リュミエール


「蒼き髪を持つ者、静かなるマーメノイアを滅壊す」
(マーメノイアに古くから伝わる予言)

第一章 「神の宿る場所」にて

(マーサ・・・・・・・。)

アーディンは呟く。
ずっと自分を慕い続けてくれたうすむらさきの髪の女の子の名を。
哀しい宿命に悩み続けた女の子の名を・・・・・・・・。

「アーディン、どうしたのさ?」
ルークがアーディンに声をかける。

「あ・・・・あ、大丈夫。 ただ、やっぱり・・・・・・マーサと戦ったのは、やっぱり・・・・・・。」
アーディンは、声をつまらせてしまった。

「つらかったろうな。 でも、仕方なかった。 あたし達が戦わなかったら、今頃は・・・・・・。」
とセーラ。

ティアラはそのそばで泣きじゃくっている。
それも当然のことだろう。
ティアラはマーサの心の妹だったのだから。

・・・・・これで・・・・・・よかったのかしら・・・・・・。
マーサやアイズマン、そしていろいろなものや街・・・・・・・それを破壊するということは
新しい時代を迎えるために本当に必要なことなのかしら・・・・・・・。

だけどもう新しい時代は既に始まっていたのだわ。
アーディンがこの世に生を授かったその時から。
わたくしとマーサがあの肖像画を見てしまった・・・・・・・あの時から・・・・・・・・。

第二章 追憶

「マーサ、早く!」
城の地下に封印された部屋。
そこには蒼い髪をした美しいマーメノイドの肖像画がかかげられていた。

「ティ・・・・・・ティアラ様、お待ち下さい。」
ティアラ王女の後から息を急き切らせて泳いでくるマーメノイド、マーサ。
彼女は生まれつき身体が弱い。
激しい運動などもってのほかだった。

「まあ、なんて・・・・・美しい方なんでしょう・・・・・・。」
蒼い髪をしたマーメノイドの肖像画を見たマーサは感嘆の声を漏らした。

「ねぇ、ここをわたくしたちだけの秘密にしましょう。 だって、とっても素敵なんですもの!」
無邪気に笑うティアラ。

「え・・・え。 そうでございますね。」
しかし、もうマーサは既に恋に墜ちていた。
その感情が「恋」とは分からないまま・・・・・・・・・。

(わたしはきっと、この胸の高鳴りを秘密にするでしょう。 たとえそれがお母様やお姉さま、ティアラ様であろうと・・・・・。)

そして蒼い髪のアーディンを見たとき・・・・・・・淡い疑問は確信へと変わり、
そこから彼女の運命の歯車は回り始めた。
愛しいアーディンが敵になるとは、このとき誰も思わなかったことだろう・・・・・。

マーサは天に召されたのだ。
愛しいアーディンの手にかかって。

第三章 再び「神の宿る場所」にて

「きっと七つ目の封印は、この上の「女神の祭壇」にあると思う。 ぼくは行くよ。」

「じゃ、わたくし達もいっしょに・・・・・・・・。」

「いや、ぼくは1人で行くよ。 もしかしたら、危険な事に巻き込まれるかも知れない。
 だからみんなはここにいて。」

(まったく・・・・一度言ったら聞きゃしない。
 いつだってそうだよ・・・・・・アーディンは・・・・・・自分のことより他人のことばかり・・・・・・。)

セーラが苦笑しながら言った。
「いいさ行ってきな。 でも必ず帰って来るんだよ。 いざとなったら、骨ぐらいは拾ってやるよ。」

(・・・・・・・まったく・・・・・セーラは素直じゃないんだから・・・・・・・・)
アーディンは思った。

だけどぼくは知っている。
いつでも素直になれないのは愛情の裏返し。
セーラはとても愛情深い。
いつだってとても優しい。
乱暴な口調の裏側で、その心の奥底で・・・・・だれよりも、だれよりも強く愛を求めていることも・・・・・・・。

