古都の空の下



 三年前の秋、紅葉の美しさに魅せられた京都。
またいつの日か訪れたいと思っていた。
そして今回、紅葉には少し早い11月上旬での一泊が実現した。

 駅までの道では、雨がぱらぱらと降っていた。
この数日は雨続きで、京都へ行っても、一枚の写真すら撮れないことも、覚悟していた。
前夜聞いた天気予報に希望をいだいて、傘をささずに駅へと急いだ。

 東京駅8時発の、三年前と同じのぞみに乗る。
車窓から見る空は、雨は止んでいるものの、厚く立ち込めた雲が、どんよりとさせていた。
静岡を過ぎた辺りだっただろうか。
遥か前方の空の端に、青色の空が細く帯状に見えることに気がついた。
あまりにも鮮やかに層ができていたので、空だと確信できるまでに時間がかかった。
幾重にも重なりあっていた曇り空のベールは、京都へと近づくにつれ、すぅっと後方にひかれ、青空の面積がぐんぐんと増えていく。
晴れやかな空模様に、京都行きの気分は自然と盛り上がっていく。

+ + + + +


 京都は、申し分ないお天気だった。
薄手のカットソーにストールをまとうだけで暖かい。
ホテルに荷物を預けて、大原行きのバスに飛び乗る。
吊り革につかまり、バスに揺られること1時間。
車窓から見た青々とした木々の群れの中には、色づき始めた枝も、ポツポツと確認できた。photo

 バスを降り、コスモスの揺れる山里の道を抜け、みやげ物店の並ぶ細い坂道を歩く。
こたつが用意されたお食事処もあり、思わずほほえましくなる。
初めて訪れた大原は、懐かしさを感じるほどに、のどかだ。

 宝泉院の玄関脇では、不如帰(ホトトギス)の花がひっそりと迎えてくれた。photo
宝泉院と実光院での、お抹茶とお菓子の心尽くしが嬉しく、ほっとする。

 実光院は、初秋から春まで花をつける桜の樹があると知り、出発前から楽しみにしていた場所だ。
門前に掛かっていた"不断桜チラホラと咲いています"の文字に、心が躍る。

photo 桜は薄桃色で、青い空に儚げにそよいでいた。
この季節に桜が見られるだなんて夢のよう。
南天の実がこぼれ、苔の上に転がる。
紫式部の艶やかな実。
天に向かい真っ直ぐに伸びた木。
こぢんまりとしていながらも開放的なお庭の景色は、時の経つことを忘れてしまう。

 三千院では、訪れる前から鮮明だった、見覚えのある景色が続いた。photo
これは、眠る前にガイドブックを眺め、京都でのプランを練るのが日課になっていた時期に、夢の中で何度となく、大原を歩いていたからだ。
photo目覚めた時、脚が筋肉痛になっていて驚いたこともあり、幽体離脱の一種かと真剣に思ったりもした。
夢の中での記憶と、現実の風景とが交差する不思議な空間に身を置くと、苔の緑が目に眩しかった。

 大原の時はゆるやかに流れる。
気がつくと、予定していた時間はとうに過ぎていた。



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