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エクニセイカツ

breakfast

*オレンジ*

 目をさますと、睦月はもう台所にいた。
「おはよう。目玉焼き、食べる?」
 私は首をふった。
「オレンジは?」
「食べる」
 シャワーをあびてもどると、睦月はすでに食器を洗いおわっていた。くし型に切られたオレンジが鮮やかな汁をしたたらせ、ガラスのお皿に盛ってある。
 私がそれを食べているあいだに、睦月は部屋の温度が一定になるようにエアコンをセットし、一日のBGMを選んでくれるのだ。

岸田笑子 ―きらきらひかる―
 いつものように、睦月はドーナツをどっさり買って帰ってきた。睦月の病院では、夜勤明けは午前中一杯が非番になる。午後は通常勤務なので、病院で休憩していた方が効率がいいのだが、睦月はいつも帰ってくるのだ。ドーナツを抱えて帰ってきて、一緒に朝食をとり、シャワーをあびて、新しいワイシャツに着替えてまたでかけていく。新しい一日は新しく始めないとね、というのが睦月の基本方針だ。

岸田睦月 ―きらきらひかる―
*ドーナツ*

*シャンパン*

 僕は、笑子が風呂に入っている間に朝食の仕度をした。はじめ、笑子の好きなホットケーキにしようかと思ったのだけれど、余計なことをして「患者あつかい」といわれるといけないので、チーズトーストとサラダにした。アルコール分二パーセント未満、という子供用のシャンパンを冷凍庫に入れていそいで冷やす。外国のホテルにはよくシャンパンつきの朝食メニューがあり、いつかそれをまねしてだしたら笑子にとても講評で、以来ときどき僕たちは朝食にシャンパンを飲む。

岸田睦月 ―きらきらひかる―
 たくさんのジャケットと数本のジーンズ、Tシャツを何枚かと靴下を二足ならべたところで、ようやく少し安心したので私はシャワーをあび、サラダを食べた。サラダには赤カブがたくさん入っていて、しゃりしゃりしておいしかった。はやく睦月が帰ってくればいいのに、と思いながら時計をみると、まだ十一時前だ。

岸田笑子 ―きらきらひかる―
*赤カブのサラダ*
*フレンチトースト*

「顔を洗ってらっしゃい。フレンチトーストつくってあげるから」
「うん」
 でも、ちっとも食欲がない。
 おなかがすいていなかったから、フレンチトーストをフォークで切って、はじから少しずつのろのろと口におしこんでいたら、
「はやく食べちゃいなさい。もうじき、かよこが来るわよ」
とお母さんが言った。

みのり ―綿菓子―
 朝、台所におりていくと、ママはミルクをわかしながら、ハッピーバースデイ、ダイ、と言ってにっこりした。お姉ちゃんはテーブルについていたけれど、何も言わないで教科書を読みながら、トーストをかじっていた。部屋じゅうにカリカリに焼いたベーコンの匂いがただよっている。

ダイ ―こうばしい日々―
*トーストとベーコン*
*オムレツと紅茶とラスク*

 バターのたっぷり入ったオムレツに紅茶、それからラスクがテーブルに並んでいる。絵みたいにきれいに晴れた朝、僕とお姉ちゃんはやっぱり一言も口をきかずにすわっていた。おとといのけんか以来、ずっとこうなのだ。

ダイ ―こうばしい日々―
「週末、ウィルと映画に行ってもいいでしょ」
 トーストにピーナツバターをぬりながら僕は言った。
「何をみるの」
 スクランブルエッグのお皿をならべながら、ママがきく。
「インナー・スペース」
 くだらないものが好きなのね、とお姉ちゃんが口をはさんだ。
「ほっとけよ、SHIT」
「ダイっ。そんな言葉は使わないでちょうだい」
 ママがふりむいて言った。僕は、ピーナツバターの上にさらにブルーベリージャムをかさねたトーストをかじる。僕の好物だ。

ダイ ―こうばしい日々―
*トーストとスクランブルエッグ*

*いつもとおなじもの*

 目をさますと天気の良い冬日で、果歩はまずシャワーをあびた。リビングの小さなティーテーブルで、いつもとおなじものをぼんやり食べる。バターをたっぷりつけたトースト、果物をどっさり、それに紅茶。紅茶には牛乳をいれ、カフェオレ用のボウルで飲む。