それはぼくが一番よく知っている。

ひとり「光の射し込む場所」で眠るぼくの元に来たのは、他の誰でもない。
セーラ、君だった。
絶望の淵から救ってくれたのはいつだって、君だったんだ。

「ありがとう、セーラ。 ・・・・・・・・・・みんな、行ってきます。」
アーディンは軽く微笑んで、ひとり「女神の祭壇」に登っていく。

「ありがとう、セーラ・・・・・だって〜! やっぱりアーディンにとって、セーラは特別なんだ〜♪」
ルークがはやしたてる。

「なっ・・・・・・! 馬鹿っ! 違うよ!!」
セーラが真っ赤になって怒って、ルークを追いかける。

その様子を遠巻きにティアラが見つめている。

・・・・・・・・・・アーディンとセーラは互いに想い合っている。
ふふ・・・・・・。
ちょっぴり寂しいですわね。

でも、なぜかしら・・・・・・・。
すがすがしい気持ちがしますわ。
わたくしはセーラもアーディンも・・・・・・・ふたりがとても好きなんですもの。

そして・・・・・・・わたくしには民がいる。

そう。
わたくしがまず成さねばならぬ事。
それは女王として民を幸せに導くこと。

それはわたくしの代ではできないかも知れない。
でも、わたくしの次の時代、その次の時代へ、わたくしの意志は受け継がれてゆく。

わたくしは女王。
このメーエリアを統べてゆく女王なのだから。

「アーディン・・・・・・・どうか無事で・・・・・・・。」

第四章 真実

今、長い封印が解かれ、中から蒼い髪をした者が現れた。
しかし実体はないようだ。

「ぼくと同じ・・・・・蒼い髪、そして、その身体・・・・・・・あなたが・・・・・マーダム?」

「そう、私が男神マーダム。 お前の父親だ。」

「ちち・・・・・・おや? ちちおやって・・・・・・?」
アーディンは始めて聞く言葉に戸惑った。

アーディンは男神マーダムと女神アフロディテの間に生まれた子供だったのだ。
「我が子よ・・・・・・・・。」

「そしてお前の母親は・・・・・・・・・・・。」
女神アフロディテが目覚めの時を迎え、遂に親子の対面となった。

「ああ、ああ・・・・・・・あなたがアーディンね。 もっと近くに・・・・・・。」

「!!」
この人は・・・・・・・。
ぼくが昔ひとりぼっちで泣いていたとき、優しく励ましてくれた・・・・・・・・・・・・・。
お・・・・・・かあさん!?

アフロディテは腕を伸ばし、アーディンを優しく抱いて包み込んだ。
実体は無いが、アーディンは何故か暖かく、幸せな気分になった。

「あなたが生まれる前から、ずっとあなたをみつめていたわ。
 愛してるわ、アーディン・・・・・・・・・・・・・・。
 わたしの愛しい子。」

「あなたが、お母・・・・・・・・・さん。」
アフロディテの両目から涙がこぼれる。
アーディンは暖かい涙に包まれて、目を閉じた。


「すべての生きとし生ける者は互いに違う種類が支え合って子孫をのこしてゆく。
 これが自然の摂理なのだ。」
マーダムは静かに言った。

「あなたはこれからその新しい世界を作ってゆきなさい。 信頼する仲間と、そして愛する人と力を合わせて。」

次の新しい時代はあなたたちが作ってゆくの。
マーダムと私はその時点でこの世から消滅する。
でもそれは哀しい事ではない。
わたしたちの意志はあなたの心に受け継がれてゆくのだから・・・・・。
愛しているわ、わたしたちの可愛いアーディン・・・・・・・。

「さあ、わたしの手を取って・・・・・・・・・怖がらないで。」
アーディンはアフロディテの手を取る。
その瞬間、眩しい光がスパークする。
「・・・・・・・!!」

「忘れないで。 あなたの周りはいつも愛という名の光に満ちているのだから・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・・。」
ふと目を開けると、セーラの姿があった。
セーラは照れながら微笑む。
そしてアーディンに手をさしのべる。

「おかえり・・・・・・・アーディン・・・・・・・・・。」
「セーラ・・・・・。」

アーディンはセーラの手を取り、踊る。
いつか「光の射し込む場所」で、眠りから覚めたときのように。
くるくると円を描きながら、まるで空を飛ぶように。
蒼い髪と紅い髪が螺旋を描いてゆく。

なんだか不思議な気分だ。
楽しい、嬉しい、それでいて胸がしめつけられる・・・・・・・・。
これが「愛」なんだろうか。
父マーダムと母アフロディテが抱いたのは、こんな感情だったのだろうか・・・・・。

それはセーラも同じだった。
しめつけられた胸が苦しい。
初めての感情に戸惑うばかり。
どうしていいのか自分でもわからなかった。

「セーラ・・・。」

優しい瞳でセーラを見つめ、アーディンは歌を唱う。
それは低く、甘く、切なく・・・・・・・・・。
セーラがこの世で聞いた歌のどれにも当てはまらない、心を奪われるような・・・・・・・そんな歌だった。

