新しい世界へ

第一章 魔導士メル

ルゥが目を覚ましたとき・・・・・・・・そこは宿屋のベッドの上だった。

「おはよう、ルゥ。 やっと目覚めたのね。」
ベッドの向こうで、メルがそう言った。

「ここは・・・・・・僕の部屋・・・・・? どうして・・・・・・?」
ルゥはぼんやりする頭で、精一杯考えた。

「分からないのも無理はないわ。 
 ヴァレンの塔の崩壊後、君が湖畔で倒れているところを、エレナが見つけてくれたのよ。
 それから三日間は眠っていたわね。」

(三日間・・・・・・・・)
ルゥは突然我に返り、慌ててメルに聞いた。

「・・・・・・・・クレアは? クレアはどうなったんです!?」
「クレアさんは無事よ。 ・・・・・・・でも・・・・・。」
メルはルゥから目をそらせる。

「眠ったままなの。 どんな治癒魔法で処置を施しても、目覚めてくれないの・・・・・・・・・・。」

「なっ・・・・・・。」

やっとの思いで彼女を助けたのに、そんな事って・・・・・・・。
ルゥは愕然としたが、気丈にもメルをまっすぐに見て言った。

「・・・・・クレアは・・・・・どこにいるんですか・・・・・・・。」
「クラウスさんの家にいるわ。 だけど、逢えば余計につらくなるわよ。」
メルが辛そうに答える。

「いいんです。 つらくなんかないです。
 眠っているだけなら、僕は待てます。 彼女が生きてくれてさえいてくれたら・・・・・・。」
「いつ目覚めるのか、誰にも分からないのよ。 何の保証も出来ないわ。」
「それでもいいんです。 いつまでも待ちます。 僕は誓ったんです。 ずっと側にいると・・・・彼女に誓ったんです。」
ルゥのその眼差しに迷いはもう微塵も無かった。

「そう・・・・・・。 じゃ、私が助言できるのはここまでのようね。 
 一日も早くクレアさんが目覚める日を祈ってるわ。
 さよなら、ルゥ。 君は強くなったわ。」

メルはルゥにバイバイと手を振ると、ゴロタンの子供達と一緒に光の中に消えていった。

メルは少し羨ましくなった。
そこまでクレアを愛せるルゥを、そして、そんなルゥに愛されるクレアを。
かつて彼女にもそんな人がいたかもしれない。
今となってはそんなことも、測り知れる事はないのだが・・・・・・。

「ありがとう・・・・・・・メルさん。」
ルゥは、ベッドから飛び起き、宿屋を飛び出していった。


(クレア・・・・・・・・・。)

ルゥは心配で、いてもたってもいられなかった。
眠ったままでもいい・・・・・・。
ただ一目だけでいいから、クレアに逢いたかった。
ルゥは、隣のクラウスの家に、一目散に飛び込んでゆく。

「やあ・・・・・・・・・ルゥ君。 驚いたよ。 目が覚めたんだね。」
「クレアは・・・・クレアの容態はどうなんですか!?」
真剣なルゥの気迫に、クラウスは少し押されてしまった。

「いや・・・・・・・それが・・・・・・・・・。」
クラウスが口ごもっていると地下から元気のいい声が聞こえてきた。
「なになに? ルゥが来たの!!?」
ぴょんぴょんと跳ねながら、地下室からプリマドールが飛び出してきた。

「プリマ! 元気になったんだね!!」
ルゥはプリマの目の高さまでしゃがむ。
「メルっていう人が、魔法でボクを手当してくれたんだ。 ボク、もう元気いっぱいだよ!」
プリマドールは得意げに、くるりと一回転する。

