漆原啓子&David Korevaarデュオリサイタル報


 2004年6月27日(日)午後7時、横浜みなとみらい小ホールにおいて標記のリサイタルがThe Music Center Japanの主催で開かれました。The Music Center Japanはプロ・アマ両方のプロモートに力を入れていますが、ここの主催で呼ばれるプロは、有名かそうでないかにかかわらず、高い境地の演奏をする人たちであることがだんだんわかって来ました。

 さて、ピアノを含む室内楽の課題の一つに会場の残響の問題があると常々思っています。ピアノはもともと残響性の音質だし響板も持っているので、会場としてはあまり教会みたいな残響はない方がよいのに対し、バイオリンはライブな部屋の方が聞きやすい面があります。みなとみらい小ホールは紀尾井ホールに似て音質が大変に良いホールですが、この日はあとほんの少しデッドだといいのだがという気がしました。ことに最初のイタリア協奏曲はもう少しエコーが少ない方がバロックらしく聞こえたのではないかと思います。(聴衆が少なかったわけではありません。いっぱいでした。5月に同じホールを聞いたときはほどよく感じられたのですが・・・)

 演奏は・・・すばらしいものでした。自然だし、きれいだし、迫力がありました。イタリア協奏曲のいきいきしていたこと。一流の演奏は恣意的なところなくなお自然な起伏に富んでいます。第二楽章に二度現れるオルゲルプンクトに乗る長いクレシェンドも、いかにもという感じでなく控えめなのに、音楽的に大変高揚していました。
 フランクはこの日最も感動的な演奏だったのではないでしょうか。深く、美しく、ふくよかで堂々としていました。ここで入った休憩に余韻を残しました。
 ブラームスのハイドン変奏曲はフランクと並んでこの日最も好きな演奏でした。もともときっちり弾かれるだけで聴き応えのある名曲ですが、個々の変奏の様々な技巧の楽しみとフーガの盛り上がりの楽しみがコレヴァールの構成感に花を添えていました。
 スペイン民謡組曲は初めて聞く曲でしたが、個性的な小品の集まりで、重い曲が続いた後ではお口直しといった風情でした。ブラームスとは味の系統が違うので、プログラムの初期の方というのでも良かったと思うのですが、それだと時間的バランスの問題もあったかもしれません。
 ヴィエニアフスキーでは漆原はハイフェッツばりの技巧を見せました。これは狂乱するヴァイオリンの技巧を見せるための曲ですが、そういうものの中では大変充実感のある曲ですね。この曲ばかりは、曲の構造から言っても、視線は終始漆原に釘付けになりました。
 ツィガーヌは世の中で最もカッコいい曲の一つでしょう。オーケストラ伴奏版もありますがピアノ伴奏の方が好きです。海原の小舟同様、もともとオーケストラよりピアノ向きの音楽なのでしょう。伴奏という言葉は不適なほどピアノパートも凄味に満ちています。二人の演奏は、ねっとりした部分はねっとり、速い部分は普通より速めで、最後に向かってどんどんせき込んで行くところも異常な盛り上がりを見せました。よくこれで破綻しないものです。

 漆原啓子はその知名度が本物であることを十二分に証明する演奏でした。すっと立ったまま奏でるバイオリンの変化自在なこと。上体を鞭のように前後にしならせるバイオリニストも魅力的ですが、漆原のようにシャンとした姿勢を保った演奏もまたいいものです。若いころはアイザック・スターンのようなバルトーク向きの音質でしたが、今回パールマン的美しさも発見し、ちょっとシェリングやミルシテインの境地を垣間見ました。すごい人です。
 コレヴァールさん(多少私的交流があるのでさん付けを許してください)もいよいよ深くなってきました。この人はもっと知られてしかるべきピアニストだと思います。高名な漆原がデュオのパートナーとしていることが、その実力を示す一つの証左でしょう。ますますの活躍を願うものです。

プログラム (写真はここ    休憩 [2004年7月4日 記]
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