1999年2月のミステリ

蜜月(ミス外)

小池真理子著 新潮エンターティメント倶楽部 1998年 
あらすじ
天才画家・辻堂環(つじどうたまき)44才が急性心不全で急死する。そのニュースを聞いた6人の女性達は、環に遭遇した過去の一瞬を蘇えらせる。>>小池真理子「生きている”美”探求」シリーズもの(勝手につけた名前)
感想
六人の女の六つの恋を描く連作集。
「花のエチュード」環の伯母・光代のもとにピアノを習いに来ていた高校生・恭子
「交尾」実業家で環の父・辻堂薫の愛人・弥生
「ただ一度の忘我」夫持ち新聞社文化部の記者・杳子(ようこ)
「裸のウサギ」バニーガール・志保子
「バイバイ」バツイチ・書店に勤める・千里
「夜のかすかな名残」婚約者がある娘・仁美が環に恋しているのを心配する母・美和子
それぞれが環に魅了されたひとときを蘇らせ、ひとりで環にさよならをする。ありがちな話ではありますが、失うものは何もないという激情の恋「裸のウサギ」が一番よかったです。
この小説を読んでいて考えた事。秀でた画家というのは内面からほとばしるように「絵」を製作している最中は我を忘れ没頭するが、「できあがった絵」に対する思いというのはどれほどあるんでしょう。
おすすめ度:★★★
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脅迫なんか恐くない BLACKMAIL

パーネル・ホール著 ハヤカワ文庫 1997年 田中一江訳
あらすじ
”控えめ探偵”スタンリー・ヘイスティングシリーズ9作目。
あいもかわらす、過失弁護士(救急車の追っかけ弁護士)のリチャード・ローゼンバーグの元で、被害者の契約取りの仕事をしているスタンリー。ある朝自分の探偵事務所に郵便物を取りによると、美女が戸口で待っていた。美女が言う「ゆすられているんです。」
感想
スタンリーが妻のアリスや、死体と遭遇する名人のスタンリーには半径1キロ以内には近寄って欲しくないと思っている腐れ縁のマコーリフ刑事と「あーでもない、こーでもない」と推理をこねくりまわす過程が面白い。今回は映画「サイコ」が一役かっています。
最近のこのシリーズは気のちっちゃなスタンリーがあれこれ悩むと、度胸のいい奥さんのアリスがバンと一発決めるというおしどり探偵っぽくなってきました。ふたりが良き家庭人というのもこのシリーズの魅力です。
おすすめ度:★★★
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屍泥棒

ブライアン・フリーマントル著 新潮社 1999年
あらすじ
フリーマントルが新潮文庫のために書き下ろした連作短編集。
ユーロ・ポーロ(欧州刑事警察機構)所属の心理分析官クローディーン・カーターが携わった12の事件。
感想
もうええわといささか食傷気味。全体的に物語として物足らない。人物造形も舌足らず。ああ、興味本位に読んでしまった。 とはいえ、「第11話裁かれる者」、「第12話人肉食い」はなかなかまあまあでした。
これでもかっていう連続殺人と同じくらい不気味なのが、クローディーンの同僚で天才コンピュータ屋のクルト・フォルテカー。
電脳世界を自由に泳ぎ回るフォルテカーは、FBIを初めとしたあらゆる警察機関、金融機関のアクセス・コード、パスワード類、コンピュータ・システムへの進入方法を25年間蓄積した個人ライブラリを隠し持っている。これが俗世間の欲望からは超越した人物だからええようなもんのあな恐ろしや。ある意味コンピュータの世界って英語で統一されているから(プログラミング言語って英語だから)、言葉の障壁がない。ただ、データ類は日本の場合は漢字も多く使われているわけで、内容を即座に理解できるのだろうか?
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地下街の雨

宮部みゆき著 集英社文庫 1994年
感想
7編からなるミステリアスな短編集
「地下街の雨」  
男性作家が「俺には書けない」と思うような作品。
「決して見えない」
世間話ホラー
「不文律」    
結構恐いです。夫と妻は役割分担している方が家庭は効率的に運営されると思う。しかし、それはうまくいっている場合の話であって、歯車が狂い出すとお互いカバーできないかもしれない。
「混戦」     
卑怯者への怒りや正義の味方をこういう形で表すところが好き。
「勝ち逃げ」   
この題すごくはまっています。「やられたなあ」という家族の気持ちがわかる。
「ムクロバラ」  
今日の朝日新聞の夕刊に「折口信夫 独身漂流」の書評が載っていました。「『家があり、故郷があり、そこに懐かしい血縁の人々がいて祖先を祭っているという<伝承>の図像』をもたない、また、もてない人間、つまり漂流するひとはどのようにしていきていけばいいのかという問いを、折口の学問、文学の底に見ようとしている」  ということは反面世の中、家族のつながりにより救われている人が大多数なのでしょうね。
「さよなら、キリハラさん」
おばあちゃんへの心残りをこういうSF小説にして昇華させてはるんでしょうか。

おすすめ度:★★★1/2
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危険なやつら

チャールズ・ウィルフォード著 扶桑社ミステリ 浜野アキオ訳
あらすじ
フロリダの単身者マンションに住む30代の4人、警備会社の警備主任<ラリー・ドルマン>、製薬会社のプロパー<ハンク・ノートン>、パイロットの<エディ・ミラー>、銀食器製造会社のフロリダ支社長<ドン・ルチェット>は、独身生活をおう歌していた。いい季候、いい収入、そして若い男1に対し若い女7の住民構成から女もよりどりみどりだった。
感想
なんて言ったらいいのかな・・・とても個性的な文体、ストーリーです。
頭の中は金と女という欲望ぎらぎらの話なのですが、粗野な男性の話ではなく、おそらく会えば好感を持つ洗練された人達だと思う。このお金に捕らわれた生活は、アメリカの小説なのだなという気もする。

S男は「染色体46対のうち45対同じという事は98%同じということやろ。類人猿と人間は60%〜70%くらい同じやねんて。見かけがよく似ていて、知的レベルも同じやから勘違いするけど男と女は別の生物やで。」などとどこまで冗談かわからん事を言っとります。真意は不明ですが、この本を読むとなんとなくそうかもしれんなんて思える。しかし一方でそこまで性に捕らわれていいんだろうかという反撥もある。精神世界はまた別かもしれない。
おすすめ度:★★★★
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