「1」
8月31日から9月1日に行われる「つつじの会、富山研修旅行」に参加する為に、オードリーの朝食の時間を、30分早めなくてはと、毎日、少しずつずらして、慣れさせていた。 長距離の旅も、回を重ねる毎に、気持ちにも余裕が出てくるし、自信もついてくる。 「つつじの会」とは、関西盲導犬協会出身の、ユーザーの会で、研修会も回を重ね、今回、5回目の研修会となった。 京都駅に、8時50分集合である。 西明石駅から乗る、盲導犬ユーザーSさんと、同じ電車で行こうと話していた。 家を6時55分に出る。 緑の窓口が込んでいる事を予想し、京都までの、往復の切符を買う時間も、考慮していたのだが、窓口には、誰一人いなかった。 切符を買って改札口へ。明石駅は、一人でも大丈夫なのだが、その日は、一番後ろの車両に乗る約束だったので、駅員さんにお願いして、連れて行ってもらった。 予定の新快速より一つ早い電車が、あと5分で着くと言う。 はて、どうしよう。心配している事がある。 それは、オードリーのおしっこのリズムである。 何時もは、朝食後、排便、排尿をさせ、出かける前にもう一度おしっこをさせてから出かけると、午後2時までは、大丈夫である。 従って、家を8時以後に出かけるのは、心配はないのだが、朝食後、トイレをすませ、直ぐに出かけなくてはならない時は、出かけ先で、遅くとも10時頃までに、トイレをさせなくては、失敗する可能性が高い。 京都には、8時43分に着く。京都駅の車椅子トイレでさせるつもりにしているのだが、場所をよく知らないので、尋ねなくてはならないし、他の人もさせるとなると、ますます気持ちが、急かされる。 一つ前の電車だと、それよりも15分の余裕ができる。 私の頭の中は、目まぐるしく回転しながら、よし、電話をしようと、ホームに待って並んでいた人に、「公衆電話はこのホームにありますか?」と聞いてみた 「はい、ありますよ」 「近くにありますか?」 「いや、ずーっと前の方です。」 困ったな。携帯電話は主人から借りては来なかった。 一回90円だと聞いていたので、よし、100円払って、携帯電話を借りようと、「あの、携帯、お持ちでしょうか?」 「持っています。」 「あの、貸してはいただけないでしょうか?」 「いいですよ。」 断られると思っていたのだが、その男性は、何処の誰とも知らない私に貸して下さった。そして、番号を聞いて、繋いでくれたのである。 なんと、優しい人であろう!! Sさんのご主人が出た。Sさんは携帯持っているらしいのだが、「繋がるかどうかわからないけれど、連絡するから、前の電車に乗って」と、言ってくれた。 もし、繋がらなかったら、Sさんは、京都まで、心配するだろうなと思いつつ、やはり、早いのに乗る事にした。 「助かりました、どうも有難うございました。」と言いながら、電話代を渡したのだが、その男性は、「いいです、いいです」と、どうしても受け取ってはくれない。そうしている内に、電車が入って来た。 どうしても、受け取っては、もらえそうにないので、「本当に助かりました。本当に、本当に、有難うございました」と丁重にお礼を言った。 電車は、そんなに多くはなかった。 開閉しない側のドアの所に、オードリーをダウンさせようと、進んだら、人に触れた。 誰かが、私の手を取って、後ろの壁に手を持って行ってくれた。 空いている場所を教えてくれたのである。 そこに、オードリーをダウンさせる。 三宮駅で、多くの人が降りる気配。 横に立っていた人に、「席は、空いていますか?」と、聞いてみた。 その人は、「いっぱい空きましたよ」と言いながら、空席に案内してくれる。 とても助かった。 京都駅は、慣れているので、一人で、集合場所の中央改札口までは、行ける。 未だ、来てはいないだろうなと思いつつ歩いていたら、オードリーの尻尾が、ビュンビュンと、揺れるのでこれは、誰かが来ているなと判断できる。 オードリーが、グイグイ引っ張って行く所へ行くと、それは、つつじの会の、会長、ご夫妻であった。 早くから来て皆を待っていて下さるのだなあと、暖かい気持ちになる。 車椅子トイレまで、奥さんに、案内してもらった。 ここのトイレは初めてである。早速させてみると、けっこうの量していた。 ああ、良かった。これで宇奈月まで、安心である。 トイレの場所を覚えようと、トイレから改札口に曲がる所まで、歩数を数えると、54歩であった。 今度来る時は、多分、一人でも、ここの車椅子トイレまでは、いけそうで嬉しい。