「ルゥ君はクレアさんのお見舞いに来たのかな?」
「ええ、彼女、まだ眠ってますか?」

その時プリマドールがクラウスをちらっと見、
「だめだめ! 男の子は入っちゃダメなんだって。 それでボクも追い出されちゃったんだ。」
と、言った。

クラウスは「助かった!」と思った。
彼はうそがつけない人のようだ。

「それより、ルゥ、聞いて! ぼくに家族ができたのさっ! ねっ、おとうさん!」
胸を張り、いつもの「えばりんぼポーズ」を取るプリマ。

「お・・・とうさん?」
「プリマ君はうちで引き取ることにしたんだよ。 エレナも弟が出来て大喜びだ。」
驚いたルゥに、クラウスは言った。

「そうか。 良かったね。 プリマ。」
えへへとプリマは笑った。
冷たい箱の中で誰かが来てくれるのをずっと待っていた「道具」は今、名実共に「人」になったのだ。

「と言うわけで、ルゥ君、クレアさんのお見舞いは、もう少し待って貰えないかな。」

ルゥは少々残念だったが、仕方なく時間つぶしをする事にした。
「じゃ、後でまた来ます。」


「ルゥ!」

外に出た途端、ルゥはミントに呼び止められた。

「ルゥ、眼が覚めたんだ。」
「ありがとうミント。 心配してくれて・・・・・・・。」
「はっ、な〜に言ってんのよ。 あたしがあんたの心配するワケないじゃない!」
・・・・・・いつものミントだ。

「そりゃ旅立つ前に逢えて、ちょっとうれしかったけどさ〜。」
「ミント・・・・・・どこかへ行くの?」
「うん。 マヤを家に送り届けるついでに二年ぶりに里帰り・・・・・なんてのもいいかなと思ってさ。」

そうだ。
ミントは東天王国のお姫様だったんだよね。

「ところで、ルゥ。」
真顔でミントが迫る。
「な・・・・・・なに?」
「今度の遺跡探しにはあんたも付き合うのよ! だって、ルゥだけ願いが叶うなんて、ずるいじゃない!!
 こんな展開、納得できないわっっ!!」
いつものようにミントが、激しくじたんだを踏む。

・・・・・・・ずるいと言われても・・・・・・。
あれは僕の責任じゃないと、ルゥは思った。

「そして遺産を手に入れたあかつきには、今度こそ・・・・・・世界征服よッッ!!」
空に向かって、高らかに笑うミント。

(懲りない人だな・・・・・・・)
ルゥは思った。

「遺産の情報を掴んだら、手紙書くからね! 約束よ! じゃ、バイバイ!」

自分の言いたいことだけ言って、ミントは走り去った。
後に残されたルゥは、しばし呆然としていた。

「やっぱりミントって、台風みたいだ・・・・・・・・。」


第二章 ハッピーエンディング

その後、ベルやデューク、ロッドに別れを告げたルゥは、再びクラウス家を訪れた。
家の中にはクラウス氏と、ミラ夫人が立っていた。

「あの・・・・・・・・クレアは・・・・・・・・。」
ルゥの胸は不安でいっぱいだった。

「ごめんなさい・・・・・・もう少し、もう少しだけ、お見舞いは待ってもらえないかしら・・・・・・。」
ミラが言った。

「そうですか・・・・・・・じゃ、また来ます・・・・・・・・・。」
一体何があったんだろう。
ルゥはがっくりと肩を落として、家の外に出た。

たった数十分間の出来事が、ルゥにとっては何時間もたっているように感じられた。

「まだ逢っちゃいけないなんて・・・・・そんなに容態が悪いんだろうか。
 一目だけでも逢いたかったのに・・・・・・・・・・・。」

「クレア・・・・・・・・・。」
ルゥは青い空を見上げて、ひとり呟く。

その時、後ろから懐かしい声が聞こえた。

「ルゥ・・・・・・。」

・・・・・・・・・この声は!?
・・・・・・・・・ク・・・・・・・・レア?
まさか・・・・・・でも・・・・・・・でも・・・・・。

不安と期待で胸が潰れそうだが、勇気を出して、ルゥは振り向く。

そこに立っていたのは紛れもなくクレアだった。
ルゥが心底求めてやまない、最愛の人の姿だった。

「あ・・・・・・・・・。」

信じられなかった。
目の前の光景が。

うそだと思った。
でも・・・・・・・・うそじゃない!

