2002年3月8日(金)
福ノ浦漁港 20:45〜23:30
長汐、満潮17:41、晴れ、風やや強し
【前編です】
前回の今年の初チヌに気を良くして、今夜も福ノ浦でチヌ狙いです。
誰にも内緒ですが、今年の目標チヌ10尾と設定しました。
家で晩ご飯を食べたらすぐに出発しようと思っていたのですが、お風呂に入っていたR紗(5才)の「お父さんもお風呂にはいり〜」と呼ぶ声に逆らえず風呂に浸かったりして、結局現地(福ノ浦漁港)に着いたのは20:45頃になってしまいました。
予定よりもずいぶん遅いスタートです。
今夜は18:00前に満潮を迎えていますので、すでに下げに入って3時間以上経っていることになります。
あんまり条件は良くないなーという気がしました。
エサは途中OS釣具でイワムシを50g、コンビニで菓子パン(これは私のエサ)を調達済みです。
福ノ浦に着いてすぐ、漁港全体がやけに暗いことに気がつきました。
5箇所くらいに設置されている常夜灯に明かりがまったく灯っていません。
そのかわり、最近できた倉庫のような建物の蛍光灯がその周りだけを明るくしていました。
何か工事中なんでしょうか。
それとも夜の釣り人の排斥のため?少し心配です。
立て札か何かあるかなーと探してみましたが、何もありませんでした。
昼間の福ノ浦。この犬走りに竿を立て掛けます。真っ暗い中、ヘッドライトとランタンで竿の準備をします。
ホリデー磯4.5mと浜島DX5.3mの3号磯竿遠投仕様コンビにそれぞれイワムシをつけて遠投し終えたのが、21:00過ぎでした。
波が割りと大きくうねっています。
早々に2本とも根掛りでオモリまで飛ばしてしまいました。
10号のオタフクオモリを付け直します。
犬走りを越えて下をヘッドライトで照らして見ますと、潮はすでにかなり低くなっていました。
ごろた石や岩がかなり頭を出しています。
さて、今日の第1投めからまだ一時間も経っていない、早めの時間帯でそのアタリはやってきました。
ホリデー磯のエサを付け替え、ぶん投げてベールを戻した時でした。
ゴンゴン!グワンッ!!
横に立て掛けてあった浜島DXがいきなり飛び跳ねました。
次の瞬間には竿先が海の方へ引き込まれ、犬走りを支点にして竿尻が私の胸の辺りまでぶわっと持ち上がってきたのです。
右手でその竿尻をひっ掴み、まだ糸ふけもとっていないホリデー磯を投げ捨てました。
浜島DXを両手でしっかり握り、竿を立てて構えます。
すると、これまでに経験したことのないような強く鋭い引きがゴゴゴン!という感じで伝わってきました。
「来た、来た、来たっ!」
一気にアドレナリンが放出してきます。
リールを巻き始めて気付きました。少し様子が変です。
ゴゴゴン!ゴゴゴン!
何が変って、ちょっとこれは締め込みが強過ぎるのです(!)。
犬走りの上に立ちました。
竿を立てたままリールを巻きますが、すぐにググンッググンッと締め込んできます。
竿をためてこらえます。
隙を見てまたリールを巻きます。すると向こうも負けじとゴゴゴンッ!と暴れます。
思いっきり投げ飛ばしていた仕掛けをそんな風に巻き取っていくわけですから、なかなか近くには寄ってきてくれません。
どう形容すればいいのでしょう。なにか暴力的な抵抗の仕方です。
「ゴゴガガン!ゴゴガガン!!」音まで聞こえてきそうでした。
「これは噂に聞く真鯛の引きではないのか?」
そんなバカな考えもふと頭をよぎりました。
10回以上はそんな締め込みを受けたと思います。
その合間合間に少しずつリールを巻いていますが、最初は多少斜め下方向に逃げるようにもがいていたその魚は近くに寄ってくると真下に突っ込むような勢いで竿を曲げてきました。
「とにかくこらえよう、こいつがバテて浮いてくるまでこのまま辛抱しよう」
落ち着いて、我慢するしかありません。
しばらくすると、やっと奴の動きが止まりました。
道糸にテンションを掛けつつ、首にぶら下げていたヘッドライトを海面に照らします。
最初にその魚の白っぽい腹が目に入り、それが魚の全体像だと思った私は釣ったこともないのに「マゴチ?」なんて思ったり。
しかし、波に揺られてすぐに全体が見えてきました。
「おお…」
白波と岩の間に大きなチヌがゆらりと浮かんでいたのです。
「やった!やった!やった!!」
声にこそ出しませんが、心の中で狂喜乱舞とはこのことです。
あとはこいつをどうやって取り込むかですが、それがどれほど大変なことだったかを後で思い知ることになるのでした。
いや、本当はその大きさと手元にズッシリと伝わる重量感ですぐに、
「こいつ持ち上がるんかいな…」
と心配にはなったのですが。
今夜、タモは車のトランクに入れっぱなしでした(実はタモがあっても、すでに潮が低すぎて届かなかったのですが)。
抜き上げるしかありません。
道糸にテンションを掛けつつ巻き取って、「くおりゃ〜」っと持ち上げます。
が、しかし上がる気配がありません。
4、50cmくらいのボラはここでよく抜き上げている私です。
前回は33cmのチヌも一発で抜き上げることができました。
もう一度力を入れます。
竿がギリ・ギリっときしみながら曲がっていきます。
まだ魚は海面を離れる気配がありません。
ギリッ・ギリッ、竿がさらにきしみますが魚は上がってくれません!