「2」集合場所に戻ると、ボツボツ研修会に参加する人が集まって来た。 心配したであろう、Sさんが来た。 「明石から、乗って来ないから、車掌さんに、探してもらったけれど、いないというから、もう、どうしたのかと・・・」 やはり、連絡は、つかなかったようである。 申し訳なかったが、事情を話して、許してもらう事にした。 今回の参加者は、盲導犬が16頭、ユーザーが18名、関西盲導犬協会会長御夫妻と職員2名、ユーザーの家族、賛助会員合計37名である。 それに、富山の現地のボランティアさんが、手伝って下さる事になっている。 広島から参加の、ユーザーF夫妻は、前日から、訓練センターに宿泊しての参加だと言う。 二人とも、ユーザーで、タンデム使用者である。 タンデムとは、1頭の盲導犬を、夫婦、親子、兄弟が、二人で使用しているもので、日本では、約20組ぐらいいる。 急用ができて、次の電車で行くという職員のOさんを除いて、全員が集まった。 ペアーの組み合わせが決まり、私は、賛助会員のIさんと一緒になった。 「どうぞ、宜しくお願いします」と挨拶である。 9時8分発、富山行き、サンダーバードに、乗り込んだ。 贅沢にも、グリーン席である。 指定席が取れなかったので、グリーン席になったのであるが、グリーン席など、めったに乗らない私、何だかもったいないような嬉しいような、2度と乗る事はないだろうなあと思いつつ、子供みたいにはしゃぎたいような私であった。 グリーン席は、とてもゆったりしている。 足を乗せる台が、椅子の下と前方に、2ヶ所もあり、オードリーはゆったりと、ダウンさせられた。 Iさんは、パピーウォーカーさんをされた方でもあり、現在は、引退犬と、生活されていて、協会の行事にもお手伝いをして下さっている方であった。 研修会に参加するのは、これが初めてだと言う。 グリーン席がどうなっているのか、説明してもらった。 横一列が、通路をはさんで、二人掛けと一人掛けの、3人だと、この時、初めて知ったのである。 新幹線の感覚で前の席の背もたれから台を探したがない。 Iさんが、肘掛の蓋をあけると、棒みたいなのがあって、それを引き出して90度回転させると台がセットできると教えてくれた。 成るほど、こうなってるのか。まるで、子供みたいになんでも珍しがっている私がそこにいた。 しばらくして、乗車券を調べに来た。グリーン席券は、全員まとめて買って下さっていたので、京都から富山までの乗車券だけを、往復買った。 車内販売の人が回って来た。 グリーン車には、ワゴン車を押して売りには来ない。注文を取ってから、後で、配りにくる。 富山まで、オレンジジュースと、アイスクリームを、食べながら、Iさんと話も弾んだ。 電車が、金沢に着いた時、未だ、視力が、0,2あった頃、友達4人で、能登半島を旅した事を思い出してしまった。 九州に住んでいた頃である。あの頃は、私も未だ若かった。懐かしい。
「3」11時52分、富山駅に着いた。 ホームに降りると、今回の研修会を一年前から、計画し進行してくれた、富山在住の、盲導犬ユーザーFさん御夫妻が、私達の到着を待っていてくれた。 人も犬も、トイレタイムである。皆、所定の場所で、犬のトイレをさせる。 オードリーも宇奈月まで大丈夫だと思ったが、やはりさせる事にする。 富山鉄道では、私達団体専用の、車両を増結して下さったとの事。 とても有難い。 12時15分、富山駅を発車した。 しばらくして、窓から、薬師岳、立山が、遠くに見えるという。 登山家は、こういう山を、目指して、上るのだろうなあと思いながら、Iさんにお願いして、見える大きさに、指で、山の輪郭を描いてもらった。 指の動きを触らせてもらいながら、そんな形をしているのかと、車窓から映る山を思い描いて見た。 そうこうしているうちに、弁当とお茶が配られた。 3種類用意してあった。私は、輪っぱ弁当を選んだ。 初めて聞く名の「輪っぱ弁当」は、どんなものだろうと、開けてみたら、鰻寿司みたいなもので、蓮根、椎茸などが、寿司の上にちりばめてあった。 食べている所へ、富山のFさんの奥さんが、手作りの茄子の漬物を弁当にのせて下さった。とても美味しかった。 それに、笹寿司も一つ頂いた。笹寿司を食べるのは、初めてである。 この熊笹は、腐らせないようにする成分があるらしい。 