彼女はそこにいた。
静かな微笑みをたたえながら・・・・・・・・。

「ど・・・・・・・・うして。 まだ眠っているって・・・・・・・・・。」

プリマとエレナが種明かしをする。
「実は、ルゥが起きるちょっと前に目が覚めてたんだよ。」

「わたしとお母さんで、クレアさんの身支度を手伝っていたんです♪
 もっと早く言おうと思ってたんだけど、クレアさんに口止めされていて・・・・。」

クレアが恥ずかしそうに下を向いて言った。
「だって三年ぶりに逢うのに、寝起きの顔じゃ恥ずかしくて・・・・・・・。
 わたしの我が儘で心配かけてごめんなさい・・・・・・・・・。」

「いいんだ・・・・・・・・・もういいんだ。
 僕はただクレアに一目逢いたかっただけだから・・・・・。」

ルゥはクレアに背をむけてしまった。
ルゥの肩が小刻みに震えているのがわかる。

「どうしたんだろう・・・・・・僕、おかしいよ。
 胸がくらくらするんだ。 クレアのことまともに見れない。」

ルゥの瞳から、熱い涙が次々と溢れてくる。
望んでも望んでも手に入れられなかったもの・・・・・・・・・。
今やっと手に入れたのだ。
ルゥは、もう、どうしていいのか、自分でも分からなくなってしまった。

「あれ〜、ルゥさん、なんで泣いてるんですか〜?」
「しっ! おねえちゃん、だまって!! これからがいいところなんだから。」
プリマドールは、ちょっとおませさんだった。

その様子を黙って見ていたクレアが、ルゥの近くに歩み寄る。

「・・・・・・・・・・・・無理しないで、ルゥ。 わたしだって不安だった・・・・・。 
 久しぶりに逢うルゥがすっかり変わっていたら・・・・・・・。
 三年間も眠っていたわたしは、ついていけないんじゃないかって・・・・・・・・・・こわかった。」

「でも、ルゥは変わっていなかった。 背も少し伸びて、腕だって太くなったけど・・・・・・。
 ルゥはルゥのままでいてくれた・・・・・・・。」

三年前、クレアより低かったルゥの背は、今、クレアを少し越えていた。
おそらくまだまだ伸びるだろう。

ルゥは頬をつたう涙を拭う事もなく、クレアに向き合った。

「・・・・・・・・・ルゥ・・・・・・・・。」
クレアはルゥに片手を伸ばす。
ルゥはその手に触れようとしたが、指先が触れ合う寸前で、手を引っ込めてしまった。

「どうしたの? ルゥ・・・・・・・・。」

「どうしよう。 
 くじけそうな時はいつも考えてた。 最初になんて言うかも決めてあったはずなんだ。
 でも・・・・クレアの顔を見たら・・・・・・言おうと思っていた言葉が全部ふっとんで、もう真っ白で・・・・・。
 僕・・・・・なんて言えばいいのか分からなくなってしまった・・・・・・。」

「・・・・・・・わたしもよ、ルゥ。 目を覚ましたときから考えていたのに、ルゥに逢った途端、忘れてしまったの。」
うつむくルゥにクレアは優しく言った。

「だから今は自分の素直な気持ちを言うしかないわね・・・・。
 ありがとう、ルゥ。 あなたのおかげで帰ってこれたわ。」

少しはにかみながら、ルゥが答える。
「おかえり・・・・・・・・クレア。」

「・・・・・・・ルゥ・・・・・・・・・。」
クレアは大きく両腕を広げる。
ルゥは、もう、迷わなかった。
大きく広げたその腕の中に、クレアの胸に飛び込んで泣いた。
そして、その存在を確かめるかのように、彼女を強く抱きしめた。