「フ〜ッ」
竿が折れるかハリス(2.5号)が切れるか、その両方の心配が私の力を弱めます。
「あかんがな…」
関西に6年ほど住んでいたことがあるため、こんな時は関西弁で弱音を吐いてしまう私でした。
4、5回トライしましたが、駄目です。
どうしても最後には力を弱めてしまいます。
周りに人がいたら車のキーを渡してタモを持ってきてもらうのになぁ、などと考えましたが真っ暗な今夜の福ノ浦に釣り人は私一人。
「車のキー渡したらそのまま乗り逃げされちゃったりしてな、ハハハ」などと、変に余裕の想像までしてしまいました。
それにしても、どうしましょう。
ちょっと判りにくいけど、これが犬走りを越えた様子です。夜はさらに怖いんです。「う〜ん、どうするか…」
下を覗いてみますが、最初の一足を乗せる岩がかなり下にありますので、竿を掴んだままでは下りられそうにありません。一歩目を踏み外したら、そのまま岩にぶつかりながら夜の海に転落です。
二つに一つの選択しかないと判断しました。
一つ目は、一か八か再度抜き上げをやってみることです。
竿が折れても、ハリスが切れても仕方ありません。運を天に任せる方法です。
二つ目は…
二つ目の方法に賭けることにしました。
それまで道糸にテンションを掛けつつ持っていた竿のリールのベールを起こします。そして、ぶわっと竿をあおって道糸を出しました。
そうやってから、竿を犬走りに立て掛けて、一目散に車にタモを取りに走りました(笑)。
奴はかなりグロッキーのはずです。
うまくいけばしばらくは海面に浮いていて、私が戻ってくるのを待っていてくれるかもしれません。
元気を取り戻した時のことを考えて道糸を出しました。
多少は暴れるかもしれませんが、いくらなんでももう最初の竿をひったくるパワーは残っていないだろうとの読みです。
「ひい、はあ、ひい、はあ、」
常夜灯がすべて消えている真っ暗な福ノ浦漁港をひたすら走り、タモを持って戻りました。
竿はまだそこにありました。
とりあえず一安心。
ここまできたら腹をくくりましょう、慌てないことです。
タモと竿を犬走りの上に横たえました。そして、足元をライトで充分に確認しながら両手で犬走りにつかまって、ズルズルと身体を海側に下ろしました。
最初の岩に足が着きました。
犬走りから岩までは丁度私の背丈くらいの高さだったようです。
手探りで犬走りに横たえているタモと竿を掴み、下ろしました。
タモを岩場に固定しておいて、竿をあおってみます。
「ガツン!」
なんということでしょう、どうやら根掛かりしているようです。
奴が息を吹き返して、岩の間にでも潜り込んだのでしょうか。
「やっぱり、一か八か抜き上げてみるんだった…」
「!」
その時、一瞬ですが私のヘッドライトに照らされた海面に、先程から犬走りの上で見ていたのと同じ光景が照らし出されました。
そう、奴がユラ〜っと波間に浮かんでいたのがチラッと見えたのです。
慌ててタモを手繰り寄せ、またヘッドライトで海面を探します。しかし海面は波っけがあるため簡単にはみつかりません。
やみくもにタモを突き刺します。また、一瞬奴が見えたような気がしました。
ザバッとタモを突き出して持ち上げますが、空振りです。
また見えました!今度こそ!!
タモがぐっと重くなりました。
「やった、はいった!」
こいつが”奴”です!ついにやりました。チヌゲットです!
力を使い果たしていましたので、しばらくはその岩場で動けませんでした。
「ふうっ・・・」
やっとのことで犬走りをよじ登り、こちら側へ戻ってきました。
もちろん竿と、チヌが収まったタモも一緒に引きずり上げています。
チヌを見てみましょう。
横たえて、指でざっと寸法を測りますと、40cmは軽く越えているようです。
お尻が赤くなっていますので、確かこれはハラミの印だったはずです。
30cm台のチヌを見慣れているせいでしょうか、こいつの顔つきは間近で見ると、凛々しさよりもなにか物の怪系の雰囲気を漂わせているような気がしました。
「もしもし、俺。でっかいチヌ釣ったぞ!」妻に電話を終えたのが22:00を少し回った時間だったと思います
奴の大きさは?さあ、お次は写真撮影です。
おっと、その前に、糸ふけも取らずに放って置いた4.5mホリデー磯のリールを少し巻いて仕掛けを落ち着かせると、犬走りに立て掛けました。
それからチヌをタモに入れて明かりのある倉庫のような建物の前まで歩いて行き、そこでバシバシ写真を撮りまくりました。
ふ〜っ、心行くまでデジカメのシャッターを押してきました。
次は絞めて血を抜こうと、椅子に座り、チヌをミニまな板に横たえます。
ちょうどその時、駐車スペースのほうから二人の人がこちらの方へ歩いてくるのが見えました。
「しめしめ。。。どうですか?って聞かれたらこれをみせてやろう」
そう思いながら、滑り止めのためにチヌの顔をタオルで覆っていた時です。
椅子に座っている私の横に立て掛けてあったホリデー磯が「ガタガタッ」っと音を立てたかと思うと、またもや犬走りを支点にして竿尻がぐわっと持ち上がったのです。
私の目の高さは完全に越えていました。
海側へ引き込まれそうになっていた竿を、見上げるようにして差し出した左手が寸でのところで運良くキャッチしました。
「おいおい、またか〜!?」
(後編に続く)
homeへ戻る