手を切らないように慎重に解く。中から四角形のキッチリとした形でピチッと、つまっていた寿司が出てきた。 これもとても美味であった。 お腹いっぱいになった。 宇奈月に着く間、部屋割りの名簿や、予定を書かれた点字が配られ、これからの事についての説明があった。 13時50分、宇奈月駅に着いた。 改札口を出て、階段を降りると、涼しげな、噴水の音。 これは温泉だと言うので、手を浸けてみたら、暖かい。宇奈月温泉のイメージが脹らんできて、なんだか豊かな気持ちになった。 宿泊先の黒部荘までは、歩いて5分で着いた。 フロントで、黒部荘の、方の歓迎の挨拶とホテル内の説明があった。 水道の水は飲まないように・・・。いや、飲んでもいいんですよ。でも飲まないで、水の欲しい人はフロントに申し出るようにと話された。 そして、売店を夜10時半まで開けて下さるとの事であった。 部屋は、滋賀から参加した、ユーザーのKさん、賛助会員のIさんと3人一緒で、和室である。 Iさんに、部屋の説明をしてもらった。 14時15分から開会式が始まる。ゆっくりなんて、してはいられない。 Kさんと会うのは初めてである。MLに、よく投稿している人だったので、私はKさんの事はよく知っていた。 時間がないので、そこそこに挨拶してから、オードリーにダスターコートを着せて、会場へ。
「4」開会式である。 つつじの回、会長の挨拶、そして、関西盲導犬協会、S会長の挨拶があってから、研修会である。 今回の研修会は、何時もと違って、ユーザーとして日ごろ思っている事、又、職員の人、パピィウォーカーさん、コートクラブの人、引退犬ボランティアと、それぞれの立場から、思っている事について、話合おうという事であった。 質問、要望、意見、体験等、ドンドン出てきて、とても活発である。 アッと、言う間に、予定の時間は過ぎてしまった。 18時まで、休憩となった。 部屋に帰って、イルザちゃんとオードリーを、ドアと、上がり口の所にダウンさせて、挨拶もそこそこだった3人は、待っていましたとばかり、お茶を飲みながら、おしゃべりである。 滋賀のKさんは、一般の人と一緒に、PTA会の役員をしていると言う。 とても活発な人である。 おしゃべりに夢中になっていたので、入浴の時間がなくなってしまった。 「懇親会まで、30分しかないわね。お風呂入れないね。もう少し時間があったら良かったね」と・・・ おしゃべりに、夢中になってた事、棚に上げている私達であった。 そこで、イルザちゃんとオードリーの食事とトイレタイムになった。 18時、懇親会が始まった。 会長の挨拶、ホテルの人の歓迎の挨拶、と挨拶が続く。 そして、ビールで乾杯!! テーブルには、いっぱいご馳走が並んでいる。 刺身、カニ味噌豆腐、蛍イカの煮物、カニ、天ぷら、貝の鍋物、豚肉、茶碗蒸マダマダいっぱいあった。 尼崎市からユーザーのYさんと一緒に来た、隣の席のボランティアさんが、料理の配置を説明してくれた。 いつもだと、安心してビールを頂くのだが、今夜は控えなくては・・・ 懇親会終了後、20時半から、風の盆、おわら流しの見学にいくからである。 カニも、蛍イカも美味しい。特に、カニ味噌豆腐が、とても美味しかった。 料理が多くて、全部食べられなかった。 楽しい懇親会も終わり、いよいよ、待ちに待った、越中おわら風の盆宇奈月編の見学の時間が来た。 オードリーのトイレをさせて、スタンバイである。
「5」いよいよ、楽しみにしていた、風の盆、おわら町流しの見学である。 宇奈月の数名のボランティアさんが、手伝って下さる。 私を案内してくださったのは、I・Sさんという人であった。 「どうぞ宜しくお願い致します。」と挨拶である。 昼間は、暑かったのだが、夜になるととても涼しい。 ワクワクしながら、ホテルを出発。 I・Sさんは、手引きをするのは初めてだと言う。 とても優しそうな感じであった。 富山地方鉄道宇奈月温泉駅の近くに、舞台があり、多くの観光客が集まっている。舞台では、何やら、楽しそうな会話をしていた。 周りは人、人、人である。 おわら町流しの踊りの説明が始まった。 「チョチョチョンと、顔の前で手を叩いて、左の腰の前でチョンと手を叩きます」と説明されると、会場に集まっていた多くの人が一斉に叩いた。 私は、I・Sさんが、されるのを、手で触らせてもらいながら、私もやってみる。 