ずっとずっと探し求めた暖かいクレア。
ルゥはしあわせで、胸が押しつぶされそうだった。

「わたしの・・・・・・・ルゥ・・・・・・・・・・・。」
クレアはいつものようにやさしくルゥを抱きしめる。
クレアの暖かい涙が、ルゥの頬をも伝ってゆく。

エレナは目の前の展開に頬を赤らめ、プリマは「やったぁ!」と、一回転。
教会の扉の前には、ミントとマヤが立っていた。
ミントは「やれやれ。 ルゥったら、まだまだ子供ね〜。」と言い、
マヤは微笑んでいた。

裏通りのパブからベルが出てきて、「ほぉ〜、見せつけてくれるねぇ。」と感心している。
デュークは「それでこそオレのライバルだ。」と訳の分からない事を言って感心している。

ロッドは門の前で、この様子を見つめていた。

「お前はやっぱり熱いソウルの持ち主だったぜ。 いつまでもそのソウルを持ち続けてくれよ、ルゥ。」
そして、ジョニー・ウルフと共にいずこかへ旅立って行った。

クラウス夫妻はふたりを微笑ましく見つめていた。
これからのルゥとクレアの展開を想像するのは、この夫婦にとって、容易なことだった。


教会の鐘が鳴る。
ルゥとクレアを祝福するように。
青く澄んだ空に・・・・・・・・・いつまでもいつまでも・・・・・・・・・・。


第三章 人として生きる意味

「さよなら、ルゥ君、クレアさん。」
「また遊びに来てね!!」

クラウス一家が、港でルゥとクレアの旅立ちを見送っていた。
エレナとプリマが大きく手を振る。

ここ、カローナの港に着いたのが約三ヶ月前。
その間、色々なことがあった。

台風姫ミント、デュークとベル、ロッド・・・・・皆、このカローナの街で出逢った人たち。
そしてルゥが今日船出するまでに、それぞれの土地に散っていった。

「いつかまた逢える」
そう、生きてさえいれば、いつか、また逢えるのだ。

甲板は爽やかな海風が吹いていた。
自分の傍らでは、クレアが優しく微笑んでいる。

「僕、クレアに沢山話したいことがあるんだ。 ああ、一体なにから話せばいいんだろう!」
ルゥは興奮した様子を隠すこともなく、矢継ぎ早に話しかける。

クレアはそんなルゥが可愛くてたまらなかった。
「早く家に帰りたいわ。 ルゥとわたしの、ね。」

ルゥは、もう嬉しくて、はじけてしまいそうだった。
クレアを失って三年ちょっと。
デュープリズムを見つけて、彼女を甦らせる為だけに、今まで生きてきたと言ってもいい。
そして、苦労の末、今ようやく、クレアを甦らせることが出来たのだ。

カローナの港を出た船は、白い帆一杯に風をはらみ、懐かしいふたりの故郷へと向かってゆく。
ルゥの胸はこれからのクレアとの新しい生活にときめいている。

ただ、ルゥの中に芽生えたクレアへの感情は、三年前のそれとは少し違っていた。
彼女を失ってからの三年間、一心に彼女だけを思い詰めたルゥの心の中で、クレアはその姿を変えていった。
姉のような存在から、ひとりの女性へと・・・・・・・・・。
三年前の淡い憧れは、今、ルゥの心の中で、愛へと変化する。

