倒れていたのだ。
感想
クルト・ヴァランダー・シリーズというスウェーデンの警察小説の第一作。
老人を拷問するという残酷な事件であり解決への道のりも遠いが、この中年刑事の私生活がまた悲惨。ティーン・エイジの娘は突如自殺を試みた後、失踪。妻も家と彼を捨てて別の男に走る。年老いた画家の父には呆け症状があらわれはじめる。という空中分解してしまった自分の人生に呆然としながらも、ねばり強く地道な調査を続けるという血肉のかよった人物造型とストーリーがいい。主人公が粉々になった人生のかけらを拾い集めていくのに涙するの。へこんでいる時に読むと慰められる。二転三転する捜査も面白いし、「外国人排斥運動」というヨーロッパの歴史が引きずっている苦悩も読み応えあり。
おすすめ度:★★★★

葬列
 2000年横溝正史賞正賞受賞
2000年 小川勝巳著 角川書店 414頁
あらすじ
25才の木島史郎は女房に逃げられ、幼い娘のももことふたり暮らし。幼稚園のお弁当も手作りのよきパパだったがお勤めはヤクザ。表向きは「矢野リース」という会社の従業員でホテルや飲食店へのおしぼり配りをしている。本当はまっとうな勤めがしたかった。それならどんなによかったか、、、と言っても始まらない。木島史郎がおしぼりを配っているラブ・ホテルの従業員に明日美がいた。39才の明日美は体の不自由な夫とふたりぐらし。働いて食べて寝るだけの毎日だが、それなりに幸せだ。そんな明日美の前に6年ぶりにしのぶが現れる。あろうことか、しのぶは「現金輸送車を襲おう」と誘いをかけてくる。
感想
日本にもこういうクライム・ノベルの書き手が現れたのかと驚く。確かに「OUT」の影響も強いだろうが。 やくざがまったく美化されていなかったなあ。
よわっちいヤクザの史郎や、利用されるだけのヤクザ相原の胸の内のセリフが、作者の頭の良さを反映させてか「賢すぎ、皮肉なユーモアききすぎ」ていてそれもおかしい。
ご都合主義な所もあるが疾走感がいい。男達が状況に流されていくのに対し、女達の捨て身の度胸の良さが印象に残る。それが血みどろの小説ながらも読後感をよくしている。
おすすめ度:★★★★
戻る