始章『追憶・思い・願い』

エールレイク、『地の水晶』とも言われ、大陸一の透明度を誇る湖、まだ夜が明けたばかり、薄くもやがかかったほとりに一人の若者がたっていた、その眼前に立っているのは墓標だろうか?

「次にこれるのはいつになるか解らないけど、かならず戻ってきます、それまで、、、、。」

と、そこまで言いかけた時自分の方へ向かってくる人影にきずいた。
まだ、朝もやが邪魔をしてはっきりは見えないが、若者にはそれが誰だか解っているようだ。

「あ、アネキ、、、、。」

その女性は若者の前を通り過ぎ、墓標の前で手を合わせ静かに目を閉じた。
若者はばつのわるそうな顔をして、ただ立ち尽くしていた、しばらくして。

「わたしには、、、、、。」

その女性が口をひらく。

「私にはだまって行くつもりだったのね、『ツキ』。」
 

『ツキ』と呼ばれた若者は、何を話して言いのか解らない様子だ。

「寝起きの悪いあなたがこんな朝早くに出ていくから、、、、。」

ツキは照れくさそうにわらいながら。

「ごめん、昨日『見』えたんだ、今から出れば、アイツも余計な回り道をしなくてすむから。」

それ聞いた姉はゆっくり目をあけた。

「今度は『旅』なんだ、いつ帰ってこれるかわからないし、なんて言って良いか、、、、、。」

言葉の出ないツキ、また、しばしの沈黙が流れる、ふいに姉がその腕に抱えていたものをツキに差し出す、不思議そうにしながらもその棒状の袋の中に入った物を受け取った。

「うおっ、、、つつ、、、。」

それは見た目よりも遥かに重いものだった。

「ツキ、私たちはね、名前からも解るように、もともとこの大陸の民ではないの。」

気づいてはいた、しかしなぜそのことを『今』言うのかがツキには解らなかった。

「その剣はね、お父様の使っていた物よ。」

それを聞いたツキは布袋を取り、その剣らしきものを取り出した。

「レイピア、、?いや、フォルシオン、、、?」

それは今まで見たこともない剣だった。

「『カタナ』と言う種類の武器、その中でも特別に鍛えられた『オオワザモノ』と言う物、と、お父様は言っていたわ。」

美しく輝く刀身、そしてなによりツキがおどろいた事は。

「重い、、、『バセラード』より、細身の剣のはずなのに、、、。」

その様子を見てた姉が微笑みながら話しを続けた。

「私にも『見』えたの、あなたがこれから始まる旅の中でお父様の生まれた地に立つヴィジョンが、だから、ね。」

そう言って姉は少しためいきをついた。

「また、さみしくなるわ、、、、、。」

その言葉にツキはこまった顔をした、それを見た姉は最後にこう言った。

「ツキ、、、月夜、いってらっしゃい。」

そして、振り向かずにきた道をもどっていった。
 

それを見送るツキ、その時一瞬そのヴィジョンが見えた。

「へっ、気の効かない『ロスト』だな、最後の心残りだったのによ、、、。」

そしてツキは街道への道を歩き出した。
 

ツキが最後に見たヴィジョン、それは姉の幸せな未来だった。

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