「クレアさんを助けたら、もう離してはだめよ。」
メルの言葉が、ルゥの頭の中で、繰り返し繰り返し、響いていた。


「まあ、すごいほこり!!」
三年以上もほっておいたのだから、当然の事ではあるが・・・・・・。

「今から大掃除だわ。 ルゥ、お手伝いしてね。」

井戸から水を汲み出し、モップをしぼって拭き掃除。
窓のガラスもキッチンも。
クレアは、てきぱき家事をこなしてゆく。

そうして、やっと寝られる所を確保した所で、掃除を終えた。


「クレア。 僕、嬉しいよ。 君とまたこんな風に暮らせるなんて、夢みたいだ。」
「わたしもよ、ルゥ。 あなたのおかげで、ここに帰ってこられたんだもの・・・・。」

クレアの優しい微笑みが、ルゥの心をとろかせる。

いつしか夜の帳が降りてきた。
暖炉の前で暖かいお茶を飲みながら、ふたりはずっと話し込んでいた。

「・・・・・・・・それで、僕は脱出することができたんだ。」
ルゥのおしゃべりはまだまだ止みそうになかった。
まるで三年間の空白を埋めるように・・・・。

そんなルゥが、いきなり真剣な目をして言った。
「いつもいつも君の事だけ考えてた。 くじけそうになった時や、哀しかった時・・・・・・・。」

「ルゥ・・・・・・・・・。 わたしのせいで、あなたを辛い目に遭わせてしまってごめんなさい。」
「いいんだ。 だって、これは僕の意志だから。」

自分の意志・・・・・・・・・・・。
ヴァレン復活のために作られた人形だった僕が、自ら望んだ事。
僕が君を助けたいと思ったから・・・・・・・・。
君を愛しているから・・・・・・・・・・。

「君にまた逢えたら・・・・・・・・僕は・・・・・・・・・・・・・。」

ルゥの狂おしいまでの熱いまなざしに少しクレアは戸惑った。
以前のルゥとは違う・・・・・・とクレアは直感し、目を伏せた。
少し性急すぎるような気もしたが、自分もルゥを愛している。

弟のように、愛らしいルゥ。
子犬のような目をした、ルゥ。
そのすべてを自分の命懸けて、守ってあげたいと、愛してあげたいと思った。

(もう三年も経っているんだもの・・・・・・・・)

子供だったルゥはもう昔。
今、目の前にいるルゥは強く逞しい、1人の青年になっていた。

(守られているのは・・・・・・・わたしの方なんだわ・・・・・・・。)

「ルゥ・・・・・・。」
「もうなにもしゃべらないで・・・・・・・・クレア。」

・・・・・・・・・・・・・・・・。
一瞬の沈黙。

お互いの唇が少しふれあっただけのやわらかなくちづけだったが、
ふたりの心を満たすには充分すぎるくらいだった。

まだ浅い春の宵は、甘く、優しく更けてゆく。


第四章 ルネス

それから数ヶ月たったある日、東天王国の第二皇女、マヤより、ルゥは依頼を受けた。

「眠る「彼」を見て、私は直感しました。きっとルゥさんの力が必要になるのではないか・・・と。」

遺跡の中に棺が奉られている。
その中にはルゥと同じような少年・・・・・・・「人形」が横たわっていた。

ルゥが棺に手を伸ばすと、中の少年が、まばゆい光と共に起きあがった。

「あんたは・・・・・・・ルゥ?」
きらきらと輝く光の中で、少年はルゥを見つめて言った。
彼は自分の使命や、自分の身の上を覚えていたらしい。

「僕の名を知っているんだな・・・・・・・。」
「あんたのことはみんな知ってる。 おれとあんたは同じ存在だから。」

「同じヴァレンの人形・・・・・・・か。」
ルゥは目を伏せる。

「同じ使命を帯びた人形の兄弟と言うわけさ。」
少年はこともなげに言う。

少年の外見的は、ほとんど人間と変わりがない。
だが、やはりルゥと同じく、額には蒼く輝く宝石・・・・・・・デュープリズムのかけらが埋め込まれている。
そして、銀白色に輝き、逆立つ髪の毛。
彼も「ヴァレンの人形」のひとりである証拠だ。

