モネの愛した花
クロード・モネの愛した睡蓮が咲く季節となった。
睡蓮は早朝に静かな水面をゆらして開き、夕方には閉じてしまう花。
人間でいうところの、早寝早起きが身についている花。
睡蓮の花の名は、夜に眠るところから睡眠の睡の字があてられたという。
私が睡蓮に逢いに行ったのは、空梅雨の明けていない6月下旬の、太陽が真上に近い時刻だった。
蓮池に行くと、水面にたくさん浮かんだ 丸い緑の大きな葉の影に、鮮やかな濃いピンクの花が見える。
沼のような池の中からどうしてかと思うような真っ白い花や、ほんのりと淡いピンクの花も開いている。
水路やヌカルミに気を付け、足を滑らせないように歩いた。
さえぎるもののない蓮池には、夏の日差しが容赦なく差している。
水面が眩しい。
緑濃い葉の中に散在する睡蓮の花には、華やかさは感じられないが、神々しいような凛々しさがある。
白い花は、緑の葉の中央で輝いていて、「水の女神」という意味の学名を持つことにも納得。
水中は茎ばかりというけれど、水面にヒョッコリと浮かび上がった小さな花の茎は、一体どの位の長さなのだろう。
そんなことを あれこれ思いながら、眺めていた。
ふと気がつくと、耳慣れない音が聞こえる。
"キュポンッ"という高い音だ。
音が聞こえた方向に耳を澄ましてみると、今度は別の場所からも聞こえてくる。
辺りを見回してみても、農作業中の方が遠く離れた畑にいらっしゃるだけで、他には誰もいない。
一体何の音だろう・・・。
水面の様子を見ると、ブクブクと泡が立っている。水中生物がいて、その泣き声なのかもしれない。
そう思った後に、睡蓮は"ポン"という音をたてて開くと、以前聞いたことを思い出した。
そう、"キュポンッ"という音の正体は、睡蓮の開花の音だった。
初めて耳にした音に、感激!
"ポン"という単純な音ではなく、私には"キュポンッ"という表現しにくい音に聞こえる。
この開花の音が聞きたくて、開花する花の様子が見たくて、早起きをして蓮池に足を運ぶ人もいるという。
早朝の涼しい空気の中で、凛とした睡蓮を見ながら、ここで一句ひねるのもオツかもしれない。
これは遠い将来の楽しみにとっておこう。
中国では、荷葉杯(かようはい)といって、葉の上から茎を通して注いだお酒を飲むと、長生きをするという言い伝えがあるという。
睡蓮の開花の時の音は、空洞の茎と池の水のなせる技なのか。
空洞と水。幼い頃に聞いた水鉄砲を引き抜いた時の音を、思い出してみた。
私の記憶の中の音は、似たような音に聞こえる。
それにしても、こんな暖かい日のお昼に目覚めるなんて、睡蓮でも寝坊するのかしら・・・。
そう思ったら、何だかとても微笑ましい気分になった。
目覚めの音まで聞けるとは、思いがけない幸運。
「水の女神」のお陰かな。
ふとそよいできた風に、モネの庭に咲く睡蓮を思い、モネの愛し描いた花を思った。
田んぼに囲まれた静かなこの蓮池の風景を、モネならどんな風に描いただろうか。
by kuni92 (kuni92 kokoda)
モネの愛した花
97/07/20
水辺の花が恋しくてに、本エッセイの訂正があります。
合わせてご覧頂けると幸いです。
睡蓮の画像もあります。
モネの睡蓮はこちらで見れます。 FITWebインターネット美術館
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