野島果歩 ―ホリー・ガーデン―
 次の日、父は普通に朝起きて、普段どおりの朝食――セイロン紅茶二杯、半熟卵一つ、バナナ一本――を食べて出社した。母も普段と変わりなくみえた。

宮坂・父 ―流しのしたの骨―
*いつものメニュー*

*シリアルと玉子、*
*温野菜に紅茶*
 シリアルと玉子、温野菜に紅茶という朝食――私たちきょうだいは、みんなこの朝食で育った。メニューの自由は、高校を卒業するまで認められないのだ――を律が食べているあいだ、しま子ちゃんは洗面所にこもって紙や顔を念入りにメイクアップしている。

宮坂律 ―流しのしたの骨―
 コーヒーを入れ、りんごを食べていると母のビデオがおわった。
 りんごは、噛めば噛むほど口のなかでしゃりしゃりとこまかく砕ける。いちごやぶどうやグレープフルーツとちがうのはそこだ。
 私はうなずいた。朝食のフィニッシュに、棚にあった『さゝま』の最中を二つ食べる。母は微笑んだ。

宮坂こと子 ―流しのしたの骨―
*コーヒーとりんごと最中*
*ブリオッシュとコーヒー*  私は二つめのブリオッシュをアルミ箔に包んでオーブントースターに入れ、コーヒーをつぎたしに台所に立つ。
「スタンプと本、どっちがいい?」
 母の質問に、本、とこたえ、私はあたたかなブリオッシュをほおばった。
 「じゃあこれを読んでちょうだい。歯切れよくね。しおりのところから」
 背筋をのばして母が言い、私は薄くいれたコーヒーを、ブリオッシュの上からいそいで流しこむ。

宮坂こと子 ―流しのしたの骨―
 私は、ポーチドエッグをのせたトーストをじっとみながら返事をした。意識を集中させることが大事なのだ。ポーチドエッグをのせたトーストは、最初の一噛みで黄身がどろりと溢れだす。
 トーストの山場をこえ、私は紅茶を一口のんで、今度はちゃんと、ゆっくりとこたえた。

宮坂こと子 ―流しのしたの骨―
*ポーチドエッグをのせたトースト*

*白粥*  衿のうちでは、朝食は白粥に味噌汁、塩昆布に玉子焼きときまっている。家族三人それを揃って食べ、食後のお茶をゆっくりとのむ。三度の食事の中でも、朝食はとりわけ大切だとスエ子が考えているのだ。

竹田衿―薔薇の木枇杷の木檸檬の木―
 雪の降る寒い朝で、ぼくはいつものように窓のまえに立ち、泡の立ったミルクコーヒーを啜っていた。
 そこで、ぼくたちは一緒にごはんをたべた。台所のヒーターのそばに立ち、外をみながら。
 立ったままたべるのはお行儀が悪い、と、ぼくのガールフレンドにいつも叱られるのだけれど、どっちみち朝はクロワッサンだけなので、わざわざテーブルに食器をならべるまでもないのだ。あたたかなパンくずを窓台にまいてやると、小鳥ちゃんはすこしついばんだ。

ぼく ―ぼくの小鳥ちゃん―
*クロワッサン*

*バターをたっぷり使ったいり玉子*  彼女は愛車をとばし、本当に15分でやってきた。パンの包みを抱えている。みとれるような手際のよさで洋服だんすからぼくの服を選びだし、ラジオをつけ、コーヒーをわかし、切るとなかから湯気のでるフランスパンを切り、バターをたっぷり使ったいり玉子をつくる。彼女が入ってくると、ぼくの部屋はいつでも春みたいにあかるくなる。

ぼく ―ぼくの小鳥ちゃん―
「それで、これからどうするの?」
 グレープフルーツをむいてコーヒーをいれ、パンをあたためながらぼくは訊いた。
「はぐれてしまった仲間に会える見込みはあるのかな」
 あたためたパンをちぎって小鳥ちゃん用の皿にまく。つめたいグレープフルーツとまざらないように。

ぼく ―ぼくの小鳥ちゃん―
*グレープフルーツ*
*バタトースト*

 一度だけ、小鳥ちゃんにほめられたことがある。
「あなたは料理が上手だわ」
 小鳥ちゃんは考え深げな表情で、おもおもしくそう宣言した。朝食のバタトーストをわけてあげたときだ。

ぼく ―ぼくの小鳥ちゃん―

*広尾店*

*黒猫軒MENU*