「君は・・・・・ヴァレンを復活させるつもりなのか?」
「当然だろ。 おれたちはそのために作られたんだ。 ヴァレンを復活させるのは生まれる前から決まっていた使命だよ。
 おれたちにはそれしかないんだ。」

「僕はそう思わない。」
「・・・・・なんだって?」
少年は、信じられないといった風に、ルゥに食い下がった。

「僕が生まれる前に誰かが勝手に決めた使命なんて、僕には・・・・・・。 僕達には関係ない。」

「だけどおれたちは使命のために命をもらったんじゃないか。
 その使命をすてちまったら、おれたちの使命は・・・意味が無くなる。」
少年は反論する。

「だったら新しい意味を見つけたらいい。」

少年は、ルゥに尋ねる。
「・・・・。あんたは、もう見つけたのかい?」
「うん。」
ルゥは胸を張った。

「おれにも・・・・・・おれにも見つかるというのか?」
「だから迎えに来たんだ。 さぁ、一緒に行こう。」
ルゥは少年に手を伸ばす。
少年もルゥに手を伸ばし、その手を委ねた。

ルゥは、彼をとりあえず家に連れて帰ることにした。


少年を家に連れ帰ったとき、クレアは、喜びと驚きの声を挙げた。
「まあ、もうひとり家族が増えたのね。 素敵だわ。 あなたの名前はなんていうのかしら?」

少年は、初めて触れたぬくもりに、感激しつつ、こう言った。
「ルネス。 おれの名はルネスだ。」

ルゥは少しだけ、胸の奥がちくっとした。
それは「嫉妬」という感情だったのかもしれなかったが、彼にはまだそれが何なのか分からなかった。
いろんな経験を経て、ルゥはより「人間」に近くなってゆく。

ともあれ、クレアの家では新しく、三人の生活が始まったのだ。


第五章 ミント

ある日の東天王国。

「さーて、こうるさいマヤもいないし、今日は思いっ切りゼータクしちゃお♪」
ミントは沢山の料理を目の前にして、ごきげんだった。

「ああん、ひとつになんかきめられないわ〜。 だから・・・・・全部食べちゃおっと! いっただきま〜す!!」
その時、ドアが勢いよく開かれ、血相を変えたじいが飛び込んできた。

「姫様!! 何ですか、この料理の山は!! さきほど昼食をお召しになったばかりでしょう!」
「おやつよ、おやつ。 じい、あたしの小さな楽しみを、邪魔しないでよね!」
ミントは当然のごとく言った。

・・・・・・まったく・・・・・・・・このごちそうの山のどこが「小さな楽しみ」なのか・・・・・・・。
やはり姫を王国に呼び戻したのは、失敗だったのか。
じいは、心の中で嘆息した。

「先ほどから姫様に会いたいというお客人がいらしております。 おやつはやめて、お出迎えの準備をなさいませ。」
「そんなもん、待たせときゃいーのよ! あたしの楽しみの邪魔は誰にもさせないんだから!」

その時、聞き慣れた声がミントの耳に飛び込んできた。
「ちぇ、なんだよ〜。 せっかく遊びにきたのにさ!」

見ると、テーブルの下辺りに、プリマドールが立っていた。
テーブルが大きすぎて、見えなかったのだ。

「へへっ♪」
「プ・・・・・・プリマ!?」
「ひさしぶり、ミント! わがままなところはぜんぜん変わってないね!!」
相変わらず生意気な口をきくプリマに、ミントは手でぐりぐりと、頭に攻撃を加える。
「いてて。」

