1997年11月のミステリ

殺人探究

フィリップ・カー著 新潮文庫 485ページ 1997年 東江一紀訳
あらすじ
2013年の英国、女性警部ジェイクと多重殺人犯ヴィトゲンシュタインの戦い
感想
今回のフィリップ・カーは、またがらりと趣を変えて、近未来の多重殺人犯の哲学的考察<殺人探究>です。いやはや、読むのが大変だった。
2013年には、多重殺人の原因は外的要因(「親の育て方が悪い」というのを含みます)から、内的要因に目が向けられています。脳の中にはVMNという物質が含まれ、暴力犯罪者の中に、VMNを先天的に欠いている者がいる事が認められる。2005年には、犯罪予防の見地からVMN欠損者はロンブローゾ・プログラムに登録され、セラピーを受けている。VMN欠損者と認定され、ヴィトゲンシュタインというコードネームをつけられた男は、「世のため人のため」「同胞のVMN欠損者を消去するため」自ら多重犯罪者となる。
ラストは、J.パターソンの「多重人格殺人者」に似ています。似ていますが、似て非なるラストでした。
おすすめ度:★★★1/2
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サンタクロースのせいにしよう

若竹七海著 集英社 211ページ 1995年
あらすじ
岡村柊子(しゅうこ)27歳は、失恋から立ち直るため環境を変えようと引っ越しをすることに。ルームメイトとなった松江銀子は世間離れしたというか、ぶっとんだ超お嬢。柊子を巻き込んだ、数々の騒動が起こる7作の連作短編集。
感想
主眼がはっきりしないなあと思ってよんでいたら、あーこれ小説の形態をとったエッセイなのですね。
「虚構通信」は、作者のまわりで、何かあったのかなあとちょっと心配になる話でした。
最後の「子供のけんか」はおかしかった。なにが?それは、世の男の人は「手作り弁当」に限りなく弱いって事。それは、女の子はみんな知っている事実なのでございます。そういうのって、すごく微笑ましい。
かわいくて、そして、辛口の独特の個性ある著者です。
おすすめ度:★★★1/2
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誘拐者

折原一著 東京創元社 371ページ 1995年 
あらすじ
乳児誘拐事件から二十年後、関係者の1人が週刊誌のスクープ写真の背景に偶然写ってしまった事から、過去がよみがえる。
感想
読むのに長いことかかった。現代と過去を頻繁に行き来するし、色々な人の回想とか、独白とか入り乱れているし、独白はいったい誰なのかようわからへんし、誰かと誰かは同一人物なんは確かやねんけど、それがわからへんし・・ストーリーが輻輳(ふくそう)しています。
この作者の場合、読み急ぐと最後に訳がわからなくなるので、我慢してじっくり読む。途中で読み返して、紙に書いておさらいしたのが幸いして、ラストはすんなり頭に入って感動できました。
「沈黙の教室」より好き。考え抜かれた折原ワールドです。
おすすめ度:★★★★
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シェフの災難 Bone in the Throat

アンソニー・ボーデイン著 ハヤカワ文庫 401ページ 1997年 
あらすじ
フランス料理レストラン「ドレッドノート」のスー(副)・シェフ トミー・パガーノは、悩みがつきない。店は借金でつぶれる寸前だし、シェフは麻薬中毒だし、一番の悩みは叔父のサリー。マフィアの一員なのだ。何時厄介事を持ち込むか気が気でない。つまり「Bone in the Throat(喉にひっかかった骨)」。
感想
紹介文に書いてあるとおりの「ライトなサスペンス」です。ネロ・ウルフ物「料理長が多すぎる」とか「料理長殿、ご用心」とかシェフとミステリって相性がいいかも。凶器になりかねないもの、いつも手にしてるし(^^;)。現役のシェフ作家だそうです。
ジャンキーの人のいいシェフに、芸術家の繊細さと弱さが表れていて、ひどい目にあったらカワイソーとちょっとドキドキ。
トミーが女友達のシェリルに浮気がばれるとこ、恐いよー。カンのいい女の子ってのは面白みはあるけど、恐いね。
どっちがいい?頭の回転が速くて面白くてカンのいい子と、ボーってしてて気がきかないけど優しい子と?

・・・と、さぼてん男につめよったら、返事は「1人で暮らす」。
おすすめ度:★★★1/2
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嘘でもいいから誘拐事件

島田荘司著 集英社文庫 209ページ 1988年 
あらすじ
「嘘でもいいから誘拐事件」・・・猿島の「嘘でもいいから殺人事件」から1年後、TPSテレビの軽薄ディレクター軽石三太郎とスタッフ一同は「こんばんワン」と鳴く犬を訪ねて、東北の秘境へと向かう。
「嘘でもいいから温泉ツアー」・・・それから7年後、めでたく軽石三太郎はプロデューサとなり、スタッフ一同も一個ずつエラくなったけど、あいかわらず高視聴率めざして頭をしぼる毎日であった。

感想
笑った笑った声を出してケタケタ笑った。特に「嘘でもいいから温泉ツアー」が面白い。みんな楽しそうなので、読んでいるさぼてんも楽しい。
いや、みんな大変そうやねんけど可笑しい。「やらせの三太郎」から「タイアップの三太郎」にイメージチェンジした軽石三太郎。「二時の毎度ショー」で放送する温泉ロケ途中、ルート沿いのお店や工場とタイアップを取り付けて、商品をなんでもかんでも無理矢理画面に押し込む、「泣く子も笑うユーモアミステリ」。

おすすめ度:★★★★
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ルームメイト

今邑彩著 C★NOVELS 277ページ 1997年 
あらすじ
大学生になったの萩尾春海は、上京して東京でアパートを捜すうち、不動産屋で大学生の西村麗子という女性と知り合う。ステキなマンションがあるのだが、家賃が高すぎてという麗子は、ルームメイトにならないかと春海に持ち掛ける。育ちがよくおとなしそうに見える麗子に好感をもち、春海はお互い干渉しない約束で生活を始めた。
感想
春海のルームメイトが帰ってこなくなり、探しに行く所から春海の先輩工藤謙介が登場し「火曜サスペンスドラマ風」やなあ・・・と思って読み進むうち、なんだか話がみえてきたなあ、これでドンデンがあったらすごいなあ・・・と思って読み進んだら・・・なかなか満足できる後半とラストでした。
おすすめ度:あっさりした書き方で読みやすい。そやけど、アイデアが良いので、もっとオドロオドロした作風とか、もっと突き抜けた書き方とか色々なバージョンが読みたいなと思う。★★★★
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失踪当時の服装は

ヒラリー・ウォー著 創元推理文庫早川書房 341ページ 1952年 山本恭子訳
あらすじ
18才の大学生ロウエルが、こつ然と寄宿舎からいなくなった。駆け落ちなのか、犯罪にまきこまれたのか?
感想
巻末の解説にあるように「警察小説の一つの型として完成された作品」です。地道な捜査の前半は遅々として進まず、”傑作”と聞いていなければ、途中で放りだしたかもしれません。後半は、俄然サスペンスが盛り上がってきます。

−−−−− ネタバレあります −−−−−
つきあっている彼の仕事が忙しいとかで、遠いところを毎週のように会いに行っていた女の子が何人かいましたが、いずれも実りませんでした。ルックスのよいもてそうな男の人だったからか、色々理由があると思います。でも、男性にはハンターの本能が残っているのかもしれません。(えーつまり、女の子の方がたんびたんび会いに行っているようでは分がないのでは?という意味やってんけど・・・最近はそうとも言えないみたい)
おすすめ度:★★★1/2
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