ふたりのダンスはいつまでも続いた。

ティアラ、ルーク、モーガとオルガは、そっと部屋を退出していたのだ。

「気を利かせるのも孝行のうちさ。」
ルークが知ったような口をきいて、モーガに羽交い締めにされていた。

第五章 別離の時

その後。

ティアラは浄化城王宮に戻り、亡き母に変わり、メーエリアの女王の座に就いた。
勿論アーディン、セーラ、ルーク、モーガとオルガは戴冠式に出席していた。
新しい女王の誕生にメーエリアの街は沸きに沸いていた。

「どうしても行ってしまわれるの? ここに留まれば良いのに・・・・・・。」
アーディンはセーラと共に新天地を求め、旅に出ることになったのだ。

「ええ。 でもいつか、また逢えると思います。」
「それまでお元気で。 女王様。」
アーディンとセーラはふかぶかと頭を下げた。

ルークはばあさんヤムナの元で魔導師の修行をし、ゆくゆくは霊峰の里を復活させるだろう。
彼女はこの旅で随分成長した。

「女王様、ぼくはこの街でがんばって立派な魔導師になります。 また街の方にも遊びに来て下さい。」

「いつかみたいにごろつきに捕まらないようにな!」と、セーラ。
「まあ! わたくし、あれから随分と強くなりましたのよ!」ティアラも負けていない。
ふたりは顔を見合わせ、ふふふと笑った。

モーガとオルガは希望通り浄化城の騎士となった。

「いや・・・この鎧はなかなか。」
「とりあえず剣は持っているが・・・拳で十分だな。」
笑って拳を見せる。

固い絆で結ばれた6人。
きっと素晴らしい時代を作っていくことだろう。

そして、浄化城を去る時が来た。

「さよなら、そしてまたいつか逢いましょう!」
6人は握手をして、いつかくるであろう再会の日を約束した。

第六章 アーディンとセーラ

アーディンは再びセーラとふたり、大洋に出た。
初めて出逢ったあの時のように・・・・・・・・。

「アーディン。 これからどこに行く?」
「いや・・・・・・・なにも・・・・・・・。 でも・・・・・・・・。」
「でも・・・・・・・・・?」
セーラがいぶかしげにアーディンに聞く。

アーディンは真っ直ぐなきらきらとした目でセーラを見、はっきりと答えた。
「ぼくはセーラとふたりなら、どこだって幸せでいられる。」

「・・・・・・・・・・・・・・。」
セーラは真っ赤になり、上目遣いでアーディンを見る。
それでも覚悟を決めたのか、こう言った。

「あたしも・・・・・・だ。」

ふたりは並んで泳ぎ始めた。

ふたりはその時、岩の上に小さく、透き通った二匹の生物を見つけた。

「クリオン?」

ふたりの旅立ちを祝福するかのように、赤と青のクリオンが並んでアーディン達を見ていたのだ。

「前にもこんなことが、あったね。 赤と青で一対だって・・・・・・。 セーラ、教えてくれたよね。」

「・・・・ああ、あったね。 あたし達も、このちっちゃな生き物と同じなんだな。 
 生きとし生けるものは違う種類が支え合って生きている。」

ひらひらと手を振り、クリオンに別れを告げ、ふたりは仲良く並んで泳ぐ。
くるくると、舞いながら、上になり、下になり・・・・・・・・・・・・・・。
シャチのムーンもやってきて、ふたりの旅立ちを祝福するかのように並んで泳ぐ。

そうして・・・・・・・・・。

そうして、どちらからともなく・・・・・・・・手を差し出す。
ふと指先が触れ、その次の瞬間、ふたりの手は固く結ばれる。
しっかりと、力強く。
どこまでも広く、どこまでも蒼く、明るい光に溢れた海の中を泳いでゆく・・・・・・・・。

アーディンの本当の旅はこれからかもしれない。
だけど、もうひとりじゃない。

これから、何が起こるかわからない。
だけど、生きていける。

愛する人といっしょなら。
どんな困難も乗り越えてみせる。

エピローグ 光の世界へ

一対の人魚は海の上へ上へと泳いでいく。
高く高く登ってゆく。

深海から、海上へ。
暗闇の世界から、光の世界へ。

その姿は、あたかも蒼い空に昇ってゆく一対の天使のようだった。


「忘れないで。 あなたの周りはいつも愛という名の光に満ちているのだから・・・・・・・・。」


「マーメノイド」のEDがちょっと物足りなかったので、自分なりに脚色してみました。
というか、seturaちゃんのご期待にこたえまして。 (^^;)
この世でひとりぼっちだったアーディンは、良き仲間を得、良きパートナーを得て
これからはきっと良き子供にも恵まれる事でしょう。
ハッピーエンドは、やっぱり良いですね!!
(いや犠牲は大きかったけど・・・・・・・)

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