これが一国の姫君のやることだろうか・・・・・・・・。
じいは失神してしまいそうだった。

「でも、あんた1人でここに来たの?」
すると、プリマはドアの方を指さす。
そこには、ロッドが立っていた。

「よっ。 お姫さま。」


テーブルの上のご馳走を見て、ロッドは言った。

「おっ、これは、オレ様の歓迎パーティ用のご馳走か!?」
なんか、とんでもない誤解をしているようだが・・・・・・。

「食べてもいいわよ。 どーせ、ろくな物食べてないんでしょ。 プリマ、あんたも食べる?」
「おうっ。 もうおなかぺこぺこだぜっ。 あ、それとコレ、おとうさんから・・・・・。」
ミントはプリマから手紙を受け取ると、さっそく中を読んでみた。

「ふむ・・・・・・・むっ!!  なぬーっっ!?」

いつものミントの口癖が東天王国城中に轟き渡った。


クレアとルゥ、そしてルネスが午後のお茶の用意をしていたその時だった。
バンバンバンと乱暴にドアがノックされた。

「誰だ?」と驚くルネス。

「さあ、誰かしら?」
動じないクレア・・・・・・・・・ある種、彼女は、大物かもしれない。

「この叩き方は・・・・・・・まさか・・・・・・。」
ルゥには殆ど分かっていた。

勢いよくドアが開けられ、案の定ミントが部屋に飛び込んできた。

「ルゥ!大変よ!!」

「やっぱりミント・・・・・・・。 久しぶりだね。 遊びに来るなら連絡してくれれば良かったのに・・・・・・・。」
ルゥがのんびり答えていると、ミントがまくしたてる。

「そんな呑気なことしてられないわよ! とんでもない情報掴んだんだから!
 あたし、クラウスさんから手紙をもらったのよ。
 古文書を解読していたら気になる記述を見つけたんだって。
 西の砂漠のどこかに古代都市の遺跡があって・・・・・・・そこに遺産があるらしいわ。」

「遺跡」・・・・・・・・・?
と言うことはつまり・・・・・・・・・。
ルゥはミントの次の出方を伺った。

「とゆーわけで、ルゥ!」

「・・・・・・・まさか・・・・・・・・。」
嫌な予感がする・・・・。

「遺産探しを手伝ってもらうわよ!」
ああ、やっぱり!!

ルゥは大困惑の表情を浮かべる。
「ど・・・どうして僕が!?」

「この前はあんたがクレアさんを助けるために協力してあげたじゃない。 だから今度はあたしに協力してもらうわよ。」

ミントはいつもの高笑いをする。
「今度こそやってやるわ! 必ず遺産を見つけて、世界を征服してやるのよっ!!」

(ルゥったら、すごいお嬢さんと知り合いなのね・・・・・・・・・)
と、内心クレアは思った。

「西の砂漠か・・・・・・。聞いたことがある。 きっと廃都エフレシュムのことだろう。」
ルネスが核心的な事を言った。

「おっ、あんた、よく知ってるじゃない。」
ミントは向きを変え、ルネスを見た。

「あれはヴァレンにまつわる遺跡だからな。」
「ヴァレンの?」
「ああ、おれたち以外の人形が眠っている可能性が高い。」

「ヴァレンか・・・・・てことはますますあんたに協力してもらわないとね。
 クラウスさん一家は、もう砂漠に向かったわ。
 それにベルとデュークも「遺産」を狙ってるみたいだし。」

「みんな行くのか・・・・・。」
とくん、と、ルゥの胸は高鳴った。

(でも・・・・・・・・・・。)

ルゥはクレアの方を見た。
彼女の答えを求めるように・・・・・・。
だが、クレアの言葉は、少し意外なものだった・・・・・・・・。


「ルゥがどうすればいいのかなんてわたしには教えられないわ。
 ルゥの意志で決めればいいのよ。 誰も文句なんか言わないわ。」

「・・・・・・・・。」

「もう答えは出てるんじゃない?」

「クレア・・・・・・・・・・・・。」

実際、ルゥは迷っていた。
クラウス氏、デューク、ベル、そしてロッド・・・・・・・・・みんなに逢いたい。
また遺跡の謎を解いてみたい。
だがクレアを残していくのは気が咎める。
出来ることなら一緒に連れていきたい・・・・・・・・・・。

