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連休中のある晴れた日、早起きして上野に行って、シャガール展を見物したあと、不忍池沿いを散歩しようと、ズンズンと歩いていった。その途中、「東照宮ぼたん祭 5月6日まで開催中」の立て看板を発見、気分は一気に、武田百合子さんの『遊覧日記』。まあ! と大はしゃぎしつつ、そのまま歩いていると、おんなじ看板がしつこく何度も登場、その矢印は東照宮の方向を示していて、東照宮ぼたん祭! そのままズンズンと東照宮へと向かっていった。ますます早足で。

東照宮ぼたん苑 というわけで、東照宮の入口にたどり着いて、大感激。と言いつつも、入場料600円という文字は入場の意志を阻止させるのに十分過ぎるくらいだった(せこい)。でもでも、ちょっとだけ「東照宮ぼたん祭」気分を味わいたいと淡い望みを胸にここまでやってきたのだった。入口の近くに牡丹の鉢植がささやかに置いてあった。ここだけでも「東照宮ぼたん祭」気分を味わうのに十分過ぎるくらいだ。ふつふつと嬉しかった。

……と、大変満足しつつ、不忍池沿いを散歩した。不忍池というと、思い出づるは年末に上野に来たときに眺めていた鴨の群れ。が、さすがにもう鴨は一羽もおらず、残念。季節はめぐる。季節だけはめぐる。あの鴨たちは今どのあたりを飛んでいるのだろうか。鵜が一羽ものすごい高速で泳いでいて、ちょっとかっこよかったけれども、鴨に会いたかった身としては、心の隙間は埋まらず。友人の話だと、井の頭公園で見た鴨の方が見ごたえがあった、とのこと。うーむ、うっかり見逃していた。来年はぜひ。

蓮玉庵でお蕎麦を食べたあと、銀座線に揺られてとろとろと、青山に行った。まずは根津美術館を見物、催しは《近世の草花図》。シャガール展のあとに見ると、さながら食後のしみじみ味わう緑茶のひととき、といった感じでとてもよかった。それから、いつもながら茶道具の見物の時間はそれだけで楽しいのだった。

根津美術館の杜若(たぶん) それから、庭園内を歩くひとときも、しみじみ胸にしみいる至福。森林浴気分を味わいつつ、茶室の前を通って、池にさしかかったところで、尾形光琳の絵そのまんまの、杜若(だと思う)が咲いている一角があって、これが目に入ってきた瞬間のよろこびといったら! ちょうど先月、お能の『杜若』を観たばかりでもあるので、さらに格別だった。

……と、大変満足しつつ、庭園内を巡り歩いて、再び杜若(たぶん)の花が見えてきたところで、水面をピシャピシャッと走っていくものがあるので、目を向けて見ると、鴨が二羽、歩いているではありませんか! 先ほどの不忍池での心の隙間が一気に埋まり、鴨を眺めてまたもや大はしゃぎだった。そんなこんなで、庭園にだいぶ長居をしてしまった。



家に帰って、『遊覧日記』を読み返し、やっぱり「東照宮ぼたん祭」入場しておけばよかったなあと、少し後悔。今度は、不忍池の蓮の花が咲く頃に上野に行きたいなと思う。