1998年3月のミステリ

女達のジハード (ジハード:アラビア語 さだまった目的のための努力、狭義では聖戦) 直木賞作品

篠田節子著 集英社 469ページ 1997年
あらすじ
保険会社に勤める3人のOLを中心とした、女の人の視点からみた現実社会と、その社会との戦い、そして、自分の居場所の発見。
感想
おもしろかった。本来は「LA・・」を読んでいるはずなんですが、予約してやっと順番がまわってきた上、図書館で「次の予約が入ってますので延長できません」と釘をさされていたので、あわてて読むことにしました。土日で469ページ読めるかな?と心配でしたが、読み出したら止まらず、土曜日に読み終えました。特に前半が、非情で現実的で皮肉で愉快。さぼてんが好きなのは、「めざせ!おいしい結婚」のリサ。この傾向と対策には笑った。

専門性の高い仕事をしている人ではなく、普通のOLと呼ばれる人達は何を考えているのか? 何を毎日モヤモヤしているのか? そう、したいことが見つからないという人が多いように思う。 さぼてんもいまだに人の事は言えない。 贅沢な悩みでもあるんですけどね。
「年くったOLはいらない」という会社の姿勢に、嘆いても恨み言をいってもはじまらない。さあがんばろう。という、作者の後輩のOL達へのエールに、とても好感を持ちました。「一生懸命の人が好き」というのが感じられる文章も爽やかです。
おすすめ度:★★★★1/2
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私が愛したリボルバー One for the Money

ジャネット・イヴァノヴィッチ著 扶桑社ミステリ 358ページ 1996年
あらすじ
ステファニー・プラム、バツイチ30才。会社が倒産して6カ月、切り売りして生活をしていたが、もう売る物もない。いとこのビニーの所へ職探しに行き、バウンティ・ハンター(賞金稼ぎ)に足を突っ込むことに・・・
感想
文庫本を旅行に持って行き、読み終えてしまいました。
P.D.ジェイムズの「女には向かない職業」の明るく、はちゃめちゃ、アメリカ版。面白い。
ステファニー・プラム 対 ジョーゼフ・モレリは、幼少の頃、思春期真っ盛りの頃、その3年後、強力な磁石のN極とS極のように引っついた一瞬後には同極となり、はるかかなたに吹っ飛ぶ事を3回くり返していた。そしてまた現在、運命か磁力かホルモンのせいか、天敵どうし神経逆なで〜の二人の人生が再び交わる事になった騒動物語。さぼてんが本を読みながら何度もクスクス笑って、家族が気味悪がっていました。ステファニーのおばあちゃんがまたケッサク。2作目にも大活躍だそうです。
バウンティ・ハンターは映画「ミッドナイト・ラン」のデ・ニーロの仕事でした。
おすすめ度:★★★★
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ブラック・ダリア BLACK DAHLIA

ジェイムズ・エルロイ著 文芸春秋 502ページ 1987年作
あらすじ
第二次世界大戦直後、ロサンゼルス市内の空き地で女性の惨殺死体が発見される。<ブラック・ダリア>と名付けられたこの実際の迷宮入り事件を題材にした作品
感想
重い。暗い。タールのようなブラック。ちょっと闇が怖ろしく感じられる作品。
22才のエリザベス・ショートに取りつかれた3人の男たちの物語。1人は、小さな妹が行方不明になったという過去に囚われた警官、もう1人は、辛い過去から抜け出せない親友が失踪し、親友の恋人と深い仲になってしまったという罪悪感を持つ警官、そして最後の1人は、罪悪感を持つ警官の形を借り過去を見据えたいと願う著者。

初めの方はどこに向かうのかわからない展開でしたが、半分過ぎたあたりからストーリーがどんどん反転を繰り返し、終末へと突き進んでいきます。
ストーリーとそれほど関係なく、家の話が何度も出てきたのが、印象的でした。
続けて同じ著者の「LAコンフィデンシャル」を読みます。
おすすめ度:★★★★1/2
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狐罠(きつねわな)

北森 鴻 (きたもりこう)著 講談社 402ページ 1997年
あらすじ
店を持たない骨董業者(旗師)の宇佐見陶子(うさみとうこ)は、美の世界に身を捧げる覚悟。しかし、海千山千の橘薫堂から「目利き殺し」をしかけられ贋作を掴まされてしまった。この世界で生き残るためにも「仕掛け返し」を決意する。
感想
美しい物を崇め(あがめ)それに翻弄され、ドロドロした魑魅魍魎が跋扈する(とても漢字かけない)世界の話。楚々とした佳人の陶子は、一歩離れた学問の領域から、美をお金に換算するという世界に身を置くことにする。元夫から吸収すべきものはとったという、どん欲さもすごい。
そういう業界の話はおもしろかってんけど、「目利き殺し」に焦点をあわせてた方が、サスペンスフルになったと思う。

TVドラマ「古畑任三郎」でいっちゃん好きな話が、「うずくまる」を主題にした骨董業界の話。見た人おられます? 最後の犯人のセリフきまりましたね。 犯人役の澤村藤十郎っていう役者さんすごいなあと思っていたら(完璧に田村正和にまさっていた)、母親が見に行った「金比羅歌舞伎」のパンフをパラパラめくっていた時に、お写真が載ってました。歌舞伎の方だったんですね。(はあ、やっぱすごい演技力だあと思った私は、ミーハー?)
おすすめ度:★★★1/2
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探偵家族 FAMILY BUSINESS

マイクル・Z・リューイン著 ハヤカワポケットミステリ 229ページ 1997年 田口俊樹訳
あらすじ
イギリスの風光明媚な歴史の町バースに住むルンギ一家は、イタリアからやってきた親爺さん(オールド・マン)がはじめた探偵業を家業としていた。
感想
3世代同居家族の、ひと味違ったハードボイルド探偵物語。 ベタベタした情愛からはちょっと距離をおいた書き方の、暖かい話です。「ハードボイルドの雄」リューインも年とってまるなったなあとか思っていたのですが、訳者あとがきに「イギリス・ミステリ傑作選'88 わが手で裁く」に「ファミリー・ビジネス」というルンギ一家の短編があると書いてありました。(昔から書いていたんだ) さっそく本棚から取り出して短編ももう一度読む。本書はこのアンソロジーの短編を長編化しただけーではあるのですが、十分楽しめました。

「コージー派ではなく、あくまでハードボイルド」とあとがきで強調してはりましたが、まあ、お茶もビスケットも登場するし、なにしろ1988年アンソロジーの帯に「コージーな英国短編に酔う マイクル・Z・リューイン、ピーター・ラヴゼイらの新作が嬉しい。」とあるねんよ(別にジャンル分けはなんでもええんですけどね。ざっと掴みでぜーんぶミステリですワ)
おすすめ度:★★★1/2
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