ヴァイドマン教授のパズル [2015年11月1日]

 今年(2015年)7月創刊に続き、科学者の随筆雑誌「窮理」2号が発売されました。 私は連載記事を持っているのですが、2号ではヴァイドマン教授をとりあげました。 そのオマケの続編みたいなことを書きましょう。 窮理本文で書いたように、教授はパラドクス好き、パズル好きなわけです。 まじめ一徹に見える人ですが(事実そうですが)飲み会の席で話題が途切れたとき、パズルやクイズで場を繋ぐところもあります。 ここで紹介するクイズもその一つです。

「全く同じ容器二つに、片方は水を、もう一方には沸騰しているお湯を等量注ぐ。 これを同時に冷凍庫に入れたら、全部凍るのはどちらが先か?」

このクイズの正解は「水の方だ」だったらつまらないわけで、 出題意図分析による解法の観点からも「お湯の方だ」と答えることになるわけですが、 もちろんその理由を言わなければなりません。 居合わせた人達はやれエントロピーがどうのと議論し出しましたが、しばらくして教授は言いました。
「ヒントをあげよう。あまりサイエンティフィックなクイズではない。エントロピーがどうのとか」

このヒントは、それを聞いてウチの准教授が正解したという意味では適切なヒントでしたが、 十分サイエンティフィックなクイズだと思います。で、その正解はわかりますか?

そう、「沸騰水は蒸発を続けて量が減るから、その分、凍り終わるまでの時間が短い」

が正解でした。

 その場はそれで話が終わりましたが、何事も実験できる限りは確認したがる私は、実験してみました。 次の写真の左が沸騰しているヤカンから注いだ湯、右が水で、どちらも縁の模様ギリギリのところまで入れてあります。 左は沸騰の様子が見えませんが、肉眼では湯気モワモワが見えています。 これを冷凍庫に入れました。
“写真1”

途中、様子を見ると、確かに左の方が水量が減り始めています。 しかし量の差はそれほど大きくはなく、この差で初期温度の違いを乗り越えて凍り終わる時間が逆転するか、微妙に思いました。 この実験はある程度精度が要りそうです。 そもそも全部凍り終わる瞬間の時刻の判定は、台所実験では無理です。 そこで、同じ具合に凍り始めていれば同じ温度になったと考えられるので、 そこから先は量が少ない方が先に全部凍るということにしました。 凝固の潜熱は大きいので、そう考えて妥当でしょう。 何回かやってみてどちらも同じころ同じように凍り始めることを確認しました。 あとはどのくらい水量に差が出ているかですが、 最後にできるだけ正確に水量を等しくして(上の写真)、十分凍らせたあと取り出しました。 左が減っている感じでしたが表面がデコボコ凍っていて定量的にわかりにくいので、 蓋をかぶせて出勤し、 自然解凍した水面の深さを帰宅後比較しました。 次の写真がそれです。左が減っていることが明瞭にわかります。

“写真2”

ということで、ヴァイドマン教授のクイズのパラドキシカルな正解を、台所実験程度の精度ではありますが、確認しました。

[2015年11月1日 記]


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