離れたくなかった。
やっと手に入れた君とここでずっと一緒に暮らしていたい。
だが、クレアはルゥの心を読みとったように、こう言った。

「わたしの事は気にしないで。 ルゥ、あなたはあなたの思った通りの事をやればいいの。 
 わたしはここであなたの帰りを待ってるから・・・・・・・・・・。 いつまでも・・・・・・。」

離れたくない・・・・・・・・クレアもそれは同じだった。
だけど、ルゥを止めることなんかとても出来ないとクレアは思った。
そして、いつまでもこの小さな世界に彼を留めておくことは、いけないことだと思ったのだ。

大丈夫。
遠く離れてもルゥの心を感じている。
いつまでもわたしはここにいるわ。
ルゥのために・・・・・・・・・・・。

「僕は・・・・・砂漠の遺跡に行きたい。 またみんなに逢いたいよ。」

「なら決まりね。 行ってらっしゃい、ルゥ。 しばらく逢えないのは寂しいけれど、ルゥが決めたことだもの。」

「クレア・・・・・・・!」

たまらずルゥはクレアに近づき、彼女を抱きしめながら、言った。
「ごめん・・・・・・。 一日も早く帰ってくるからね。 待っていてほしい。 手紙を書くよ。 沢山。 君に・・・・・・・。」

ミントはその様子を黙って見つめていた。
(・・・・・・・・・・・たく。 ルゥったら、シスコンなんだから〜。 でも、なんかこのふたりってば、羨ましいのよね〜。)

「さっ! ルゥ、遺跡に向かって出発よ! クレアさん、しばらくルゥをお借りします!!」


第六章 新しい旅立ち

「行ってらっしゃい、ルゥ。 気を付けてね。

「おれが付いてるから大丈夫だよ。」
ルネスが言った。

それが一番心配なんだと思いつつも、ルゥは言った。
「行ってくるよ、クレア。 ルネス、クレアをしっかり守ってくれ。」

遺跡に向かう前にルゥはミントと、兄ルシアンの墓に花を手向けた。
そこにルシアンの肉体はなく、仮面だけが墓に飾られている。
「兄さん・・・・・・行ってきます。」

ルゥはすっくと立ち上がり、もう一度クレアの方を見る。
クレアは静かに微笑み、手を振っている。
名残は尽きなかったが、ルゥはもう一度、クレアに向かってこくりとうなづき、やがて決心したように、西に向かって歩き始めた。


ルネスがぽつんと言った。
「おれもああいう風に、外の世界に飛び出して行けるだろうか? 沢山の人と知り合ったりできるだろうか?」

ルネスは、まだ目覚めたばかりで不安が大きいのだろう。
クレアは静かに微笑んで言った。

「出来るわ、あなたにも。 ルゥのように自分の翼を持てば・・・・・・・・・。
 きっと、心から信頼できる人たちと巡り会えるわ。」

そう、ルゥは自分の力で自分の翼を手に入れ、広い世界に羽ばたいたのだ。

(でも、一日も早く帰ってきてね・・・・・・・・わたしのルゥ。)


ルゥの旅が、今また始まった。

砂漠の遺跡へ。
新しい冒険の旅へ。

だけど今度はひとりじゃない。
僕を待っていてくれる人が居るから・・・・・・・・・・。
僕を愛してくれる人が居るから・・・・・・・・。

空はどこまでも蒼く、風は爽やかだった。

うーん。
真実のエンディング、ちとお気に召さなかったです。
クレアがあんまりにも「姉」なので・・・。
スクウェアにもメール書いちゃいました。 (マジ)
でも、何とか自分を納得させようと書いてみたのがコレでする。
ちょっとは納得できたような気がしますです。 (^^;)

小説の部屋インデックスに戻る

ホームページトップに戻る