「いやそうではなくて、最後のチョンは、こんな風に」と教えてくれる。 「はい、もう一度、やってみましょう」と、舞台の上から声がかかると、会場の人が、一斉にチョチョチョン チョンと手を叩いて踊る。 次は、左右のてを胸の高さで、右手は掌を上に、左手は下に向ける。 そのままの位置で、今度は、左右の掌を反対に向ける。 又、掌を最初の向きに戻す。 「はいそれでは、もう一度」と舞台から声がかかる。 私は、やりながら、こんがらがって来た。 どっちが、どっちを向けたらいいのか、これは、ちょっと・・・ウ〜ム! まだ、完全に覚えていない私など、かまわず、踊りの教えはドンドン進む。 I・Sさんの動きを触らせてもらいながら、なんとか、最後までぼんやりと分かった。 会場で、鼓弓と三味線、太鼓に合わせて、円を描きながら、踊り始めた。 私もその列に加わって踊る事にした。 両手を空けなくてはならないので、オードリーのリードを、ショルダーバックの紐に繋いで、歩きながら踊る。 人が多くて前には、ほとんど進めない。 オードリーは、私の左にピッタリくっついていてくれる。私の右にはI・Sさんがピッタリ横にいてくれるので、安心して、踊りに集中できた。 やはり、左右の手を、同時に反対の方向に向ける時に、はたと、迷ってしまうので、踊りが他の人より、遅れるらしい。 チョチョチョン チョンの手を叩く音で、私の踊りの遅れが分かる。 このチョチョチョン チョンが、私の目印となるので、助かる。 途中で、分からなくなった時は、I・Sさんの踊りを触らせてもらう。 どれだけ踊っただろうか。やっと、チョチョチョン チョンが、皆と合うようになってきたところで、練習は終わってしまった。 2〜3人の、盲導犬ユーザーも、練習の輪に加わって踊っていたと言う。 「楽しかった、私も踊ってきた」と仲間のいる所へ戻る。 「うまいじゃないですか。楽しんでますねぇ」と、訓練士のNさんが言った。 練習は終わり、いよいよ、哀調を帯びた鼓弓と、三味線、太鼓の調べに乗せて、宇奈月の夜を練り歩く、おわら町流しが始まった。 「私もおわら町流し、踊ってこようかな」 「門限は10時だから、いってらっしゃ〜い」 という訳で、I・Sさんと一緒に、おわら町流しの列に加わった。 人、人、人である。 踊りながら歩いていると、「お母さん、お母さん、来て来て」と、子供の声。どうやら盲導犬のオードリーを発見したらしい。 しばらくオードリーの横を一緒に歩いている様である。 イカの焼く臭いが、漂ってくる。出店なのだろうか。 踊りを踊る人、見物する人と、宇奈月の夜は、賑わっている。 どうやら、列から、左にはみ出てしまうようである。 「こっち、こっち」と、I・Sさん。オードリーは、道の左端を歩くように訓練されているので、そうなるのである。 右に行き過ぎたら、I・Sさんにぶつかるので、左に行けば良い。 着物の帯に、私の手が触れた。 私の前には、本場の踊り手さんが、踊っていた。 随分歩いたようである。 ほぼ一週したようだ。 そろそろホテルに帰らなくてはと、おわら町流しを抜けて、ホテルに向かう。 オードリーの尻尾が勢い良く、揺れだした。 グイグイ引っ張って行く。 「お帰り」と訓練士Nさんであった。 皆が帰ったかどうか、ホテルへ向かう道の途中で、確認しているのである。 「多分、えみさんが最後だと思います。皆帰りましたよ」 最後の最後まで、風の盆 町流しを楽しんだ私であった。 町流しに加わったのは、どうやら私だけだったらしい。 うちわも、もらって、もう幸せな夜であった。 I・Sさんの話だと、見物している人が、盲導犬と歩きながら、踊っているのが珍しいのか、多くの人がこちらへ向けて、カメラのシャッターを切っていたと言う。 ホテルの売店で、お土産を買うまで、ISさんは、一緒に行動してくれた。 「では、お休みなさい。又、明日」と、ここから家まで20分かかるというI・Sさんが帰って行った。 部屋では、オードリーとイルザちゃんの、場所を決め、寝かせて、Iさん、Kさんと、又、話が弾む。 窓を開けると、とても涼しい風が入ってくる。クーラーは要らない。 12時過ぎまで話していたが、明日の事を考えて、眠る事にした。 二人は、未だ話していたようであったが、私は何時の間にか夢の中であった。 2002年9月13日
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