「・・・行きます、ありがとう、ジョゼ姉さん。」
痛めつけられた身体を引きずるようにこの場を離れるサジェス、優しい目で見送るイリァス、暫くしてマチスが濡れたタオルを持って戻ってきた。
「お、もう大丈夫なのか、こういうのも流石って言うのかねぇ。」
イリァスが『クスッ』っと笑った、しかしその後、ほんの少し顔が曇る、それをマチスは見逃さなかった。
「どうした?・・・イーリ・・・・・・?。」
『ハッ』っとして顔を上げるイリァス、少し悩む素振りをした後、マチスに背を向けると。
「副隊長殿・・・・・・。」
マチスは『はあ?』と半ば呆れ顔になり、その後半笑いでイリァスに尋ねた。
「なんだ?イーリ、いきなり、10年近く振りだぞ、副隊長なんて、どうかしたのか?」
イリァスは黙ったまま背を向け俯いている、マチスの顔からもおどけたふいんきが次第に消えていく。
「・・・・イーリ?。」
イリァスは目を閉じ、ため息をつく、そして顔を上げ『ん』と自分を押し出すように気を入れると振り返らないままマチスに告げた。
「サジェスが言ったんです、『新緑の騎士』って・・・。」
マチスは一瞬驚いたように目を見開いた、しかし、納得したように頷くと。
「そうか、やはり完全には『封印』出来なかったんだな、『隊長』は。」
お互い自嘲的に笑う、その目には複雑な、それでいて何かを懐かしむような物があった。
「きっと、まだ終わってなかったのね、あの人と・・・風の舞姫と皇国の物語は、待ち続けたはずなのに不思議と不安しか沸かないのはなぜかしらね。」
マチスはため息をつくと、それでも勤めていつもどうりの口調で告げた。
「戦いが英雄を創るのではなく、英雄が戦いを生み出す、そんなことを言ったやつもいるけど、そうだとしても『英雄』達はいつも守るべきものの為戦っていたよ、いつもハッピーエンドとは限らないけど、前大戦だって、終わりは悪夢でしかなかった。」
二人がその『悪夢』を思い出す、悔しさと後悔が二人を支配していた。
「それでも・・・。」
イリァスが再び顔を上げる。
「『終わり』じゃないとしたら、終わらせるのはサジェス・・・・あの子たちだと思うの。」
マチスはその言葉に頷く、そしてもう一度お互い目を合わせるとお互い微笑んだ。
「期待・・・じゃないな、でも見てみたい、あいつ等が『英雄』になるのを、ある意味不謹慎かもしれんがな。」