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「アダージョ」 収録曲 
1.愛の唄(C.ムニエル) Chant d'Amour Op.275 (C.Munier)

2.ソナタ ニ長調(G.B.ジェルヴァシオ) Sonata in Re magg. (G.B.Gervasio)

3.瞑想曲( R.カラーチェ) Meditatione Op.76 (R.Calace)

4.マズルカ 第6番( R.カラーチェ) VI Mazurka Op.141(R.Calace)

5.前奏曲 第14番(R.カラーチェ) X IV Preludio Op.149(R.Calace)

6.前奏曲 第15番(R.カラーチェ) X V Preludio Op.151(R.Calace)

7.アダージョ( R.カラーチェ) Adagio OP.51(R.Calace)

8.ボレロ 第2番( R.カラーチェ) II Bolero Op.161(R.Calace)

9.無言歌(R. カラーチェ) Romanza Senza Parole Op.134(R.Calace)

10.演奏会用マズルカ 第1番(C.ムニエル) 1゜Mazurka di Concert Op.224(C.Munier)

11.前奏曲 第5番(R.カラーチェ) V Preludio Op.74 (R.Calace)


アダージョ・ライナーノートより〜

マンドリンへの開眼---遠藤隆己氏のCDによせて---

現在の音楽界でマンドリンはけっしてメジャーな楽器ではありません。いや正直なところ、むしろマイナーな存在と言うべきでしょう。古楽の研究者としてリュートには少なからず興味がありますし、ギターにも魅力を感じますが、私自身もマンドリンには特に関心を抱くことがありませんでした。たまたま耳にするマンドリンといえば大人数の合奏で、この楽器の代名詞とも言うべきトレモロが、むしろ耳障りとさえ思えました。
愛好家のお叱りを覚悟で言えば、手軽にアンサンブルを楽しむだけの楽器、というのが正直な印象でした。このような感想は私に限らず、音楽、特にクラシック音楽の愛好家におそらく共通のものではないでしょうか。
 しかし、これは無知に由来するいわれのない偏見でした。そのことを教えてくれたのが、一面識もない遠藤隆己氏の演奏でした。カラーチェやムニエルといったマンドリン音楽の予想外に豊かなレパートリーも大きな驚きでしたが、私をマンドリンに開眼させたのは、何にも増して、遠藤氏の卓越した技と音楽性でした。その幅広い表現力は、このCDに収められている「アダージョ」と「前奏曲第5番」を聴き比べただけでも明らかでしょう。私が特に感銘を受けたのは、遠藤氏の自然で、しかも独特な魅力をもつ音楽性で、この楽器に無知な人間にも、これは聴き逃しようのない希有な才能でした。フレーズの頭を微妙にずらす奏法も、最近の古楽の演奏法にも共通するもので、それが音楽に前向きの推進力を与えています。これまで耳障りとさえ感じていたトレモロがこれほど微妙なニュアンスをもちうることも、嬉しい発見でした。
 これまでマンドリン一筋に、いわば日の当たらない場所を、しかし志高く歩んできた遠藤隆己氏に大きな拍手を送るとともに、このCDが氏の大きな里程標となり、わたしと同じような多くのマンドリン・アレルギー派を開眼させてくれるよう、心から願ってやみません。

角倉一朗(東京芸術大学教授)


演奏者紹介

遠藤隆己氏は昭和24年(1949年)北海道旭川市に生まれ、旭川光陽中学マンドリンクラブで楽器を手にし、1972年第3回日本マンドリン独奏コンクールにムニエルの「愛の唄」をたずさえて見事入賞を果たし、音楽の道に進む。
1976年の東京での初リサイタルにおける衝撃のデビュー以来今日まで継続的にリサイタル活動を行っている日本マンドリン界のトッププレーヤーの一人である。
遠藤隆己氏の音楽の特徴は、マンドリン奏法上の二つの要素である単打ピッキングとトレモロの演奏における類まれな、澄みきったタッチの端正なピッキングと、流麗かつ細やかなトレモロによる音色の美しさにある。それに加えて、上品で素直な音楽構成力を土台とした表現に込める感情の豊富さと、その感受性の深さは将に天性のものであり、技巧に相まってのこの音楽性の高さこそが氏をして真の音楽家たらしめているといえよう。
19世紀イタリアにおいてムニエル、カラーチェにより完成されたマンドリン音楽芸術は、その本質を、軽やかなリズムと浪漫溢れる歌心による美しくも哀愁に満ちたメロディとに持っているが、その感性が氏の音楽に一致し、氏をして正統派マンドリン独奏家の第一人者たらしめている。
マンドリン芸術の本道を行く遠藤隆己のロマンティコ・イタリアーノの響を、このCDレコーディングにより大いに堪能して頂きたい。

荻原正弘