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自然で素朴な映画

●斉藤泰隆さん
●絵の中のぼくの村(東陽一監督)

 ともに絵本作家である田島征彦(ゆきひこ)氏と田島征三(せいぞう)氏の双子の兄弟が、高知県の「田舎の村」で、溢れるような自然に囲まれて過ごした少年時代を“再現”した作品である。双子の弟の征三氏による、映画と同じタイトルの自伝的エッセイ(くもん出版刊)が土台になっている。
幼い田島兄弟を演じるのは、全国からのオーディションで選ばれた、高知県の小学校2年生(当時)の松山慶吾と翔吾の兄弟。小学校の教師であり、モダンでさわやかだが、しんの強い一面を併せ持つ母親役を原田美枝子が好演している。また、教育関係の仕事をしている役人で、単身赴任の都合からか滅多に家に帰ってこない、普段は無口だが怒ると怖そうな父親役を長塚京三が演じた。そのほかに、小松方正、岩崎加根子、杉山とく子などが出演している。
舞台は、1948年の高知の田舎。山と川と緑に土という起伏のある自然に囲まれた絶好の環境。勉強はそっちのけ、ナマズを捕まえたり、鳥と格闘したり、よその畑を悪戯したりして、周りの大人達からときに怒られたりしながらも、親の自然な愛情に包まれてすくすく成長する兄弟の素朴な姿が見ものである。
 誰もが経験でき、また誰もが経験してくることのできた少年の自然な営みが、自然に描写されているところが、この映画の「ポイント」である。それが「現実味」の強みを発揮するからか、鑑賞者の心の扉は自然に刺激されて、自然な感動を呼び起こしてくれる。
 兄弟を演じた松山兄弟の無邪気な演技もなかなか絵になっていた。
私は、いつのまにか、スクリーンの映像に、自分の子供の頃の情景を重ね会わせていた。東京の下町で育ったので高知のような自然を知らないが、下町には下町なりの自然が確かにあった。
 この映画を観たのは2年前の夏、東中野の映画館であった。何の脈絡もなしにたまたま立ち寄ったところ、ポスターを一瞥して観ることを即決した。“棚からぼた餅”ものの映画なのであった。それから時間が経過したが、もう一度観てみたいと思う。
 なお、この映画は比較的地味な作品であるが、第46回ベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞している。


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